MENU

ヒューライツ大阪は
国際人権情報の
交流ハブをめざします

  1. TOP
  2. 資料館
  3. ニュース・イン・ブリーフ
  4. 「この子どもたちが他の人たちの心を変えることができると信じている」 ‐「アフガニスタン緊急-戦闘で親を亡くした子どもたちに平和を!」の活動から

ニュース・イン・ブリーフ サイト内検索

 

Powered by Google


ニュース・イン・ブリーフ Archives


「この子どもたちが他の人たちの心を変えることができると信じている」 ‐「アフガニスタン緊急-戦闘で親を亡くした子どもたちに平和を!」の活動から

小野山 亮(おのやま りょう)
一般社団法人平和村ユナイテッド 代表理事


1_戦闘で親を亡くした子どもたちに平和を.jpeg戦闘で親を亡くした子どもたちに平和を


アフガニスタンの涙

 人びとの悲しみが積み重なっている。

 戦闘で父親を亡くした子どもたちがいます。暗殺で父親を亡くした子ども、商売をしていたお店の近くで起こった銃撃戦の巻き添えで父親を亡くした子ども、一般の村人だったが志願して戦っていた父親が戦闘中に亡くなった子ども、参加していた結婚式での自爆攻撃で父親が亡くなった子ども。現在、平和村ユナイテッドでは、現地パートナー団体とともに、戦闘で父親を亡くした子どもたちに寄り添うべく、活動を実施していますが、活動に参加する子どもたちはこうした子どもたちです。またアフガニスタンでは、紛争の中、敵味方の関係、全く無関係の市民など、様ざまな関係や立場が存在します。子どもたちの父親は、様ざまな主体・勢力の戦闘員・構成員や一般市民を含んでいます。

 数十年にわたる戦争...戦闘、空爆、誤爆、自爆、襲撃事件、暗殺などによるたくさんの死。アフガニスタンには、悲しみと、苦しみと、怒りが積み重なっています。私たちの活動関係者の家族、親族が亡くなる事件もありました。

 何になりたいか聞かれて、爆発物による攻撃で失った父親の復讐を語る兄弟がいました。家族が殺されたのに、なぜおまえは戦わないのかと多くの人に言われたという人もいました。地域の中では、誰が自分の家族を殺害したのか分かっている、だから人は復讐する、と話す人もいました。実際に、復讐心から戦闘に向かう人も多いのです。

 そしてまた新たに、現地では「復讐」と思われる惨殺事件も起こっているといいます。2021年8月にアフガニスタンのほぼ全土がタリバンの支配下に入ってからもうすぐ半年となります。戦っていた者同士が同じ社会に暮らしていくようになる中、復讐と思われる事例を現地から聞いています。復讐については、タリバンがそれを禁じる状況にまでなっています。

 状況が急変した今、また新たに暴力や復讐、その連鎖が積み重なろうとしているということなのでしょうか。

 アフガニスタンの涙。しかし、その先の暴力にはまた暴力が。


「アフガニスタン緊急-戦闘で親を亡くした子どもたちに平和を!」の活動


2_活動に参加する子どもたち.jpeg活動に参加する子どもたち


 社会にある暴力や復讐、その連鎖を何とか断とうと、これまでも、当団体は現地パートナー団体とともに、「力」ではなく、人びと自らが身近な争いごとの解決の事例などについて話し合い、平和のための何らかのアクションをしていく活動を実施してきました。「アフガニスタン・ピースアクション」と呼んでいます。そうした中、タリバンが急速に拡大し、実権を握るという今回の急変でした。

 現地の状況は依然、不安定で、様ざまな武装勢力や抵抗勢力も存在しており、市民によるデモ、それへの発砲事件なども起こりました。上述のように、戦っていた者同士がともに住み暮らすことになる中で、復讐と思われる事件も起こっています。恒常的に人道危機にあったアフガニスタンですが、今回の急変による経済の崩壊から、人道的な大惨事になるとの懸念も上がっています。

 戦闘で親を亡くした子どもたちは、こうした急変の影響を最も受けているといっても過言ではなく、社会にある暴力や復讐とその連鎖、生活困窮、それらの関連も強く懸念されます。こうした事態を受け、緊急のアクションとして「戦闘で親を亡くした子どもたちに平和を!」という活動を紛争地の人びと自身が発案し、現在、食料費配布と合わせ、平和教育、一般教育、精神的サポートを行う「ピースセンター」の運営を行っています。活動に参加するのは、戦闘で父親を亡くした子どもたち150名。

 子どもたちに寄り添い、平和な暮らしができるようにし、さらにこの活動を通じて、社会にある暴力やその連鎖を止め、平和をつくっていくことを目指しています。


3_食料費配布時の様子.jpeg食料費配布時の様子 4_「ピースセンター」の様子.jpeg「ピースセンター」の様子


子どもたちの様子

 子どもたちは、冒頭に説明したように、暗殺、巻き添え、戦闘、自爆攻撃などの状況で父親を失っています。負っている心の傷はあまりに深く、はかりしれません。

 ピースセンターの先生たちが面白い話をして笑わせようとしても笑わない、十分な集中力がない、センターでの活動に興味を示さないといった子どもたちもいるようです。また、子どもたちを伴ってセンターにくる親族からは、時間通りに起きる、他の子どもたちと遊ぶ、学校やマドラサ(宗教学校)に行くなどの、日常の活動にあまり関心を示さないといった子どもたちがいることも聞いています。

 小さなことにもより強い怒りを示すように見える、大きなリアクションをするということもあるようです。例えば、先生にならってレッスンを繰り返してもらうよう、ある子どもに立ってもらおうと思ったところ、この子どもはそうせず、こんな所には来ない方がましだと言い、汚い言葉を使ったそうです。子どもが責められるべきではなく、心身に及んでいる戦争のトラウマだと考えているとのことです。

 また、子どもたちが社会の中に暮らし、他の子どもたちのように感情を持ってもらえるように、活動に関わってもらうようにしているそうです。よって、先生たちはセンターでアクティブ・ラーニングの手法を用いているそうです。先生が話しすぎるのではなく、子どもたちに何かを言ってもらえるように時間やきっかけを与えたり、白板のところに頻繁に来るようにするなどの活動に積極的に参加してもらったりするようにしています。また、先生が質問をしたり、子どもたちに関わってもらいたいときには、立って答えてもらったりするなどです。また、より多く体を動かす活動に子どもたちに関わってもらうようにしているそうです。


5_「ピースセンター」の子どもたちの活動.jpeg「ピースセンター」の子どもたちの活動


「力」ではない世界、「苦しみ」ではない世界。
この子どもたちが他の人たちの心を変えることができると信じている

 子どもたちの経験した過酷な過去、過酷な現実、負っている深い傷。子どもたちに寄り添い、平和な暮らしをしてもらえるようにできるのでしょうか。

 前述のように、かつて、何になりたいか聞かれて、爆発物による攻撃で失った父親の復讐を語る兄弟がいました。社会にある暴力や復讐、その連鎖から、子どもたちを守ることはできるのでしょうか。

 それを可能にするのは、「力」ではない世界、「苦しみ」ではない世界を伝えられることではないでしょうか。

 私たちの活動関係者の中にも、この子どもたちや、他の多くのアフガニスタンの人びとと同様、家族や親族、友人を亡くし、深い悲しみ、苦しみを経験している人たちがいます。そのうちの一人は、家族、同僚、友人のサポートがあって回復できたと話しています。サポートのおかげで「力」や「苦しみ」の世界から離れることができたのではないでしょうか。今回の活動の中でも、活動関係者が子どもたちに寄り添います。さらに、同様の経験をしてきた人たちが寄り添うことで、より、子どもたちに寄り添ったサポートができるのではないでしょうか。子どもたちも皆、同様の経験をしており、子どもたち同士のサポートもあると考えます。

 さらに、活動に参加する子どもたちの父親は、様ざまな主体・勢力の戦闘員・構成員や一般市民です。子どもたち同士、その背景に関わらず、友情を育むことで、ともに平和に住み暮らす世界を信じることができるようになってもらえるのではないでしょうか。

 これまで行ってきた「ピースアクション」の活動の中でも、以前は過激な思想を持つ人間の一人だったが、活動を通して変わったと語る人もいました。また、そもそも、この「ピースアクション」の活動は、当団体の現地パートナー団体の代表が、かつては武力を信奉し、銃をとっていたものの、米軍の軍事行動による市民の被害に抗議するNGOの活動に触れ、対話による問題解決に気づき、この活動の原型として、身の回りからでも始められると、個人として活動を開始したところから始まっています。「自分が変わったのだから、みなが変わることができる」と本人は語っています。「力」ではない世界を知り、一人一人が、そして社会が変わることはできるのです。

 この現地団体代表は、今回の緊急アクションについて、次のように語っています。


「活動に参加する150名の子どもたちが他の人たちの心を変えることができると信じています。この子どもたちが他の人たちにとってシンボルになりうるのです」


 子どもたちの苦しみ、深い心の傷に鑑み、社会はこの子どもたちに寄り添っていかなければいけませんが、それだけではなく、それどころか、この子どもたち自身が他の人たちを変えるのだと。この子どもたち自身が主役だと。みなが主役であることは当たり前のことですが、何とすごい言葉でしょうか。子どもたちに寄り添い、そして子どもたちに寄り添ってもらう。子どもたちに「力」ではない世界、「苦しみ」ではない世界を伝えてもらう、教えてもらう。そうして社会は変わっていく。

 そして、この現地団体代表自身が、かつて武力を信奉していたものの、対話による問題解決に気づいて変わり、平和活動を開始したのです。だからこその力強いメッセージです。とても心に響きます。

 現在、「ピースセンター」に行くのを楽しみにし、将来の夢について考え出した子どももいるとのことです。まさに、そうした子どもたちに励まされるのは、他の人たち、そして私たちなのです。

 引き続き、子どもたちに寄り添い、平和な暮らしをしてもらえるようにし、さらにこの活動を通じて、そして子どもたちとともに、社会にある暴力やその連鎖を止め、平和をつくっていきます。


※ 関連寄稿→「特別寄稿:急変するアフガニスタン‐今、起こっていること、平和のために訴えること、行うこと‐」 https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section4/2021/08/post-20.html


一般社団法人平和村ユナイテッド

【HP】https://pv-u.org/

【FB】https://www.facebook.com/peacevillageunited/

【Twitter】https://twitter.com/PeaceVillageU

【ご寄付のお願い】https://pv-u.org/donation/(どうぞよろしくお願いします)

※「アフガニスタン緊急-戦闘で親を亡くした子どもたちに平和を!」の活動についてはこちら:https://syncable.biz/campaign/2022/

※この活動についての現地パートナー団体代表からのビデオメッセージはこちら(上記メッセージ含む):https://bit.ly/3DyPI0D

(2022年02月07日 掲載)