国連人道問題調整事務所は9月2日、パキスタンの国土の3分の1が浸水しており、未曾有の人道危機に陥っていると警告しました。
世界保健機関(WHO)パキスタン事務所の代表、パリタ・マヒパラ氏によると、パキスタンの総人口の15%にあたる3300万人が影響を受けています。
マヒパラ代表はイスラマバードからジュネーブのジャーナリストに向けて、「640万人の人道援助が喫緊の課題である」と伝えました。
この数週間のあいだで、モンスーンがもたらした雨は地域によっては過去30年間の平均降水量の5倍以上もの降水となり、6月以降1,200人以上もの人が死亡し、6,000人以上が負傷しました。死亡者のうち、400人近くが子どもです。
100万戸以上の喪失
110万戸の家が流され、学校など重要なインフラが破壊されたことに対して、ユニセフ・パキスタン事務所の代表、アブドゥラ・ファディル氏は、「18,000もの学校が破壊され、何千もの学校が閉鎖を余儀なくされた。コロナ禍で2年間の教育機会を失った子どもたちは、これからも教育の機会を失うことになろう」と説明しました。
教育機関への甚大な被害に加えて、医療施設も大きな被害を受けており、最も立場の弱い人々が危険にさらされています。
下痢、コレラ、デング熱、マラリアなどの水系感染症や命に関わる病気の増加について援助機関より警告される今が最悪のタイミングとなっています。
増加する病気のリスク
発育阻害の割合がすでに高いパキスタンにあって、それらが深刻な問題となっている地域は、「今まさに洪水が起きているのと同じ地域である」とファディル氏は述べます。「下痢、コレラなど水系感染症の数々、そして想像し得るあらゆる病気が発生するかもしれないことから、それらに対応できるよう用意をしておかなければならない」。
今後数日間にわたり雨が続き、洪水が悪化する可能性が高い中で、疾病監視の強化、医療施設の復旧、被災したコミュニティへの医薬品や医療用品の供給が喫緊の課題です。
「被害を受けた人たちは、ものの数分で持ち物を洪水に流されたという衝撃的で恐ろしい経験をスタッフたちに語っている」と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の広報官であるマシュー・ソルトマーシュ氏は語っています。
「高台に行くことができた人たちは、自身の持ち物を抱えることが出来ないまま避難した。屋根、清潔な飲み水と食べ物が洪水後には最も必要となる」
欧州宇宙機関が出した最近の写真によると、インダス川はモンスーンのもたらす豪雨により決壊し、水没の被害が何十キロにも渡っています。
農作物や家畜が失われ、被災したコミュニティの人々の生活と栄養状態に深刻な影響を与えています。
「世界的課題」
世界食糧計画(WFP)パキスタン事務所代表のクリス・ケイ氏は、「パキスタンが農業生産を復旧させ、自国の食糧を確保し、更には隣国のアフガニスタンの食糧源となるために、必要なサポートを保障することが世界的にも、地域的にも大きな課題である」と警告しました。
数々の自然災害の復興に苦しむアフガニスタンにも襲い掛かった洪水は、同国に大きな打撃を与えています。
ソルトマーシュ氏によると、パキスタンには過去40年にわたって、何百万人ものアフガニスタン人が避難をしてきています。「パキスタンとその国の人々は何百万人ものアフガン難民を40年間にわたって受け入れており、多くの未登録のアフガニスタン人が存在している上に、登録されて確認できるだけで現在国内には130万人もいる」。
気候変動の要因
すでに政治的・経済的混乱のさなかにいるパキスタンは、人為的気候危機の前線に立たされています。2億2,000万人の人口を抱える同国は、熱波から致命的な洪水にいたる劇的な天候の変化にさらされています。
「南アジアは世界の中でも気候危機のホットスポットである。そこに住んでいる人々は気候変動の影響で亡くなるリスクが15倍も高くなっている」とアントニオ・グテーレス国連事務総長は8月末に述べました。
パキスタンは極域を除き氷河が最も多い場所です。イスラマバードの気象庁によると、気候変動は溶けた氷河水の噴出の危険性を高めることにつながります。
国連人口基金(UNFPA)のナタリア・カネム事務局長は、影響を受けた3,300万人のうち、65万人は妊娠女性であることを9月2日の声明の中で強調しました。
「私たちは大きな被害が起きたことを非常に遺憾に思い、政府や国連、NGOと共に人道的対応をサポートし、災害からの迅速な復興を確実なものにしようとしている」。
(訳:細川由結・ヒューライツ大阪インターン)
<出典>
https://news.un.org/en/story/2022/09/1126001
Pakistan: More than 6.4 million in 'dire need' after unprecedented floods
(2022年09月15日 掲載)