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第51回国連人権理事会、ロシアの人権状況に関する特別報告者など決議(9/12 ~10/7)

 第51回国連人権理事会が9月12日から10月7日まで開催され、ロシアの人権状況に関する特別報告者の設置などの決議が採択されました。8月31日で退任したバチェレ人権高等弁務官に代わり、アル・ナシフ人権高等弁務官代行が世界の人権状況や高等弁務官事務所の活動について冒頭報告しました。新しい人権高等弁務官には、フォルカー・テュルク国連事務次官が9月8日付で任命されています。

ロシアの人権状況
 人権理事会は、ロシアでは、市民社会を脅かし、威嚇するような立法や暴力が政府によって行われていること、表現や集会の自由が規制され、多数の人権活動家やジャーナリストなどが恣意的に逮捕され拘束されていること、および多くの市民社会組織や独立系メディアが強制的に閉鎖されていることなどについて懸念を表明しました。そして、ロシアに対して思想、信仰、表現、集会などの自由を守るよう呼びかけ、同国の人権状況に関する特別報告者を任命することを決議しました。

フィリピンの人権状況
 10月5日には、2020年10月以降のフィリピンの人権状況について、同国のレムリア司法大臣と人権委員会の委員を交えて対話が行われました。2020年の人権理事会決議により、人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、フィリピンの人権状況について技術協力と能力開発を提供することを要請されており、その報告書が今会期提出されています、報告書は、2021年7月に国連とフィリピン政府とのあいだで、同国の政府機関、人権委員会、市民社会が関わる共同プログラムに合意したことをあげています。
 人権理事会では、人権高等弁務官代行が警察などによる殺害の公式の数字は減少しているものの、いまだに不法な殺害の報告があるほか。ジャーナリストや人権活動家の殺害や脅迫が続いていると述べました。
それに対して、レムリア司法大臣は同国の新政権が司法と法執行を改革していると述べ、司法手続きの遅滞に取り組む措置や麻薬取締キャンペーンの中で起こった事件を審議するパネルを設置していることなどをあげ、対応を説明しました。

民族的、宗教的および言語的マイノリティに関わる現代的形態の奴隷制
 今会期、現代的形態の奴隷制に関する小保方智也・特別報告者による、民族的、宗教的および言語的マイノリティのコミュニティに関わる現代的形態の奴隷制に関する報告書が提出されました。
 報告書によると、移住者を含む民族的マイノリティなどは、根深い交差的差別や構造的差別を受け、雇用や他の経済的機会、教育の機会の欠如などにより貧困に陥りやすく、債務労働、強制労働、その他の搾取を受けやすくなるとしています。さらに、マイノリティの公的または政治的分野からの排除により、自分たちの教育や雇用へのアクセスについて発言する場がなく、虐待や搾取のリスクが一層高まると述べています。
強制労働、債務労働の例として、中国の新疆ウイグル自治区において、ウイグル、カザフや他の少数民族の人たちの強制労働が農業や製造業の分野で行われていることが、様々な情報から合理的に結論づけられると報告しています。また、同自治区と同じような制度がチベット自治区にもあると述べています。
 南アジアでは、ダリットなど職業と世系に基づき差別されている人々が広く債務労働に追い込まれているとしています。また、移住労働者は世界各地で強制労働のリスクが高く、高額の手数料により債務労働に陥る可能性があるとしています。
 そのほか、特に女性や子どもが陥りやすい例として、強制婚、児童婚、家事労働などをあげています。さらに、特に紛争時や人道的危機には、ISIS(Islamic State of Iraq and Syria:イスラム国)により現在も多数が拘束され、あるいは行方不明となっているヤジディ教徒の女性や子どもに対する性奴隷制が制度的に行われていることをあげています。
 報告書は、最後に各国にマイノリティに対する差別を撤廃する立法および他の措置をとり、適切な民事および刑事的罰則のある差別禁止法や労働法を施行すること、マイノリティに雇用や教育などの機会を確保することなど、企業に対して「ビジネスと人権に関する指導原則」を事業計画や方針に取り入れることなどを提言しています。
 人権理事会は、報告に謝意をもって留意し、特別報告者の期限を3年間延長することを決議しました。

人権教育のための世界プログラム
 2020年に開始された「人権教育のための世界プログラム」第4段階の中間報告が今会期に提出されました。2005年から開始された「世界プログラム」は、初等・中等教育に焦点を当てた第1段階、高等教育とあらゆるレベルにおける教員、教育者、公務員、法執行官、軍関係者の人権研修の第2段階、第1段階と第2段階の領域に加えて、メディア専門職とジャーナリストへの研修が重点領域とされた第3段階に続いて、第4段階は重点対象を「若者」として、特に平等、人権と非差別、包摂的で平和な社会のための包摂と多様性の尊重に力点を置くこととしています。
 中間報告はOHCHRの要請に応じた17カ国からの情報提供をもとに、各国の国レベルでの政策と実施、教育・学習過程やツール、教育者の研修、人権教育を可能にする環境についてまとめられています。報告書は最後に、進捗をモニターし、評価するプロセスが人権教育の内容と手法の適切性を確保するための鍵であること、インフォーマルな人権教育が重要な役割を担うこと、人権教育の優先事項や企画を決めるにあたって若者が主要な役割を担うことが重要であることなどを結論として述べています。
 人権理事会は各国に世界プログラムの実施を強化し、人権教育の内容や手法が若者にとって意味のあるものになるよう取り組みをモニターし、評価する制度をつくるよう促す決議を採択しました。また、第5段階について対象や分野に関し、各国政府、国際機関や市民社会などの意見を求めて、第54会期に報告するようOHCHRに要請しました。

地方自治体
 2020年10月に人権理事会は、人権の促進と保護における自治体の役割と課題について報告するようOHCHRに要請し、その報告書が今会期に提出されました。報告書は、人権を促進・保護し、誰一人取り残さないために実施された自治体のグッドプラクティスや課題、地方レベルでの人権の促進・保護における原則の要素について述べています。その要素として、人権を尊重、保護し、充足する義務を有する中央政府に対して、地方自治体が負うそれらの補完的義務と人権に基づいた地方の統治をあげています。
 人権理事会は、地方自治体の活動に地元のステークホルダーの参加と、地方レベルで人権を保護し促進するためのプログラムを作成し実施するに当たり、市民社会の参加を可能にする環境を確保するよう呼びかけ、地方レベルで中央政府と協力して、特に女性の政治参加について差別からの保護と平等のアクセスを保障することを促す決議を採択しました。

 人権理事会はそのほか、スリランカ、シリア、イエメンなどの人権状況、発展の権利などについて決議を採択しました。一方、中国の新疆ウイグル自治区の人権に関して人権理事会で議論するという動議案は否決されています。

構成・岡田仁子

<出典>
https://www.ohchr.org/en/press-releases/2022/10/human-rights-council-concludes-fifty-first-regular-session-after-adopting-41
Human Rights Council Concludes Fifty-First Regular Session after Adopting 41 Texts (OHCHR)2022年10月7日
<参考>
https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section4/2022/10/107.html
人権理事会、新疆ウイグル自治区に関する討論開催を否決(10/7)ヒューライツ大阪ニュース・イン・ブリーフ
https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section4/2022/09/ngo2020-2024921.html
人権理事会でNGOが「若者」に焦点をあてた「人権教育世界プログラム」行動計画(2020-2024)の実施に関する中間進捗報告書にコメント(9/21)

(2022年10月11日 掲載)