橋本ヒロ子(十文字学園女子大学名誉教授)
2021年6月30~7月2日、女性のエンパワメントのための国連機関である「UN Women」とフランス政府により、「平等を目指す全ての世代フォーラム(Generation Equality Forum,以下、GEF)」がパリで開催された。残念ながら、日本のマスコミはこのフォーラムについて報道をしていない。会議前に朝日新聞が開発途上国の女性・少女の状況に関連してこのフォーラムに言及しただけである(朝日新聞6月20日 Think Gender ジェンダーを考える)。
このフォーラムは、もともと、1995年に国連が北京で開催した「第4回世界女性会議(北京会議)」から25年に当たる2020年の7月に予定されていた。しかし、コロナ禍により、延期された。GEFは第1回世界女性会議が開催されたメキシコシテイでも、今年3月29-31日に開催された。パリでの会議は全世界からネットでアクセス可能であり、UN Womenの報道では、パリ会議の登録者数は4万人ということであった。(しかし、筆者をはじめ、ネットのアクセスは極めてトラブルが多く困難であったという不満が多かった。)ちなみに北京会議には、政府間会合に17,000人の政府代表、メディア、NGO、またNGOフォーラムには3万人、合計47,000人参加と国連報告書には書かれている。
パリのGEFには、ヒラリー・クリントンなどジェンダー平等の著名人が現地参加したが、日本政府については、ネットや録画による参加であった。橋本聖子東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長は、スポーツとジェンダーのイベントで、オリ・パラについてネットで発言し、丸川内閣府特命担当大臣が「ジェンダーに基づく暴力に関する行動連合ハイレベル・イベント」において、ビデオメッセージで、ステートメントをしたということである。
GEFと世界女性会議との大きな違いは、「GEFは、国連加盟国による政府間会合ではない」ということである。例えば、女性運動にとって、いわゆる聖典とされている「北京行動綱領」については毎日夜中まで、参加政府代表が大会議場で、パトリシア・リクアナン議長の下で、パラグラフごとに検討して、合意(合意できない政府は留保)し、最終日の夜明けに採択された。また、筆者が2011-2017年まで日本代表として出席した国連の女性の地位委員会(CSW)においても合意結論については、多様な国が地域別に選出された45か国の委員国全ての合意が必要であるため、留保は出来ない。
2000年に入ってから、第5回世界女性会議を開いて、北京行動綱領の次のステップに進むべきだという意見がNGOから主に出ている。しかし、国連や関係国の間では、CSWにおける後ろ向きな議論の状況と政府間議論のNGO傍聴の拒否、2000年6月に開催された国連特別総会における反動派の動き、国際的に各国の政治体制が反動的になっている現状から、第5回世界女性会議を開催しても、合意文書の内容は、北京行動綱領の内容から逆戻りする可能性が極めて高いことが推測された。そのため、これまでの世界会議の準備、合意文書の内容は、毎年のCSWで準備され議論されてきたが、GEFについては、議題にも上がっていない。
GEFについては、UN Womenが2016年のCSW開会前にユースフォーラムを開催し、その成果をCSWの開会式等で報告するという形で始めたユースフォーラムを通して、若い層の意見を取り入れ始めたことから準備されたと理解している。
GEFでは、コア・グループが、UN Women, フランス及びメキシコ政府から各1名、NGO 代表のAWID(Association of Women in Development)とWomen for a Changeから各1名、Generation Equality Youth Taskforceから2名の合計7名で構成されており、更に21名によるThe Civil Society Advisory Group to the Core Groupが設置されている。Generation Equality Youth Taskforceは30名の構成で日本から1名選出されているが、世界の女性人口の半分以上を占めるアジア太平洋地域のプレゼンスは極めて低く、GEF自体の運営もアジア太平洋地域の女性たちの実態とはかけ離れている。
そのため、アジア太平洋地域のNGO連合体のAPA(ASIA PACIFIC ALLIANCE FOR SEXUAL AND REPRODUCTIVE HEALTH AND RIGHTS)、IPPF ESEAOR (INTERNATIONAL PLANNED PARENTHOOD FEDERATION East and South East Asia and Oceania Region)、WGNRR (WOMEN'S GLOBAL NETWORK FOR REPRODUCTIVE RIGHTS)からUN Women に対して、要望書を提出するために、日本でもSDGs ジャパン ジェンダー・ユニットのメーリングリストを通してジョイセフが参加団体になることを呼びかけている。
6領域における2026年までのグローバルなジェンダー平等のための加速計画(Global acceleration plan for gender equality)が成果であると思われるが、約4兆4000億円の各国、企業などからの2026年までの支援のコミットメントが、加速計画の内容よりも先に挙げられている。
支援金はこの計画の実施に必要な経費ではある。ヌクカUN Women事務局長の開会及び閉会挨拶を聞いても、内容よりも支援に重点が置かれていたような印象を与える。
カバーされている領域について、グローバルなジェンダー平等のための加速計画と北京行動綱領を比較すると以下のようになる。具体的に内容についての分析比較が必要である。
GEF ジェンダー平等のための加速計画 | 北京行動綱領(12領域) |
1.ジェンダーに基づく暴力 | D女性に対する暴力 |
2.経済的正義と権利 | F女性と経済 |
3.身体の自律性と性と生殖の健康と権利 (SRHR) | C女性と健康 |
4.気候正義のためのフェミニストの行動 | K女性と環境 |
5.ジェンダー平等のための技術とイノベーション | B女性の教育と訓練 |
6.フェミニスト運動とリーダーシップ | G権力及び意思決定における女性 |
GEFでは、加速計画の6領域の他に、女性と平和に関して女性・平和・安全保障と人道援助に関する協定も策定され、7領域と焦点化された。2026年に向けた加速計画の詳しい内容については、別の機会に述べたい。
(2021年08月16日 掲載)