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特別寄稿:急変するアフガニスタン‐今、起こっていること、平和のために訴えること、行うこと‐

2021年8月15日のアフガニスタンでの政変を受けて、一般社団法人平和村ユナイテッドの代表理事の小野山亮さんに寄稿いただきました。

小野山 亮(おのやま りょう)
一般社団法人平和村ユナイテッド 代表理事 

 

アフガニスタンに平和を (002).JPG

アフガニスタンに平和を ©平和村ユナイテッド

「制圧」の日

 8月15日。「タリバンがジャララバード制圧」…何?意味が分からない…

 その日、朝起きると世界が変わっていた。関係者からもらった連絡や報道に並ぶ文字に目を疑った。タリバンが戦わずしてジャララバードを制圧したのだと…

 ジャララバードはアフガニスタン東部ナンガルハル州の州都。首都カブールと隣国パキスタンのペシャワールを結ぶ極めて重要な拠点都市である。私たちの団体は現地のパートナー団体とともに、州都ジャララバードから同州各地に展開し、活動を行っている。

 すでにこのときまでに、アフガニスタンでは、米軍を含む外国軍の完全撤退を前に戦闘が急速に拡大・激化し、タリバンは国土の多くを支配下に置くようになっていた。状況の変化は、ある程度の想定や覚悟はしていたが、この時点で、変化はそれらをはるかに超えるものだった。

 そしてジャララバードの制圧。想像をはるかに超え、一瞬、意味が分からないまでのものだった。拠点都市のジャララバード、またナンガルハル州では、首都カブール以外の最後の拠点といった様相になり、激しい戦闘が起こる可能性はあるのではないかと危惧していた。しかし、戦わずして制圧とは…

 私はあわてて現地の関係者と連絡を取った。通信がうまくいかない関係者もいて、不安も覚えたが、つながって話をすると、関係者はみな無事だという。特に戦闘はなく、町中にはタリバンの戦闘員がみられるという。何もなかったかのような様子が広がっていることに、再び、現実のことではないような気持ちになった。

 一方で、この全く一変した世界に、人びとは外に出ず、家にとどまっているようだった。混乱などを避けるため、外に出ないようにといったタリバンからの指示も出ているようである。関係者の無事を確認した私は、現地の人たちは、お互いの安否確認や様々な対応などにも追われているだろうと考え、あまり長くならないようにして、いったん現地との通信を止めた。また、通信状況がよくないままの関係者もいた。不安ではあったが、複数の関係者への連絡は可能な状況が確認できたため、信頼できる現地での対応に任せることとした。続く数日間、一定の連絡は保ち続けた。

 その後、首都カブールも含む、アフガニスタンのほぼ全土がタリバンの支配下に入った。

人びとの様子、デモそして涙

 数日後、人びとも外出などがある程度できるようになったようだった。あらためて、現地の状況がどのようになっているか把握することに努めようと思った。

 8月18日。ある現地の人と話しているときのこと。銃撃が近くで起こっているようだという。実はその前にすでに、何か町の中で人が集まっているということは別の人から聞いていた。その後、音が大きくなってきたということで、話を中断することにした。

 やはり…何か起こってしまったか。制圧といっても何か起こっているに違いない…

 話を中断していた現地の人からは、しばらくして連絡があった。その人がいる場所からは話せる状況になったようだった。銃撃の死傷者の数などは分からないとのことだった。話を再開した後、その人は、この銃撃とはまた別の事件のことを話し始めた。ある事件で、小さな子どもが巻き添えと思われる銃撃で亡くなったのだという。その人の姿を映していたカメラがふっとそれた…しばらく声も止まり、カメラは人が写らない部屋の片隅を映し出している。その人は感情をこらえられずに、泣いていた。

 話をしていた時に起こった銃撃については、詳細は後で報道から知った。この日は、アフガニスタンの独立記念日の前日にあたり、すでに掲げられていたタリバンの旗に抗議し、それまでの国旗を掲げる人びとがおり、デモにも発展したようだった。それに対してタリバンが発砲、死傷者が出ていた…また、こうしたタリバンへの抗議デモは首都カブールも含め、ジャララバード以外の地域でも起こっている。

 町の中では女性たちの姿はほとんど見られなくなったようだった。とはいえ、男性たちも、状況の変化に不安を覚え、買い物などもごく近くで済ませるといった状況だという。1990年代のタリバン政権下のような女性の人権侵害への懸念も内外で上がっているが、タリバン側は女性の権利はイスラム法の範囲内で尊重すると述べており、今後が不透明な中、女性たちはほとんど外出をしていないという状況のようである。

NGOの活動

 NGOの活動についても、再開してよいとタリバン側からの許可があったようである。タリバン側にNGOを管轄する部署があり、NGO側との協議なども開始されている。女性たちの活動は保健と教育の分野で許可されたが、ほかの分野については、さらなる決定までは女性たちは家で待機しているようにとの指示が出されているようだ。

さらなる危機が訪れてしまうのか今、平和のために訴えること

 アフガニスタンのほぼ全土がタリバンの支配下に入り、戦闘自体はほぼ収まっている一方で、さらなる危機の可能性も懸念されている。

 いまだタリバンの支配下に入っていないパンジシール州には、反タリバン勢力が結集している。そこには、かつての対ソ連戦や対タリバン戦を戦い、国民的英雄ともいわれる故マスード司令官の息子のアフマド・マスードや、現在の暫定大統領を主張するサレー第一副大統領(タリバン支配前政権時)がいる。

 また、タリバンと国内諸勢力が今後の政権作りを協議しているが、人びとを代表する政府の樹立ができないようであれば、その後の混乱は避けられない。この協議には上記の反タリバン勢力も含まれるべきである。

 人びとによる抗議への発砲なども起こったが、人びとの自由な表現、全ての人びとの人権が保障されることがなければ、こうした抗議がなくなることはなく、むしろ、拡大し、緊迫した事態になりかねない。

 さらに、今後、戦っていた者同士が同じ社会に暮らしていくようになるわけだが、すでに復讐の事例なども報告されているようで、暴力の連鎖が懸念される。

 そして、何ということか…8月26日、カブール空港で爆発事件が起こり、170名以上が犠牲になった。「IS」を名乗る勢力による犯行声明も出されている。様ざまな武装勢力が依然存在しているのである。

 こうした状況を踏まえ、戦闘と暴力の停止、包括的な人びとの層を含む対話による平和的解決、人びとを代表する政府の樹立、全ての人びとの人権の尊重を強く求める。また、国際社会には、そのためのあらゆる働きかけを行うこと、同国が忘れられ、孤立し、苦しむことのないよう多様な分野での支援の継続を行うこと、同国での危険から逃れる人びとの支援を行うことを求める。

 

ピースアクション‐今、平和のために行うこと

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真剣なまなざしで身近にある争いごとの
解決について学び合う活動 ©平和村ユナイテッド

 これまで当団体では、現地パートナー団体とともに、人びとが自ら、身近にある暴力や争い、その解決の事例などを学び合い、平和をつくるための何らかのアクションを立案・実施することを支援してきた。

 行われたアクションは例えば、諸勢力が入り乱れる戦闘地で、住民たちにも様々なグループや考え方がある中、一つになって行うスポーツイベントや、植樹の後に平和公園をつくっていく活動。また、復讐や暴力の連鎖も存在する中、諸勢力の戦闘員や一般市民を含む父親を失った戦争遺児に寄り添い、平和の学びや精神的苦痛の緩和を行う活動、自身・家族・地域のあり方、争いごとの解決などに関する本を読み、議論する活動などである。

 これら平和のための活動は、戦争や暴力が繰り返されてきた歴史から、社会全体が変わらないとまた同じことが繰り返されてしまうという背景から実施しているものである。このことが今ほど当てはまり、この活動が今ほど求められるときはない。

様ざま人びとが一つになって行われた伝統格技イベント!戦闘の爆発音や銃声が聞こえる中、行われた。 (002).jpg

様ざまな人びとがひとつになって行われた伝統格技イベント。
戦闘の爆発音や銃声が聞こえるなか行われた。
©平和村ユナイテッド

 さらに、この活動は当団体の現地パートナー団体の代表が、かつては武力を信奉し、銃をとっていたものの、米軍の軍事行動による市民の被害に抗議するNGOの活動に触れ、対話による問題解決に気づき、当事業の原型を開始したところから始まっている。「自分が変わったのだから、みなが変わることができる」と彼は語る。一人一人が、そして社会が変わることはできる。そのことが、そしてそのための活動が、今ほど求められるときはない。

 アフガニスタンの平和のために、この活動を継続、拡大、深化させていく決意である。(2021年8月28日)

 

<関連資料>

(2021年08月30日 掲載)