2023年6月26日の厚生労働省の「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」(以降「検討会」)において、2023年夏から緊急避妊薬の処方箋なしでの薬局での入手(OTC化=Over The Counter)について、一部薬局で試験的運用とモデル的調査研究を実施することが決まりました。ただし8月21日の時点で薬局での実施は始まっていないようです。
日本では緊急避妊薬(通称アフターピル)のOTC化を可能にするかどうかについての検討が2021年より続いてきました。本件を主に扱ってきたのは、厚生労働省の「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」です。会議の委員は医療関係者が多くを占めますが、それ以外にも消費者団体、メディア関係者など、様々なバックグラウンドを持つ21人の委員で構成されています。以前はこの会議で様々な医薬品のOTC化の可否が決められていましたが、現在はこの検討会で提出する意見をまとめたのち、最終決定は「薬事・食品衛生審議会薬事分科会要指導・一般用医薬品部会」が行うことになっています。
緊急避妊薬とは、妊娠可能性のある性行為からなるべく早く、遅くとも72時間以内に服用することで、高い確率で妊娠を阻止できる薬です。時間的制約と緊急性のある薬剤の性格を踏まえ、世界では90ヶ国以上で処方箋の必要なく薬局で提供されています。
緊急避妊薬に関する議論は、上記検討会にて2021年3月から5回に渡ってなされています。そこで出た OTC 化の課題点とその対応策に対し、広く意見を募るという形で、2022年12月27日から2023年1月31日まで、緊急避妊薬OTC化についてのパブリックコメントが募集されました。厚生労働省には約4万6300件のパブリックコメントが届き、そのうち、緊急避妊薬の薬局販売に賛成が約4万5000件で97%、反対は300件で0.6%と発表されています。2022年9月に他に6つの薬剤のOTC化についてパブリックコメントが募集され、結果が公表されていますが、その数は少なくて2件、多くて6件、平均4件でした。単純計算で、緊急避妊薬は他の薬剤より1.1万倍以上の数の意見を集めたことになり、その関心の著しい高さが伺えます。
パブリックコメントで集まった意見も踏まえ検討会は、今夏から緊急避妊薬のOTC化を一部薬局で試験的に運用し、モデル的調査研究を実施することを決定しました。厚労省は、「薬局数は、2次医療圏~3次医療圏 に1つ程度を目安」としています。2次医療圏は、健康増進・疾病予防から入院治療まで一般的な保健医療を提供する区域、3次医療圏は、先進的な技術を必要とする特殊な医療に対応する区域を示します。厚労省の定める区域数を踏まえると、全国で52~335程度の薬局ということになります。現在、薬局は全国に約6万件存在することを考慮すれば、緊急避妊薬を取り扱う薬局は全体の約0.08~0.5%でしかなく、一番少ない52カ所の薬局のみであれば、各都道府県に1件程度となり、試験的運用をしても、実質的にはアクセスの向上には、ほとんどつながらないこと、そして試験的運用で得られたデータをもとに調査研究を実施するにはあまりにもあがってくる数字が少ないことが懸念されています。
福田 和子(ふくだかずこ)
参考資料
「地域の一部薬局における試験的運用について(緊急避妊薬販売に係るモデル的調査研究)」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001112818.pdf
「緊急避妊薬のスイッチ OTC 化に係る検討会議での議論」に関する御意見の募集について
(厚生労働省)
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000245897
(2023年08月22日 掲載)