川合千那未
DPI女性障害者ネットワーク
障害女性当事者2人がジュネーブへ
2022年8月22日から23日にかけて、スイス・ジュネーブにある国連欧州本部にて日本が障害者権利条約に批准して初めての政府報告審査が行われました。これは日本の政府(以下、政府)が障害者権利条約に則って政策を実施しているか、国連の障害者権利委員会の委員からの質問に答える形で報告するもので、委員会は「建設的対話」を通じて、審査を行うことを求めています。以下、私たちは、委員会と政府とのやりとりを「建設的対話」と呼びます。
今回私たちは、障害のある女性に関する情報収集や提供、政策提言などを行っている、DPI女性障害者ネットワーク(以下、女性ネット)としてロビーイングをしてきました。メンバー2人と介助者3名が派遣されました。この派遣はみなさんからのカンパを中心にたくさんの応援をいただいて実現しました。ありがとうございます。
「建設的対話」の傍聴と、その前後に行われるロビーイングをおこないましたので、障害のある女性にかかわる課題にフォーカスしてレポートします。
現地には、日本の市民団体から110人が訪れ、委員へのロビーイングや建設的対話の傍聴にいそしみました。私たちの他にも脱施設やインクルーシブ教育の現状を伝えるため、たくさんの人が委員に働きかけていました。これらは委員に市民社会側から日本の現状を伝え、日本政府への質問内容に反映していただくことを目的とするものです。また、委員への個別の働きかけの他に、委員からの質問を受けて市民社会側が回答するブリーフィングの機会も設けられました。ブリーフィングで受けた質問は数時間後、あるいは翌日に発言する、もしくは文章で回答するという形なのですが、提出にも期限が設けられ、すばやくかつ簡潔に、回答作成しなければなりませんでした。
回答を作成するにあたり、できるだけ短く的確に現状を伝えられるよう、日本にいる女性ネットのメンバーと連携しました。
どの国でも障害女性たちは複合差別と闘っている
私たちが障害のある女性にかかわる課題の中でも特に重要視していたのが、障害のある女性への性教育が充分にされていないことや、優生思想が日本に色濃く存在していること、そして障害のある女性か生きにくい社会構造などです。委員たちは私たちの訴えを親身になって聞いてコメントをくださいました。その中で印象的だったことは、複数の女性の委員から、社会は「男性支配的」だと感じている、と聞いたことでした。そして「私たちも闘っている」とのお話を聞いて、日本だけではなくどの国のどんな組織であっても女性は闘っていかなければならない現状なのだと改めて認識しました。そして日本の障害者の中で、障害のある女性にかかわる課題を中心に活動する人が少ないという委員の声もありました。複合差別を受けている自分自身のことに関心をもつ障害のある女性を増やすために、日本でも広く呼びかけを続けていこうと思います。
22日の委員からの質問と政府の回答
ブリーフィングとロビーイングの期間を終えて、22日の午後から「建設的対話」が始まりました。
「建設的対話」は、委員からの質問が続けて出され、15分ほどの休憩の後、政府が回答するというかたちでした。
政府からの挨拶の後、国連の日本の審査担当のラスカス委員から挨拶と共に、日本の抱えている問題について言及されました。障害のある女性に関する質問の前半として、優生保護法で被害を受けた女性の最新の情報と一時金の支払い状況などをデータで示す事、"婦人保護施設"などの、女性をサポートするセンターで十分な合理的配慮を受けられるのか、障害のある女性に関する活動をしている団体が抱える問題についてどのような支援をしているか、という質問が行われました。政府の回答ですが、優生保護法による被害者に対してはお詫びを表明し、一時金として320万円を支給しているとしました。その他、障害女性が性被害にあったときに適用される可能性がある法令の紹介と、裁判所などで聞き取りを行う際に、例として知的障害女性には、コミュニケーション能力に応じたわかりやすい説明をしていることなどを挙げました。また、障害女性を支援する機関としては、「日本司法支援センター」の機能を列挙するに留まり、私たち市民団体ついてはふれられませんでした。私は障害女性へのこれからの具体的な案などが回答されることを期待していましたが、現在行われている施策以上のことは話されませんでした。
23日の委員からの質問と政府の回答
23日の質問では、障害のある女性への性教育の実施状況や、異性介助をどのように禁止するのか、どのように性暴力を防止するのか、などの質問が出されました。
それらの質問に対し、政府は、性教育は、障害の程度に応じて、健常児と同じ内容のものが受けられると回答しました。私は、日本の教育機関における性教育のプログラム自体に不足があり充分ではないと感じており、障害女性は性被害に遭いやすいことも事実なので障害や状況に合わせて身を守る方法などが教授されるべきと考えます。また、性被害防止については、またも具体案を示さず現行法をあげるのみでしたが、異性介助については具体的な考えや姿勢が述べられました。
まず、異性介助は政府として問題であると認識しており、同性介助をすることがきわめて重要で異性介助は避けるべきとしました。政府が調査したところ、介護施設において、本人の希望があれば同性介助が94%以上実現すると回答しました。加えて、「本人の意思に反する異性介助を繰り返すことは虐待であり、あってはならない」とという考えを明らかにしました。しかし、この数字は全国の限られた施設のデータであり、今でも多くの女性障害者が施設などで、望まない異性介助を強いられています。政府の回答では本人の希望があれば同性介助を受けられるとされましたが、私の経験として、病院などで異性介助をされてしまいそうになった時、とっさに異性介助を拒むことが出来ずその場の雰囲気に流されてしまうことが多いです。施設や病院での集団生活では、ある種の同調圧力がかかるため、異性介助が嫌だという意思を事前に伝えることも難しい環境にあります。政府には本人の希望が表明されていなくても、同性介助を基本とする方針を打ち出して欲しいと考えます。
障害のある女性に限定した質問以外にも、「障害のある女性の場合についてはどうか、どのようになっているか?」といったジェンダーを意識した回答を求める質問が多いと感じました。
今まで、障害者に関する施策や統計は性別を意識せずに出されていましたが、これを機にジェンダーを意識したものが出されることを期待しています。
2日間に分けて計6時間にわたった建設的対話を傍聴して、委員の質問を受けてもなお、政策の展望が見えてこない回答にもどかしさを覚えました。政府が答えきれなかった質問は、公開されることの無い文章回答となってしまったことが心残りです。しかし、日本の審査を主に担当してくださっているキム・ミヨン委員が最後の挨拶で、声を震わせながら、日本の抱える問題を指摘し、それでも、アジア太平洋の人権において、この10年日本はリーダーであったし、これからもリーダーでいて欲しいという言葉を聞いて、現地でブリーフィングやロビーイングができて良かったと思いました。市民側が声を上げる重要性を再認識しました。これには多くの日本からの参加者が息を詰めて聞き入り感銘を受けていました。
委員は私たち日本の障害者の話を受け止めて質問という形で政府に突きつけました。これから障害者権利委員会によって出される対日審査の総括所見(注)をふまえて、障害のある女性の置かれる現状が少しでも改善され、生活しやすくなるように活動していきます。
(2022年9月5日)
(注)2022年9月9日に障害者権利委員会は、日本報告に関しての総括所見を公表。CRPD/C/JPN/CO/1
(https://tbinternet.ohchr.org/_layouts/15/treatybodyexternal/Download.aspx?symbolno=CRPD%2fC%2fJPN%2fCO%2f1&Lang=en)
(2022年09月12日 掲載)