世界人権宣言75周年を記念して国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が2023年にスタートした「ヒューマンライツ75」イニシアティブでは、具体的かつ緊急に行動が必要な人権問題を「テーマ別スポットライト」として毎月取り上げています。10月のテーマ「ビジネスと人権」では、人権を基盤とするデジタル技術の開発と利用を目指す「B-Techプロジェクト」を取り上げています。以下はその概要です。
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デジタル技術は、経済成長と雇用創出、科学の進歩の促進、人権に関する活動の強化、社会における新たな機会の提供など、さまざまな形で人々の生活を変えてきました。また、持続可能な開発目標(SDGs)の達成を後押しするものでもあります。
一方で、プライバシーの侵害、ヘイトスピーチやフェイクニュースの拡散、対話に基づく民主的プロセスの弱体化、オンラインでの女性やLGBTIへの暴力の増加といったデジタル技術による深刻な人権リスクが指摘されています。
国連においてビジネスと人権の動きを主導するOHCHRは、「テクノロジーにおけるビジネスと人権プロジェクト(B-Techプロジェクト)」を2019年に創設し、デジタル技術の開発と利用に関するこうした問題に対して、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下、指導原則)を適用して対処することを目指しています。
●テクノロジー企業の人権への対応
B-Techプロジェクトには、デジタル技術の開発・利用を先導するマイクロソフト、ヒューレット・パッカード、グーグル、メタなどのテクノロジー企業、政府、アカデミア、市民社会が参加しており、相互学習の場となっています。
本プロジェクトが重点分野として掲げているのが、ビジネスモデルにおける人権リスクへの対応、人権デュー・ディリジェンスと製品・サービスの最終利用、製品・サービス提供者の責任と被害者の救済、テクノロジー分野における規制と自主的取り組みの「スマート・ミックス」の4分野となります。また、横断的テーマとして、投資家の責任があげられています。
参加企業であるグーグルは、本プロジェクトを通じて、生成AIをはじめとするデジタル技術に関わる人権課題に取り組んでいます。同社では、AI製品による潜在的、または実際の人権への負の影響を防止、軽減するための人権デュー・ディリジェンスの仕組みを構築しており、人権への負の影響を与える範囲や規模、そうした影響の発生可能性が一定程度あると判断される生成AI導入製品については、個別のデュー・ディリジェンスを実施しています。また、製品が与える潜在的な被害と機会を把握するために、製品全体の長期的な人権関連リスクの分析を行っています。
●テクノロジー企業の責任
B-Techプロジェクトに参加する市民社会組織である「ビジネスと人権リソースセンター」(BHRRC)は、テクノロジー企業をはじめとする1万社を超える企業が与える人権の負の影響を調査し、企業による指導原則の実践を求めています。
BHRRCによれば、テクノロジー業界は比較的新しい業界であることから、人権への負の影響の対応策がまだ十分に議論されていません。デジタル技術の発展がめざましいことから、各国政府が追いつけず、この業界に対する政策が後追いで不十分であることを指摘しています。他の業界ではすでに進んでいる企業の責任への対応については、この業界ではやっと実行されるところであり、どのように責任を果たせばいいのかをテクノロジー企業が学習している段階であるとしています。
B-Techプロジェクトは、国際法に基づいて企業の対応基準や企業への期待を示しており、ビジネスと人権に関する重要課題について、テクノロジー企業と市民社会が国際レベルで対話する場を提供しているとBHRRCは評価しています。
<出典>
<参考>
(2023年12月01日 掲載)