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国連女性差別撤廃委員会、第9回日本政府報告書に対する総括所見を発表(10/29)

 国連女性差別撤廃委員会(以下、委員会)は、女性差別撤廃条約の実施状況に関する日本政府の第9回定期報告書に対する審査を1017日に開催し、総括所見を1029日に発表しました。

 委員会が前進として評価した点や、示した懸念および勧告について概要を報告します。 

2016年からの前進と示された課題

 委員会は、2016年に行われた第8回定期報告書審査以降の前進として、(a)民法改正による女性の再婚禁止期間の廃止(2024年)、(b)旧優生保護法によって不妊手術を強制された人への補償の支給を定めた法律の制定(2024年)、(c)レイプを合意のない性交渉と定義し、力の行使を要件から外し、性的同意年齢を13歳から16歳に引き上げる新しい法律の制定(2023年)、(d) DV防止法が改正され、保護対象を精神的虐待のケースにも拡大(2023年)、(e)婚姻開始年齢を男女ともに18歳へ引き上げた民法改正(2022年)、(f) 政治分野における男女共同参画推進法を改正し、男女の候補者の数ができる限り均等となることを目指す規定、セクハラおよび妊娠・出産に関するハラスメントに関する相談体制の整備について規定を設けたことを挙げています。

 一方で、委員会は、日本における女性の人権状況について懸念と改善のための勧告も示しています。選択的夫婦別姓の導入と「男系男子」のみに皇位継承を認める皇室典範の改正については、既に他のメディアでも多く取り上げられているところですが、その他にも女性(特にひとり親世帯や高齢女性)の貧困、賃金のジェンダー格差、教育機会のジェンダー格差、包括的性教育の不足、婚外子の出生届の記載における差別的扱い、政治分野における女性議員の割合の低さ、職場の管理職に占める女性の割合の低さ、など様々な課題を指摘しています。

 他にも、条約に定められた権利が侵害された際に個人が委員会に直接通報できる個人通報制度を定めた選択議定書について日本政府が批准を「検討中」と回答し続けていることに対して、時間がかかりすぎていると懸念をあらわし、批准に対するあらゆる障壁を速やかに対処して取り除くよう勧告しています。

 このように前回までの総括所見から進展がないために繰り返しとなる勧告もあるなか、女性差別撤廃委員会の総括所見として初めて取り上げられた課題もありました。

 特に、米軍基地が集中する沖縄で繰り返し引き起こされてきた米軍関係者による沖縄女性への性暴力については、これまで人種差別撤廃委員会や拷問禁止委員会で勧告が出されたことはありましたが、今回初めて女性差別撤廃委員会の総括所見でも取り上げられました。委員会は、沖縄の女性と少女に対する性暴力およびその他のジェンダーに基づく暴力を防止し、加害者の捜査、訴追、処罰を適切に行い、サバイバーに十分な補償を提供するための措置をとることを勧告しています。

 また、トランスジェンダーの人が戸籍上の性別を変更する際に生殖機能をなくす手術を要件とした「性同一性障害特例法」の条項について、最高裁の違憲判決(2023年)に則って当該条項を改正し、手術を受けなければならなかったすべての被害者が補償を含む効果的な賠償を受けられるようすることを求める勧告も出されています。

重視される交差性差別複合差別の視点

 総括所見では、アイヌ女性、部落女性、在日コリアン女性、障害のある女性、性的マイノリティの女性(LBTQI+)、移民女性などが交差的な形態の差別のために教育、雇用そして健康へのアクセスが制限されているとし、随所にわたって、マイノリティ女性たちの人権課題について取り上げています。

 たとえば、ジェンダーステレオタイプについてはアイヌ、被差別部落、在日コリアンの女性や少女に対する根強いジェンダーステレオタイプに対する懸念を示し、これを効果的に解消するため、国のすべての分野で対応する包括的かつ持続可能な措置を実施するための国レベルの政策を策定し、実施するよう勧告が出されています。

 ジェンダーに基づく女性への暴力に関しても、被害者が支援サービスにアクセスすることが、地方に住む女性や、民族的マイノリティの女性、移民女性、障害のある女性、LBTI女性などにとって困難であり、特に、移民女性は、在留資格の維持に「正当な理由」を求められるため、在留資格が取り消されることを恐れて被害を報告することをためらう状況があると懸念を示し、法改正を通じて在留資格に関係なく被害者を保護できるようにするよう勧告しています。

 その他、政治的・公的活動への平等な参加について、障害のある女性や、部落、アイヌおよび在日コリアンなどの民族的マイノリティの女性が、自分たちの生活に影響を与える意思決定に占める割合を高めるため暫定的特別措置を含む具体的な措置をとることや、雇用における差別とハラスメントについても先住民族の女性、部落女性、障害のある女性、移民女性、LBTI女性に言及し、有害なジェンダー規範や社会規範の解消に対処するよう勧告が出されています。

フォローアップを求めた4つの勧告

 委員会は、以下4つの勧告についてはフォローアップ項目として、取り組みの状況を2年以内に報告するよう日本政府に求めています。

  • 結婚後も女性が旧姓を保持できるようにするため、夫婦の姓の選択に関する法律を改正すること。
  • 女性の意思決定機関での平等な代表を早期に実現するための特別措置として、女性が国会議員に立候補する際の供託金を一時的に300万円から引き下げること。
  • すべての女性と少女が緊急避妊薬を含む近代的で手頃な避妊方法に適切にアクセスできるようにし、16歳および17歳の少女が避妊薬にアクセスする際に親の同意が必要とされる要件を撤廃すること。
  • 女性が中絶を求める際に配偶者の同意が必要とされる要件を撤廃するため、法律を改正すること。


【参照】

Concluding observations in the ninth periodic report of Japan

https://tbinternet.ohchr.org/_layouts/15/treatybodyexternal/Download.aspx?symbolno=CEDAW%2FC%2FJPN%2FCO%2F9&Lang=en


(2024年10月30日 掲載)