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シネマと人権 14:コロナ禍の非正規労働者の立場- 「夜明けまでバス停で」

小山 帥人(こやま おさひと)
ジャーナリスト、ヒューライツ大阪理事

 コロナ禍で人々の暮らしは大きく変わった。
 新型ウイルスへの感染を恐れて密集を避け、旅行、外食、観劇やコンサートなどをなるべく避けて過ごしてきた。その結果、サービス業の売れ行きは落ち、休業や廃業が増えた。
新型コロナウイルスが要因となって倒産した企業は、2022年9月末で4,000件を超えたという。
この映画は、コロナ禍で解雇され、ホームレスとなった女性の過酷な現実を描いたものだ。
 主人公、三知子(板谷由香)は、昼間はアクセサリーの製作と販売をし、夜は居酒屋で働いている。別れた夫が、彼女のカードで借金をしてしまったため、その返済に追われている。
 彼女が働く居酒屋では、マネージャーと店長の女性以外は、全員が非正規労働者である。三知子は、男子店員のセクハラ発言に注意するなど、言うべきことを言うタイプの女性である。
マネージャーの不正を指摘する三知子に、店長は「こういうのは気づかないふりをするのがいいのかなと思うんですけど」と諌めるが、三知子は納得しない。しかし、三知子のように主張する女性はマネージャーから嫌われる

ラインで解雇通知
 三知子は、店の収益が減ったことを理由に、同僚2人と共に解雇される。一緒に解雇された1人は、孫を養っているフィリピン人女性(ルビー・モレノ)だ。「10年以上働いてきたのに、ラインで解雇通知とは」と同僚は憤慨する。 
 店の借りた住宅に住んでいた三知子は、職を失うと同時に住むところも失う。寮付き非正規労働者の多くはそうなる。頼る人がいなければ、ホームレスにならざるをえない。
三知子には、退職金も支払われなかった。解雇を通知する立場にある店長は、解雇された店員を探し出し、自分の職をかけて、会社に退職金を支払わせようとする。
 職と住むところを同時に失い、スーツケースを転がして街を歩く三知子を見るのはつらい。夜はバス停のベンチで寝て、公衆トイレで歯磨き、洗顔をする。現金が減っていき、食べ物を買う金も底をついていく。

「まず自助を」と語る首相
 三知子が歩くターミナルの巨大スクリーンには、菅首相(当時)の演説が映っている。「自助、共助、公助」を掲げるものの、首相は、まずは自分で頑張れ、次に家族と地域、そして最後にセーフティ・ネットと、政治の責任を後回しにした演説を続ける。
 2020年の冬、ベンチで眠っていたホームレスの女性が殴られ殺される事件があった。映画はこの事件を背景にして作られた。「ホームレスはクズだ。排除せよ」と煽るユーチューブの映像に影響され、ホームレスを襲う人間も出てくる。
 10数年前、1,700万人と言われた非正規労働者はすでに2,000万人を突破した。
 非正規労働者が増え、コロナで職場が揺れ動くこの時代、誰にでも起きる可能性がある物語である。

 img_newsinbrief_20221011.jpg解雇された三知子はバス停で夜を過ごす
©2022「夜明けまでバス停で」製作委員会

※「夜明けまでバス停で」
監督:高橋伴明 / 2022年/ 日本/1時間31分/配給:渋谷プロダクション
<上映>10月21日より京都シネマ、10月22日より第七藝術劇場、なんばパークスシネマ、
MOVIK堺、kino cinema神戸国際


(2022年10月10日 掲載)