小野山 亮(おのやま りょう)
一般社団法人平和村ユナイテッド 代表理事
アフガニスタンに「地下学校」ともいわれる「学校」がある。厳しい女性教育制限下、それでも女性たちが通う「学校」である。下記、こうした「学校」の先生の言葉である。
「目の前で学校が禁止された女の子たちを助けると決めました。彼女たちはとても心配して、落ち込んで、この後何が起こるのかと泣いてすらいます。この学校は幸せになる理由です。通常の学校が禁止されていても、私たちの授業を続けることを願っています」
厳しい制限下、活動停止や関係者の身の危険にも及びかねない中での「学校」という決意。そしてこうした「学校」がある希望。何が起こっているのか。
女性たちへの権利制限
2021年8月、タリバンがアフガニスタンの実権を握って以降、女性の教育、就労、移動、服装などの権利制限が次々となされ、制限違反とされた人たち、また制限に抗議する人たちやその家族・親せきになされる勾留や激しい暴力などの報告もある。女性教育はまず、中等教育が、そして高等教育も無期限停止となってしまった。これら自体が権利侵害であるが、女性たちやその家族・親せき、さらに社会全体にも、精神・身体的な影響、時には生命にかかわる危機、経済的な苦境や危機、怒り、悲しみ、絶望感、不満、不安、疲弊をもたらしており、社会状況を極めて不安定で脆弱なものにしている。今この状況を変えていかなければ、社会そのものが危機的な状況に至る懸念すらある。
教育に関していえば、教育の機会を奪われた女性たちの絶望感は深く、また、将来的な社会・経済参画の機会も奪っている。しかし、そうした権利制限の中でも「私は学ぶ」という女性たちは多く、こうした女性たちが通う、民間の「学校」が運営されている。「地下学校」ともいわれる。
厳しい監視や規制の中、活動停止や関係者の身の危険にも及びかねない活動であり、そうならないよう、目立たない、また身の安全を確保するための様ざまな措置がとられ、運営されている。
「学校」の閉鎖も実際になされうるようで、閉鎖やその寸前の状況に直面した「学校」の関係者で、その時の様子を語ってくれる人もいた。途中、涙ぐみ、沈黙が続いた時間もあった。次のようにお話しされた。
「学校」が閉鎖されそうになった時、生徒や先生は怖くなり、学校に来るべきか否かと尋ねてきましたが、「私たちはこの悪い状況の中でとどまるべきです、学校には来ることができます、問題があれば、私はここにいます、私はあなたたちのためにベストを尽くします」と伝えました。家族に「さよなら」といって「学校」に向かいました。生徒たちと「約束」をしていたからです。道中、家族みんなが電話をくれました。生徒たちは、ドアが開いているのを見て、私を励まし、「抗議や何かもっと行うなら自分たちもともにいます、ただ私たちのためにこの悪い状況の中でとどまってくれたのだから、私たちのために家族を置いてきてくれたのだから」と言ってくれました。
お話をうかがい、こちらも涙をこらえることができなかった。
こうした状況下での運営、通学、大変な決意である。そして、女性たち、社会にとって、こうした場が存在することは、大きな希望になっている。当団体では、現在、こうした「学校」のひとつと連帯し、サポートする活動を実施している。
生徒、先生の声
こうした状況下にある女性たちの絶望感、またこの学校があることの希望は生徒の声からも知ることができる。2名の生徒の声をご紹介したい。
◎生徒Aさん:女の子は皆、気持ちが落ち込んでいました。学校や、ほかの学びの場に来れないのです。この学校は、レッスンを続けることができること、将来なりたいものになれること、学んで家族を助けることができることを示してくれました。法律家になりたかったです。自分や人びとの権利を守りたいからです。人びとには、特に女性たちには、法がないからです。働くことも、どこに行くことも、何でもなりたいものになることもできないのです。しかし今、法律家になることはできません。医者になろうと決心しました。人びとに尽くすのです。
◎生徒Bさん:人びとは、特に女性たちは、ひどく抑うつ状態にあります。私たちは恐怖の中におり、とても怖く、どうすべきか分かりません。心理・精神科の医者になりたいのです。人びと、特に女性たちを助けたるために働きたいのです。
「学校」がもたらすもの
現在の女性に対する権利制限は極めて厳しいものであるが、一方で、そうした権利制限自体、そして、男性優位の考え方や構造自体は、同国の社会全体にこれまでも存在してきたものである。また、男性優位の考え方や構造については、一定の違いはあれ、日本も含む世界全体にあるものである。何か一定の主体や社会だけのことではなく、広く社会・世界で取り組むべき問題である。
そうしたことが社会全体にあるということは、女性たちがそれらを受け入れていることを意味するといったことには決してなりえない。教育を含む権利は、高い教育を受けた都会の女性たちだけが求めているといったものでも決してない。私たち平和村ユナイテッドも、これまでの同国での様々な活動の中で、教育をはじめ、権利を渇望する女性たち、それがかなわず、暴力も含めた様々な権利侵害に苦しむ、地方の、そして受けた教育の程度は様ざまな女性たちの声や話を多く聞いてきた。人として表現される、純粋な、自然な、声である。女性の権利は世界で普遍的な権利なのであり、同国でも普遍的な権利である。
当たり前のことをただ求めるという考えや行動は、当たり前のものであるからこそ強い。社会・世界に広くある男性優位の考え方や構造を変えていくものである。「学びたい」というただ当たり前のことを純粋に求めることが、社会や世界を変えていくことを信じている。
そして「学びたい」という思いと行動は、意図していようといまいと、女性の権利を含めた社会全体を変革するものとなっている。権利や多様性を保障し、またそれらを通じて平和をつくるものともなっているからである。
厳しい女性教育制限下の「学校」という決意、希望。そして、先生が言うように、「この学校は幸せになる理由」である。
★クラウドファンディング実施中!10月31日まで!
◎「アフガニスタン緊急:「女性たちの学校」にユナイト!-女性教育制限下の「学校」という決意、希望-」https://syncable.biz/campaign/4818
◎決意と希望の「学校」への連帯・サポートのため、ご寄付のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます!
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(2023年10月23日 掲載)