2024年1月18日に開催された国連人権理事会の「人権と持続可能な開発のための2030アジェンダに関する会期間会合」にて、フォルカー・トゥルク国連人権高等弁務官がスピーチを行いました。以下はその概要です。
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持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)は、あらゆる場所ですべての人々の人権を実現するために、私たちが共有しているロードマップです。しかし、地政学的危機、紛争の勃発、感染症の蔓延、気候変動によって不平等は拡大しており、深刻な貧困に苦しむ人々の数はこの一世代の間で初めて増加しています。
世界経済の安定と戦後復興のために世界銀行や国際通貨基金(IMF)が設立され、深刻な経済・金融危機から世界を守る国際金融システムが構築されてから約80年が経ちますが、そのシステムは崩壊しているといえます。感染症の影響でさらに負債を抱えた途上国の債務危機を公正、迅速かつ効果的に解決できるような多国間の法的枠組みはまだ存在していません。債務返済に追われ、多くの国々は人権とSDGsのための投資を十分に行えていません。
また、世界で横行している税システムの乱用にも対応する必要があります。多国籍企業や富裕層による租税回避によって、毎年4,800億ドルという途方もない額が失われています。税の公平な負担や公的サービスの財源確保を妨げるこうした行為によって、途上国の公衆衛生予算の半分に相当する額が流出し、人権、特に経済的、社会的、文化的権利に必要な投資をする力が奪われています。
今こそ、国際金融システムの中心に人権を据えて、人権を基盤とする経済を実現する時です。人々が自分たちに影響を与える意思決定に参加でき、資源が公平に分配され、貧困と不平等が縮小する経済が必要です。国連事務総長は繰り返し、時代遅れで不公正な国際金融システムの抜本的な改革を求めてきました。この改革には、普遍的な価値である人権とその保護を浸透させることが不可欠です。
具体的な行動として、以下の6つを提案します。
1 SDGs達成のための大規模な資金投入
SDGs達成のための資金投入は、金利を大幅に引き下げ、借入期間が長い、条件が緩やかな融資に重点を置くべきです。こうした財政支援は、対象国の能力を強化し、経済的、社会的、文化的権利と開発への権利を含むすべての人権に持続的に投資するものでなければなりません。
2 国際金融機関のガバナンス改革
世界銀行や国際通貨基金を含む国際金融機関のガバナンスを早急に改革しなければなりません。マクロ経済政策と融資決定の中心に人権を据えて、国の人権保護義務をないがしろにしたり国の政策が人権に与える影響を無視したりするような条件づけのない財政支援をしていく必要があります。また、国際金融機関が人権の実現とSDGsの達成を阻害するのではなく、積極的に支援するために、金融業務、融資、投資の前後の段階において人権への影響を考慮するような政策と実務にしていかなければなりません。
3 各国の債務問題への対応
各国が抱える債務問題に対処するには、高額の金利などの問題に対応しなければなりません。二国間債務を含むソブリン債(公的債権)のうち、債務の持続可能性が低く破綻リスクが高い債権は、利率等の条件緩和といった実効性のある債務再編が必要であり、債務国が国際人権基準に対する義務を果たせるように考慮すべきです。
4 人権を考慮した責任ある借入と融資
債務国、民間債権者や債権国は、責任ある借入と融資の原則が人権をより考慮したものとなるように改善しなければなりません。債務国が社会支出を増やすことを奨励するような多国間の法的枠組みを構築していく必要があります。世界銀行とIMFが開発した債務国の対外債務リスクを測る持続可能性分析においては、保健、教育、社会保障などへのアクセスを保障するのに必要な財政的余裕が考慮され、債権国・債権者への支払いよりもこうした権利の保障が優先されるべきです。
5 多国間の国際課税の再設計
国際課税をより公平で包摂的なものに再設計する必要があります。2023年11月の第78回国連総会で採択されたアフリカ諸国提案の「包摂的かつ実効的な国際課税協力の促進に関する決議案」は重要な一歩であり、国連が主導する法的拘束力のある多国間の国際課税に関する枠組み条約の策定につながるものです。
6 国際課税制度の改革
公平で公正なグローバル経済を実現するには、租税回避を防ぎ、政府の財源を増やすために、国際課税制度の改革が不可欠です。多国籍企業が事業を行うすべての国で税を公平に負担するためには、国際的に合意された法人税の最低税率(グローバル・ミニマム課税)を引き上げ、事業収益の情報公開やタックスヘイブン(租税回避地)への資金流入の抑制などを通じて、企業の財務面の透明性、健全性、説明責任を促進する必要があります。それはまた、より効率的で透明性の高い税制と、所得と富に対する累進課税を持つ国家経済を可能にします。
<出典>
<参考>
(2024年02月28日 掲載)