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ライツホルダーを中心としたビジネスと人権の実践に向けて~第11回国連ビジネスと人権フォーラム開催(2022年11月28日~30日)

 国連人権理事会のビジネスと人権ワーキンググループが主催する国連ビジネスと人権フォーラムが11月28日から30日に開催されました。今年で11回目となる本フォーラムは、国連ビジネスと人権に関する指導原則(以下、指導原則)に沿った人権への負の影響の予防・軽減、救済の実践を広めることを目指し、政府・国際機関・企業・労働組合・市民社会・弁護士・学術界などのマルチステークホルダーが参加して、国際的または地域的枠組み、国や産業界、個々の企業、市民社会や市民一人ひとりのそれぞれのレベルでの取り組みを議論するプラットフォームとなっています。
 2022年のフォーラムは、「ライツホルダーを中心に~次の10年における人と地球を大切にするビジネスの促進のための責任の強化」をテーマに開催されました。対面とオンラインのハイブリット形式での開催となり、開会・閉会を含む3つの全体セッション、24の個別セッションが開かれ、オンライン開催となった2020~2021年と同規模となりました。
 個別セッションでは、企業のパネリスト参加が少なく、企業による人権尊重の取り組みの進捗や課題についての報告をほとんど聞くことができず、2021年のフォーラムと同様に、企業の存在感があまり感じられませんでした。また、2019年までの対面開催時には、さまざまなステークホルダーが主催する個別セッションが展開されていましたが、オンライン開催の制限もあり、2020年以降はセッションのほとんどがワーキンググループによって運営されています。

●ライツホルダーを中心に
 本フォーラムのテーマが示すとおり、ほとんどのセッションにおいて、ライツホルダー(権利保持者)、特に、人権・環境活動家や先住民族、労働組合や労働者の代表が登壇し、企業による地域コミュニティや特定のグループの人々への人権侵害、抗議活動に対する企業のハラスメント等を訴え、政府・企業の責任と救済へのアクセスを求める声が上がりました。
 ライツホルダー、特に脆弱な立場に置かれた人々の声を聞くことは指導原則の実践に不可欠であり、ライツホルダーの声が政府・企業が責任を果たすためのすべてのシステムに含まれるべきであること、また、そのためのマルチステークホルダー間の対話が重要であることがフォーラム全体で確認されました。
 特に、気候変動や新型コロナウイルス感染症の蔓延等、複雑化するグローバル課題により、性的マイノリティ、女性、先住民族、民族的・言語的・宗教的マイノリティ、若者、高齢者、障害者、アフリカをルーツに持つ人々、移住労働者等が直面している差別・格差が広がっており、こうした人々の救済へのアクセスの確保が急務であることが指摘されていました。

●先住民族・地域住民の権利と大規模開発
 フォーラムでは、企業活動によって影響を受ける先住民族や地域コミュニティの代表が多くのセッションに参加し、鉱山や大規模農園等の開発プロジェクトによる土地の収奪や伝統的な生活の破壊、環境汚染による農業・漁業等の生業への影響や健康被害について、政府・企業に対応を求めていました。
 先住民族は法的な保護対象と認識されていないことも多く、先住民族の権利に含まれる、プロジェクト初期段階においての先住民族の「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」の確保と先住民族のプロジェクトに関する協議への参加が実現していないことが指摘されていました。

●気候変動と人権
 フォーラムでは、気候変動は世界中のすべての人々に影響を与え、異常気象や海面上昇等の被害に見舞われる地域では貧困層や先住民族、女性、子ども、障害者、高齢者等、すでに脆弱な立場に置かれている人々をさらに厳しい状況に追いやり、土地が低平な島嶼国では海面上昇によって移住を余儀なくされる環境難民が生まれている状況から、ライツホルダーの視点に立った気候危機への対応の必要性が確認されました。
 また、気候変動は将来世代にまで影響を与えることから、気候正義を求める若者の声を気候変動への対応に含めていくことが重要であるという指摘がなされました。
 脱炭素に向けた環境ビジネスが拡大する中で、環境配慮によって人権侵害が助長されないよう、ライツホルダーの視点に立った公正な移行を実現していく必要があることが確認されました。

●セッションで議論されたその他の重要課題
 フォーラムでは、他に以下のようなテーマが個別セッションで議論されました。

  • 「ビジネスと人権 これからの10年」のロードマップから見る取り組みの進捗と課題
  • グローバルサウス(いわゆる途上国)における法制化と救済メカニズムの構築
  • 紛争地における人権尊重に向けた企業行動の強化
  • テクノロジー・採掘・エネルギーセクターの取り組みの強化
  • 投資家の責任の強化と役割
  • ライツホルダー保護のためのマルチステークホルダー間の対話
  • ビジネスと人権に関する条約制定に向けた動き
  • アイデンティティの交差性の視点を含めたジェンダーとダイバーシティ
  • 歴史的・構造的な人種差別への対応

(構成:土井陽子)

<参照>

<参考>


(2022年12月13日 掲載)