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国連ビジネスと人権作業部会による訪日調査報告書が示した課題(その3)-労働の権利

 国連「ビジネスと人権」に関する作業部会(以下、作業部会)が5月28日に国連のウェブサイトに公表した訪日調査報告書の内容を紹介するシリーズ「その3」では、「テーマ別懸念事項」でとりあげられた「労働の権利」として3つの課題に焦点をあてます。

労働の権利
1. 労働組合
 作業部会は、大阪をはじめとする労働組合のメンバーが企業に対して法令遵守(コンプライアンス)を求める活動に参加したことなどにより逮捕・起訴され、威力業務妨害および恐喝未遂の容疑をかけられたり、労働者が組合結成したことを理由に出勤を拒否されたケースに言及しています。
 作業部会は、「ビジネスと人権指導原則」で述べられているように、企業が人権を尊重し、公正で合法的な職場慣行を促進するうえで、労働組合が不可欠な役割を担っている点をあげ、労働組合が合法的な手段でその活動を遂行できることの重要性を強調しています。
 そして、作業部会は、報告書の結論部分で提示している「企業および業界団体への勧告」(パラグラフ86(i))のなかで、「労働者の結社の自由、団結権、団体交渉権を促進し、国際的に事業展開する場合も含め、とりわけ脆弱な立場にある人々との有意義な関係を促進すること」と述べています。
 この報告および提言は、近畿圏で生コンクリートを輸送する運転手による労働組合である「全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部」のメンバーが2018年以降に81人が逮捕され、長期勾留されているという一連の「事件」をさしたものです(訳注1)。

2.過重労働
 作業部会は、Karoshiとローマ字表記を添えて長年の課題である「過労死」の問題に言及しています。作業部会は、問題解決に向けた政府の啓発活動、残業時間の上限規制、職場におけるハラスメント防止のための法整備を評価する一方で、業務上の疾病、特にメンタルヘルスに関連する賠償請求事件が増加している事態に懸念を表明しています。また、作業部会は医師の残業時間の上限を年間1,860時間とする特例に対して憂慮しています。

3. 移民労働者と技能実習制度
 作業部会は、「移民労働者と技能実習制度」に着目し、技能実習生などが安全基準違反や賃金未払いなどの違法行為の人権侵害にあっていること、パスポートを没収されたうえでの強制労働、および意に反する出勤や残業を強要されているなど数々の事例を憂慮しています。
 そのうえで、技能実習制度の見直しを盛り込んだ法案(訳注2)の国会での審議を踏まえ、作業部会は、新制度(育成就労制度)における人権課題についても、引き続き細心の注意をもって評価を行うことが重要であると強調しています。
 作業部会は、報告書の結論部分の「政府に対する勧告」として以下のように述べています。
<パラグラフ85>
(m)国際人権基準に基づき、技能実習制度の見直しに明確な人権保護を盛り込むこと。これには、採用手数料の廃止、技能実習生を雇用する企業における現場での義務的な人権研修の実施、応募システムの簡素化、転職の柔軟性の向上、安全な労働条件と適正な生活条件の確保、日本語学習と職業訓練の機会の提供、日本の法律で義務付けられている同一価値労働同一賃金の実施保障などが含まれる。
(n) 実地検査を強化し、強制労働および人身取引の被害者認定を強化する。
(r) 差別のない雇用機会への平等なアクセス、適正な賃金、安全な労働条件を保障することをはじめ、移住の地位(在留資格)にかかわらず、すべての労働者に労働法が適用されることに関する認識を高めること。

 技能実習制度をめぐる問題は、過去10数年以上にわたり、現代奴隷制、人身売買の一形態として、国連の人権条約の日本報告書審査が行われるたびに、抜本的に改善すべき課題として、条約委員会から改善勧告を受け続けてきました。

訳注1
http://rentai-union.net/archives/14276 (連帯広報委員会)
国連ビジネスと人権の作業部会が関生支部を訪問:
国連人権理事会「ビジネスと人権の作業部会が(2023年)7月28日、関生支部事務所を訪れ、関生組合員と面談しました。

訳注2
2024年6月14日、技能実習制度に代わる育成就労制度の創設を盛り込んだ出入国管理法および技能実習法の改定案が国会で成立しました。


(2024年06月21日 掲載)