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国連ビジネスと人権作業部会による訪日調査報告書が示した課題(その2)-先住民族とマイノリティ・グループ

 国連「ビジネスと人権」に関する作業部会(以下、作業部会)が5月28日に国連のウェブサイトに公表した訪日調査の報告書における「人権侵害にさらされやすいグループ」のその2として「先住民族とマイノリティ・グループ」でとりあげられた課題に関して紹介します。

アイヌ民族
 作業部会は、2019年の「アイヌ施策推進法」の成立をアイヌ民族の権利を認める前向きな取り組みであると評価しています。しかし、アイヌ民族の先住民族としてのアイデンティティを定義することを前提とした包括的な調査が行われておらず、差別が不可視化されていると述べています。そして、アイヌ民族は教育や職場をはじめ様々な領域で、いまだ差別に直面していると指摘しています。
 作業部会は、河川での淡水サケの捕獲は水産資源保護法により、アイヌ民族の文化伝承など限られた例外をのぞき原則禁止されていることは、アイヌ民族の伝統的なサケ漁の権利を十分に考慮していないと述べています。アイヌ民族の権利を制限する一方で、海でのサケ捕獲を許可された企業にだけ利益をもたらしていることを懸念し、日本政府に対して再考を促しています。
 また、再生可能エネルギー部門を含む様々な開発プロジェクトにおいて、アイヌ民族から、「自由意志による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)が得られていないことを問題視しています。さらに、政府はアイヌ民族の森林管理と狩猟に関する集団的権利を認めていないことを残念だとしています。
 作業部会はまた、印刷物やインターネット上で、ヘイトスピーチに該当するようなアイヌ民族に対する敵対的で歪曲された見解などが急増しているという報告を受けていると述べています。

在日コリアン・在日中国人労働者
 作業部会は、在日コリアン、在日中国人の労働者に対する雇用者による度重なるヘイトスピーチを含む差別に対して懸念を表明しています。企業によるヘイトスピーチに対して被害をこうむった労働者が提訴した裁判は何年もかかり、勝訴しても金銭賠償がなく、救済へのアクセスが損なわれていると指摘しています(訳注1)。
 法務省が2017年に公表した「外国人住民調査」に言及し、就職・職場で差別的扱いを受けた人のうち、25%が外国人であることを理由に就職を断られ、19.6%が日本人よりも低い賃金を受け取り、12.8%が日本人よりも労働条件が悪かったという経験をしている、という結果を示しています。

被差別部落出身者
 作業部会は、2016年に「部落差別解消推進法」が制定されたにもかかわらず、とりわけインターネットや出版においてヘイトスピーチが行われたり、就職の採用選考においてプライバシーを侵害するような質問が行われているという報告に留意しています。差別に対して裁判で勝訴しているケースもあるものの、手続きに時間がかかること、効果的な救済を受けるのが困難であると述べています(訳注2)。
 また、作業部会は、個人情報保護法のもとで要請が行われてきたにもかかわらず、個人情報保護委員会が、部落差別に利用される可能性のある戸籍情報は、同法が対象とする「センシティブ情報」の範囲に含まれないとの見解を出していたものの、2023年12月の参議院内閣委員会で、個人情報保護委員会が、部落差別は「社会的身分」の定義に該当し、同法が対象とする「センシティブ情報」の範囲内であるとの見解を示したことを評価し、同法施行のガイドラインに追加されることに期待を表明しています(訳注3)。
 さらに、従業員80人以上の企業に公正採用人権啓発推進員の設置を促す厚労省の指導を例示し、事業主は「部落問題など人権問題の理解と認識に基づく公正な採用選考」を確保することが求められるとしています。

「人種差別撤廃条約」の適用範囲
 「先住民族とマイノリティ・グループ」の3分野をめぐる横断的な課題として、作業部会は、差別を禁止する適切な規則や法律がなければ、差別の被害者が苦情を申し立てたり、救済を受けることは極めて困難であると強調しています。先住民族、在日コリアン・中国人、被差別部落出身者に対する差別は、日本が加入している「人種差別撤廃条約」の適用範囲に含まれること(訳注4)、およびソーシャル・メディアなどが、プラットフォーム全体を通して人権尊重を促進し、危害を防止するために果たすべき役割について繰り返し強調しています。

訳注1:在日コリアン女性がフジ住宅を訴えたケース。2015年に提訴し、2023年に最高裁で賠償が確定した。報告書は「勝訴しても金銭賠償がなく」としているが、フジ住宅裁判では、差別文書の配布差し止めに加えて、132万円の賠償が命じられ、同社は支払っている。「いますぐなくそう!レイシャルハラスメント」ネットワーク(旧ヘイトハラスメント裁判を支える会 https://moonkh.wixsite.com/hateharassment

訳注2::全国の被差別部落の地名をまとめた本の出版やウェブサイトへの掲載を行うなどしている「鳥取ループ」に対する裁判などのケースをさしている。
(「部落探訪」削除裁判を支援し、鳥取ループの差別動画を残らず削除させよう(「解放新聞」2024.01.15 https://www.bll.gr.jp/info/news2024/news20240115.html

訳注3:個人情報保護法のガイドラインのなかに、同和地区出身であることは「社会的身分」に当たると考えられ、「要配慮個人情報」に該当する旨が追記された。
「Q2-4-2同和地区出身であることは、要配慮個人情報に該当するのか」(https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq7-q2-4-2/

訳注4:人種差別撤廃条約は「世系」に基づく区別や排除も「人種差別」と定義しており、人種差別撤廃委員会は2001年以来日本に対して「世系は被差別部落出身者を含む」との解釈を示しているが、日本政府はその解釈を認めていない。

<出典>
https://www.ohchr.org/en/documents/country-reports/ahrc5655add1-visit-japan-report-working-group-issue-human-rights-and
A/HRC/56/55/Add.1: Visit to Japan - Report of the Working Group on the issue of human rights and transnational corporations and other business enterprises

<参照>
https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section4/2024/05/528.html
「国連ビジネスと人権作業部会、日本への訪問調査の報告書を公表(5/28)-多岐にわたる勧告」(ヒューライツ大阪ニュース・イン・ブリーフ)

https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section1/2024/06/lgbtqi.html
国連ビジネスと人権作業部会による訪日調査報告書が示した課題(その1)-女性、LGBTQI+の人びと、障害者について-(ヒューライツ大阪ニュース・イン・ブリーフ)

https://imadr.net/wordpress/wp-content/uploads/2024/06/BHR-Japan-Report-Minority.pdf (一部日本語訳)
国連ビジネスと人権作業部会訪日調査報告書「D. マイノリティ・グループと先住民族」(IMADR)


(2024年06月13日 掲載)