国連女性差別撤廃委員会は3月8日、フィリピン政府が第二次世界大戦中の日本軍による性奴隷制の被害者に対して、被った損害に対応する補償および社会的支援、社会認識を提供しておらず、権利を侵害していると認定し、救済するよう見解(勧告)を出しました。
性奴隷の被害者を支援するためにフィリピンで設立されたNPO「マラヤ・ロラズ」(自由な祖母たち)のメンバーであるフィリピン人女性24人による申立て(個人通報)を2019年に受けた同委員会が審理してきたものです。いわゆる「慰安婦」として知られる被害者たちはフィリピン政府に対して、賠償をするよう日本に働きかけることを繰り返し求めてきました。彼女たちは、フィリピン政府が彼女たちのために闘ってこなかったことが、今日まで続く彼女たちへの差別をもたらしていると主張してきました。
しかし度重なる努力はフィリピン当局によってことごとく却下され、最後の請求は2014年に最高裁判所によって退けられました。フィリピン政府は、1956年に日本との平和条約(サンフランシスコ平和条約)、および賠償協定を批准した後、日本に対して賠償を請求する立場にはないという姿勢をずっと維持してきました。
1944年11月23日、ナタリア・アロンゾほか23人の被害者は、パンパンガ州サン・イルデフォンソの日本軍司令部「バハイ・ナ・プラ」(赤い家)に強制的に連行され、1日から3週間拘束され、レイプなどの性暴力、拷問、非人道的な拘束などを繰り返し受けました。以来、彼女たちは、身体的傷害、心的外傷後ストレス、生殖機能の永続的なダメージ、および地域社会、結婚、仕事などの社会的関係に対する損傷など、長期にわたり身体的、心理的、社会的、経済的影響に苦しめられてきました。
そのため、被害者たちは2019年に女性差別撤廃委員会に申立てを行い、女性差別撤廃条約のもとで自国内における女性・少女が差別されないことを支持する締約国の責任があることの確認を求めたのです。
女性差別撤廃委員会は今回の見解で、フィリピンが日本と平和条約、賠償協定を締結したことにより、賠償請求権を放棄したことに留意する一方で、女性たちの主張は継続的な差別の事案であることを強調しています。同委員会は、フィリピン女性委員会が、戦時中の性奴隷の制度化されたシステム、被害者・サバイバーに対する影響、または必要な保護に取り組んでいないと判断しました。それとは対照的に、ほとんどが男性であるフィリピンの退役軍人は、教育手当、医療給付、老齢年金、障害年金、死亡年金など、政府から特別で栄誉ある待遇を受けているとしています。
被害者が受けたジェンダーに基づく暴力の極端な深刻さ、および原状回復、損害賠償、リハビリテーションをめぐる被害者に対する継続的な差別を考慮し、委員会はフィリピンが条約上の義務に違反していると結論付けました。特に、委員会は、フィリピンが、女性に対するあらゆる差別を禁止し、男性と平等に女性の権利を保護するための適切な立法措置およびその他の措置をとらなかったとしています。
委員会は、フィリピン政府に対して、性暴力をはじめ戦争犯罪の被害者に対してあらゆる形態の救済を提供する実効的かつ全国的な被害回復制度を設置すること、女性たちに補償その他の形態の被害回復措置を提供するための、国の認可による基金を設置することなどを勧告しています。
勧告を受けて、フィリピンのレムリア法務大臣は省内に調査チームを設置するよう指示しています。
女性差別撤廃条約の締約国は2023年3月現在189カ国で、女性差別撤廃委員会は同条約を締約国が遵守するよう監視する条約機関です。委員会では、締約国の代表としてではなく、個人の資格で関わる23人の人権専門家が委員を務めています。
同条約の選択議定書は、その締約国の管轄下にある個人または個人のグループが、条約に定められた権利を侵害されたと主張する申立てを、委員会が受理し審査することを認めています。その個人通報に対して委員会は審査し見解を出しています。
2023年3月現在、115カ国が選択議定書を締結しており、フィリピンは2003年に選択議定書を受け入れています。日本は未締結です。
<参照>
https://wam-peace.org/ianfu-topics/9740
女性差別撤廃委員会、フィリピンの日本軍性奴隷制被害者について勧告
(アクティブ・ミュージアム 女たちの戦争と平和資料館(wam)、2023年3月20日)
https://note.com/childrights/n/ne08d74b82e67
国連・女性差別撤廃委員会、元「慰安婦」への対応をめぐってフィリピン政府の条約違反を認定(平野裕二note、2023年3月9日 )
<出典>
https://www.ohchr.org/en/press-releases/2023/03/philippines-failed-redress-continuous-discrimination-and-suffering-sexual
Philippines failed to redress continuous discrimination and suffering of sexual slavery victims perpetrated by Imperial Japanese Army, UN committee finds
(8 March 2023)
https://wam-peace.org/ianfu-topics/9874https://wam-peace.org/ianfu-topics/9874
(2023年03月22日 掲載)(2023年7月24日 追加)
<参照>
https://wam-peace.org/ianfu-topics/9874
女性差別撤廃委員会による見解と勧告の日本語訳
アクティブ・ミュージアム 女たちの戦争と平和資料館(wam)