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シネマと人権 12:「FLEEフリー」

小山 帥人(こやま おさひと)
ジャーナリスト、ヒューライツ大阪理事

ある難民の体験をアニメーションに
 過去を偽り、自分を隠して生きねばならない状況は、本人にとってつらいことだ。アフガニスタンからデンマークに移住してきた主人公、アミンは、「家族がいない」と嘘の申告をして、やっと滞在を認められた。ここで生きるためには、本当の自分を明かすことはできない。
 アミンの数年来の友人でもあるラスムセン監督は、アミンをリラックスさせ、過去のすべてを話すように促す。それは、生死の境目を歩くような過酷な人生である。
 アミンの子ども時代、アフガニスタンは内戦状態で、タリバンが支配するようになった頃、父親は警察に逮捕され、以後、行方不明になる。

アフガニスタンではゲイという言葉も存在しない
 アミンは自分がゲイであることに気づくが、誰にも言えない。
「アフガンにゲイはいない。その言葉も存在しない。家族にとって恥となる。だから自分がゲイだと認めにくい」とアミンは語る。
 若者は戦争に駆り出され、アミンの兄も徴兵されそうになる。アミンの一家は、観光ビザを発行してくれるただ一つの外国であるロシアに逃れることにする。しかし長期滞在ビザを持たない外国人にとってロシアの暮らしは厳しい。街中での警官の尋問と暴力におびえ、なけなしの金を警察への賄賂に使わなければならない。
 アミンの一家は北欧に逃れたいと思うが、人間の密輸をする業者には悪質な業者がいて、姉2人は船で国外を目指したが、コンテナーに密集状態で閉じ込められ、危うく窒息しそうになる。
 寒さの中、アミンが母親と兄弟と国境を越える場面は緊迫感がある。歩けなくなった年寄りを、密輸業者は撃ち殺そうとまでする。やっとの思いで、船に乗ったものの、嵐の中で船室に水が入り、必死で汲み出さねばならない。
結局、一家はモスクワに逆戻りすることになり、家族は、少年だったアミン1人を北欧に送り出すことを決める。
 アミンは業者から偽のパスポートを与えられ、「家族はいない、孤児だと言え」と厳命される。子どもの頃から逃げ続ける人生だった、とアミンは振り返る。家族にもゲイだと明かせない。マイノリティの中のさらなるマイノリティであるアミン。

ドキュメンタリーにしてアニメーション
 アミンが自分の人生を語り、それをドキュメンタリーにすることは彼にとっても社会にとっても意味のあることだが、家族がアフガニスタンに残っているアミンにとっては危険なことでもある。
 そこで、監督は、このドキュメンタリーをアニメーションにすることを思いついた。アミンの声は本人の声を使い、ドキュメンタリーでありながら、アニメーションでもあるという珍しい映画がこうして作られた。そのことで、実写撮影が不可能なシーンを映像化することもできる。そして過去を隠さず語ることで自分を取り戻していく、1人の男の心も映し出した。
FLEE_still_main (002).jpeg            アフガニスタンからデンマークに逃れて来たアミン
© Final Cut for Real ApS, Sun Creature Studio, Vivement Lundi!, Mostfilm, Mer Film ARTE France, Copenhagen Film Fund, Ryot Films, Vice Studios, VPRO 2021 All rights reserved

「FLEEフリー」
監督:ヨナス・ポヘール・ラスムセン
2021年/デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フランス合作/1時間29分
配給:トランスフォーマー
2022年度アカデミー賞で、史上初の、国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞の3部門同時ノミネート

<公開>
6月10日より全国ロードショー
関西:T・ジョイ京都、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、MOVIX堺、イオンシネマ四條畷、シネ・リーブル神戸、MOVIXあまがさき、ユナイテッド・シネマ橿原、イオンシネマ和歌山(いずれも6月10日より)
シネ・ピピア(7月29日より)



(2022年05月23日 掲載)