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国連人権理事会、第4回UPR審査の勧告に対する日本政府の回答結果文書を採択③_「留意する」編(7/10)

UPR(普遍的定期的審査)は2006年の国連人権理事会の創設に伴って新たに作られた制度であり、約4年半に一度のペースで、国連加盟国193カ国すべての国の人権状況が審査される。第4回審査(2023131日)で前回を大きく上回る300の勧告が出されていた[1](第3回審査時は217)。

 その勧告に対する日本政府の回答結果文書が710日、国連人権理事会で採択された。

勧告に対する回答は4つに分類される。以下、分類とその対象となる勧告の数である。

  • フォローアップすることを受け入れる(Accept to follow up
    →対象勧告数:180
  • 部分的にフォローアップすることを受け入れる(Partially accept to follow up
    →対象勧告数:26
  • 留意する(Note
    →対象勧告数:58
  • 受け入れない(Not accept
    →対象勧告数:36

*本稿では「留意する」と表明した主要な勧告の内容およびそこから浮かび上がる日本政府の対応姿勢を紹介します。「フォローアップ編」「受け入れない」編もお読みください。

留意すると回答した主要勧告

  1. 性的マイノリティの人権
     同性婚の合法化を促す勧告が多く出されたが、日本の家族のあり方に関連する重要な課題であるため、同性婚の導入は慎重な検討を要するとしている。SOGIESC(性的指向、性自認、性表現、性的特徴)にもとづく差別の禁止を求める勧告に対しては「LGBT理解増進法」[2]の成立に向けたプロセスにあると回答している。

  2. 人種差別、ヘイトスピーチ、包括的差別禁止法
     人種差別撤廃条約第4条[3]における留保を撤回することを含めて、マイノリティへのヘイトスピーチに対して法的に処罰することを促す勧告および包括的差別禁止法の制定を求める勧告に対して「留意する」とした。政府は人種差別に基づく考えを広めることや表現することについて、それらの行為の多くが現行の法律で対応できるとし、現行法を超えてこれらの行為を処罰することは、言論の自由との兼ね合いから、きわめて慎重な検討を要すると回答している。

  3. 被収容者の人権
     刑務所を含む収容の環境が国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルール[4])をはじめとした国際人権基準に沿うよう改善することを促す勧告に対して「留意する」とした上で、インタラクティブ・ダイアローグ(事前になされる双方向対話)において、性的指向に関連した課題も含めて、困難を軽減するための様々な対策を刑事収容施設で行っていると述べている。

  4. 核廃棄物の処理
     福島第一原子力発電所の事故による放射性廃棄物の処理について、特に汚染水の海洋放出をめぐって太平洋諸島の国々を中心に12の勧告が出された。具体的には、汚染水の太平洋への放出が許容できる方法であるかについて太平洋諸島フォーラムの専門的な科学者が求めるデータを提供し、人間および海洋生物に対する影響において許容できる方法であると結論付けられない限り、海洋放出計画を停止するよう勧告している。これらに対し、日本政府はALPS処理を経た水は東京電力が行った分析評価によって十分に安全基準を満たすものとして、その信頼性はIAEA(国際原子力機関)によるレビューによって裏付けられていると回答している。

傾向と特徴

 死刑廃止を求める勧告に対しては死刑存続の「世論」に依拠して「受け入れない」姿勢[5]を貫く一方で、同性婚に関しては合法化を求める意見が既に賛成多数[6]が示されている「世論」に対して同等の重みが与えられず、憲法違反であるという4カ所の地方裁判所における司法判断[7]をもってしてもなお「慎重な検討」と消極的な姿勢があらわになった。

 マイノリティの人権に関してヘイトスピーチ解消法とLGBT理解増進法がいずれも罰則規定を伴わない「理念法」であること、包括的差別禁止法の制定についても具体的な見解を示すことなく「留意する」に留まったことは、差別行為に対する処罰規定を含む法的拘束力を伴って積極的に保護する取り組み、その前進を求める国際社会の声に応えられない結果となった。

 汚染水の海洋放出をめぐる太平洋諸島の国々からの勧告は自国に与える影響への懸念を反映しているが、東京電力による分析結果の信頼性と安全性を主張する政府回答は、太平洋諸島フォーラムの独立した専門家による分析評価結果が出るまでは放出計画を停止するよう求める勧告を正面から受け止める回答とはならなかった。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  

*今回、留意すると回答した58の勧告のうち主要5テーマ(42勧告)について、テーマ別勧告数、勧告した国、具体的内容、日本政府の見解について一覧を作成しました。本稿では紹介できなかった勧告も記載しておりますのでご参照ください。

UPR日本フォローアップ(留意する)_色付き_page-0001.jpg

第4回UPR日本審査回答「留意する」一覧


[1] 国連人権理事会、UPR審査で日本に死刑廃止や国内人権機関の設立など約300項目の勧告を採択(2/3
https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section4/2023/02/upr30023.html

[2] 「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」として616日に成立、6月23日に交付および施行した。
https://www8.cao.go.jp/rikaizoshin/index.html

[3] 第4条(a)及び(b)は、「人種的優越又は憎悪に基づくあらゆる思想の流布」、「人種差別の扇動」等につき、処罰立法措置をとることを義務づけるものとして日本政府は留保を付している。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/top.html

[4] 被拘禁者ファイルの管理,内部・外部による監査,一定水準の居住設備・衣類等の保障,医療の保障,残虐な懲罰の禁止,不服申立ての権利,家族等との通信・面会の権利等あらゆる種類の被拘禁者の処遇及び施設の管理についての最低限の基準を示す。(令和3年版 犯罪白書 第7編/第1章/3/1
https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/68/nfm/n68_2_7_1_3_1.html

[5] 詳しくは「受け入れない」編を参照
https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section4/2023/07/upr710-1.html

[6] 共同通信が20235月に実施した世論調査では同性婚を「認める方がよい」との回答が71%であった。
https://www.outjapan.co.jp/pride_japan/news/2023/5/3.html

[7] 同性婚を法的に認めないことは憲法違反だとして「結婚の自由をすべての人に」訴訟を展開するMARRIAGE FOR ALL JAPANによると、202368日現在、札幌、東京、名古屋、大阪、福岡の5つの地方裁判所で判決が言い渡され、5つの判決のうち、4つの判決で、同性婚を認めないことは違憲との判断がなされている。唯一合憲と判断した大阪地裁判決においても、国会が立法をしないことが将来的に憲法24 2 項に違反するものとして違憲になる可能性を示唆している。
https://www.marriageforall.jp/plan/lawsuit/

(参照)

Report of the Working Group on the Universal Periodic Review Japan (A/HRC/53/15) 
A_HRC_53_15.pdf

Report of the Working Group on the Universal Periodic Review Japan Addendum (A/HRC/53/15/Add.1)
https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.ohchr.org%2Fsites%2Fdefault%2Ffiles%2Fdocuments%2Fhrbodies%2Fupr%2Fsessions%2Fsession42%2Fjp%2FA_HRC_53_15_Add_1_AV_Japan_E.docx&wdOrigin=BROWSELINK

UPR(普遍的・定期的レビュー)4回日本政府報告
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100442700.pdf

(2023年07月21日 掲載)