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国連ビジネスと人権作業部会による訪日調査報告書が示した課題(その4)-メディアとエンターテイメント産業

 国連「ビジネスと人権」に関する作業部会(以下、作業部会)が528日に国連のウェブサイトに公表した訪日調査の報告書で取り上げられた「メディアとエンターテイメント産業」における人権課題に関して紹介します。


アニメ業界における搾取的な労働環境

 作業部会は、メディアとエンターテイメント産業における人権課題について、特にアイドル業界とアニメ業界に深い憂慮を示しています。報告書では、アニメ市場が27400億円にのぼる利益をあげるほど拡大成長を遂げている一方で、1年目のアニメーターの平均年収はわずか約150万円であり、さらに業界で働く30.8%がフリーランスや個人事業主であり、現行の労働法の保護を受けられていないことに触れ、このような格差は長時間労働、不公正な下請け関係を永続させるものとして憂慮を示しています。

 また、クリエイターの知的財産の権利を十分に保護しない契約が搾取につながる環境を作り出しているとして、アニメの製作委員会を含む業界内の事業者が、こうした課題に対処しアニメーターのディーセントワークを強化するために影響力を行使することが必要不可欠だと述べています。

 同様にアイドル業界についても、作業部会は若いタレントがプロデューサーや広告主、代理店からのあらゆる厳しい要求に従うこと義務付ける契約を結ぶことを強要され、契約違反に対して法外な罰則が科せられていると指摘しています。


性暴力、ハラスメントに対する不処罰、救済措置の欠如

 作業部会は、こうした業界の環境が不処罰の文化を助長し、性暴力およびハラスメントを悪化させており、メディアおよびエンターテイメント産業の広い領域においてこれらの問題が十分に対処されていないと指摘しています。

 その一例として作業部会は、女性ジャーナリストに対するセクシャルハラスメントおよび虐待の事例の報告を取り上げ、こうした事例に対して放送局の対処は、被害者に休職させるか、別の部署に異動させたり医師への相談をすすめる程度で、改善のための措置が欠如していることを指摘しています。

 作業部会は、放送局、出版社および大手広告代理店といった鍵となる事業者が、性的虐待を防止し人権侵害のリスクに対処するために、ビジネス上の影響力を行使することを通して人権を尊重するという企業の責任を果たせていないと述べています。


旧ジャニーズ事務所(現・SMILE-UP.)による性的搾取および虐待

 作業部会は、旧ジャニーズ事務所(現・SMILE-UP.)による性的搾取および虐待について、日本のメディア各社が何十年にもわたり隠蔽に関与してきたことにも言及しながら依然として深い憂慮を示しています。SMILE-UP.と関りのある事業者が説明責任を果たすために様々な行動をとったことを評価しつつ、指導原則に則って、取引関係の解消が人権に与える影響について、慎重に検討しながら影響力を行使することが重要であるという認識を示しています。

 作業部会は2023年の訪日調査以降、SMILE-UP.が被害者救済委員会を通じて282名の被害者に補償内容を通知し、内201名に補償の支払いを行ったこと[1]に言及しながら、迅速な救済を求める被害者のニーズを満たすにはまだ道のりは遠いと評価しています。作業部会はSMILE-UP.の努力を認識する一方で、メンタルヘルスケアの支援を求める被害者が直面する困難などについて懸念を表明し、そして、SMILE-UP.による金銭補償に弁護士費用が含まれず被害者が自己負担しなければならないことについて容認できないと見解を示しています。


国連人権理事会で報告(626日)

 作業部会は2024626日に、国連人権理事会で報告書について概要を説明しました。その会合に認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウが参加し、ジャニー喜多川氏からの性被害を告発した二本樹顕理(にほんぎ あきまさ)さんが意見を述べました。二本樹さんは、政府と企業に対して人権デューディリジェンスの義務化および国内人権機関の設置を含む報告書に示された勧告を完全に実施することを求めるとともに、Smile Up.に対して被害者に対する完全なる救済と性的虐待が二度と繰り返されないための効果的な措置をとるよう訴えました。[2]

 政府からは在ジュネーブ国際機関日本政府常駐代表の尾池厚之特命全権大使が出席しました。尾池厚之特命全権大使は作業部会の報告書について、ビジネスと人権に関して日本が抱える課題を明らかにし、人権尊重に向けた努力を広げ意識を高めるためのものであるという認識を示したうえで、「報告書で指摘されている点のすべてに同意するわけではないが、報告書を踏まえてビジネスと人権に関する施策の検討を進めていく」という見解を示しました[3]


[1] https://www.smile-up.inc/s/su/group/detail/10012?ima=2647

[2] 人権理事会のアーカイブ映像(14th Meeting - 56th regular session of the Human Rights Council

https://webtv.un.org/en/asset/k1t/k1t17c19b5

[3]人権理事会のアーカイブ映像(13th Meeting - 56th regular session of the Human Rights Council

https://webtv.un.org/en/asset/k1b/k1b6l81o12


(2024年06月28日 掲載)