ジュネーブ(2024年2月15日)-1967年以来占領されているパレスチナの人権状況に関する国連特別報告者であるフランチェスカ・アルバネーゼ氏は、イスラエルが彼女の入国を禁止する決定を下したことは、ガザで行われている残虐行為から目をそらすための行為であると述べ以下の声明を発表しました:
2008年にイスラエルが当時の国連特別報告者リチャード・フォーク氏を拘束および国外追放して以来、イスラエルは1967年以降に占領されたパレスチナの人権状況に関するすべての国連特別報告者の入国を妨げてきました。したがって、最近になってイスラエルが私の入国を「公式に禁止する」と発表したことは、(実質的には従来通りという意味で)象徴的なものであり誤解を招くものです。
ガザの状況は、マーティン・グリフィス人道問題担当事務次長兼緊急救援調整官が「その激しさ、残忍さ、範囲において他に類を見ない攻撃」であり、国際司法裁判所がジェノサイド(大量虐殺)にあたる可能性があると述べています。イスラエルの入国拒否の発表がこのガザの状況から目を背けさせてはなりません。イスラエル軍はわずか4カ月余りの間に、ガザで28,500人以上のパレスチナ人を殺害し、その70%は女性と子どもでした。約1万人の行方不明者は瓦礫の下敷きとなって亡くなっているとみられています。7万人近くが負傷し、その多くは生涯癒えない傷を抱えています。人口の75%を占める170万もの人々が避難を余儀なくされ、市民全体が飢餓の危機に瀕しています。毎日、容赦ない虐殺が行われており、最近では、140万人以上のパレスチナ人が必死に生き延びようとしている、ラファの実質的には存在しない「安全地帯」に対して攻撃が加えられています。これは国際司法裁判所が命じた暫定措置への重大な違反です。
イスラエルは、私に対する入国禁止の決定をしたのは、10月7日のハマスらによる攻撃の背景に関して私がおこなった発言が原因であると主張しています。私の発言は、フランス大統領(マニュエル・マクロン)がこの攻撃を「今世紀最大の反ユダヤ主義的な大虐殺」と表現したことに端を発しています。私は、(ハマスらによる)これらの凶悪な攻撃を、いかなる形でも正当化できない戦争犯罪として、またイスラエル国民の間に恐怖と苦痛を広げたとして、一貫して強く非難してきました。私は引き続き、いまだ拘束されている人質を含む犠牲者たち、そして世界中のユダヤ人社会に対する悲しみと連帯を表明します。また、これらの犯罪に対する説明責任を果たすよう求めます。
私は、今回のハマスらによる攻撃を明確に非難する一方で、その根本原因について、特に欧米諸国で根強い誤解があることに異議を唱えなければならないと思ったのです。つまり、今回の攻撃が反ユダヤ主義によって動機づけられているという誤解です。ホロコーストや反ユダヤ主義についての著名な研究者たちが警告しているように、このような認識は誤っており、紛争の重要な背景から目をそらし、紛争を煽るイスラエルの役割を否定するものとして危険でもあります。これらの研究者たちは最近、「ホロコーストの記憶に訴えることは、ユダヤ人が今日直面している反ユダヤ主義への理解を曖昧にし、イスラエル―パレスチナにおける暴力の原因を危険なほど誤って伝えている」と主張しています。つまり今回の攻撃について、個人レベルでは反ユダヤ主義が作用しえた場合があったとしても、その主な要因は別のところにあるのです。
背景は重要です。アントニオ・グテーレス国連事務総長はこう述べています「ハマスによる攻撃は空白の中で起こったのではないことを認識することも重要です。パレスチナの人々は56年もの間、息の詰まるような占領下に置かれてきました。」
根本的に、いかなる犯罪も他の犯罪を正当化することはできません。10月7日の恐ろしい攻撃を正当化することはできません。しかし、事務総長が言及した「56年もの間、息の詰まるような占領」とは、イスラエル人とパレスチナ人を同様に危険にさらす憎悪と暴力を煽る背景そのものです。10月7日が主に反ユダヤ主義によって引き起こされたものであるという認識の枠組みによって、この背景は見えにくくされています。
特別手続きの任務保持者の行動規範に則り、私は任務が始まった当初から、国連人権理事会から託された任務を果たすことができるよう、イスラエル国家と正式な関係を築こうとしてきました。残念ながら、イスラエルは敵意と誹謗中傷で対応しており、それはしばしば政治的に同調する組織やメディアによって増幅されています。
イスラエルは国連加盟国として、国際法を尊重し、すべての人間の権利と自由を謳った世界人権宣言と国連憲章の価値を守る義務があります。遺憾なことに、イスラエル政府は、国連事務総長、国連人権理事会およびその機構、独立した専門家、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)、国連人道問題調整事務所(OCHA)、国際司法裁判所など、法の支配、人道保護、人権の主要な推進者および擁護者を一貫して貶めています。
法の支配の優位性は、国連の存在と使命の根幹を成すものであり、イスラエルは他の国家と同様、これらの基準を遵守するよう求められています。これには、イスラエルが56年間にわたって占領してきた領土へ私が円滑に入国できるようにすることも含まれます。
長く困難な努力ではありますが、国際法を尊重し、イスラエルがパレスチナ人に課しているアパルトヘイトのシステムを終わらせることが、恒久的な平和、人間の安全保障、地域の安定を達成する唯一の方法です。
【参照】
Israel's symbolic "ban" must not distract from atrocity crimes in Gaza: UN expert
https://www.ohchr.org/en/press-releases/2024/02/israels-symbolic-ban-must-not-distract-atrocity-crimes-gaza-un-expert
【参考】
APPLICATION OF THE CONVENTION ON THE PREVENTION AND PUNISHMENT OF THE CRIME OF GENOCIDE IN THE GAZA STRIP (SOUTH AFRICA v. ISRAEL)
https://www.icj-cij.org/sites/default/files/case-related/192/192-20240126-ord-01-00-en.pdf
An Open Letter on the Misuse of Holocaust Memory
https://www.nybooks.com/online/2023/11/20/an-open-letter-on-the-misuse-of-holocaust-memory/?printpage=true
(2024年02月21日 掲載)