9月18日に開催された国連「エネルギー移行のための重要鉱物に関するパネル」が、脱炭素社会への移行に不可欠な重要鉱物の採掘から使用、廃棄までの全過程を含むバリューチェーンの中心に人権を据えることの重要性を強調しました。国連事務総長が専門家を招集し設立したこのパネルにより、政府や企業、地域コミュニティにとって持続可能で責任ある重要鉱物のバリューチェーンのための共通原則が策定され、報告書にまとめられました。以下はパネルの発表に対する国連ビジネスと人権作業部会や国連特別報告者などが出した声明とパネルの報告書の内容の概要です。
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パネルが9月11日に発表した報告書「エネルギー移行のための資源調達」では、脱炭素社会に向けた重要鉱物の採掘・加工・使用・リサイクル・廃棄を含むライフサイクルを公平で公正なものとするために、こうした鉱物のバリューチェーンにおいて人権を中心に据えなければならないと指摘しており、国連の専門家もこれを歓迎しています。
報告書によれば、重要鉱物とは、再生可能エネルギーの生産のための設備建設、発電、送配電、蓄電に必要な鉱物を指しています。電気自動車(EV)やそのバッテリーに使われる銅・コバルト・ニッケル・リチウム・アルミニウム、レアアース、太陽光パネルに使われるシリコン、風力発電や水力発電に使われる銅といった鉱物が含まれます。鉱物の採掘は人権侵害や環境の悪化、紛争とつながることが多く、先住民族の土地や資源の収奪、地域住民の生活、水や大気への影響、強制労働、ジェンダーに基づく暴力などが指摘されています。
報告書には重要鉱物に関する7つの原則が含まれており、この原則は国連文書の規範やコミットメント、法的義務に基づくものとされています。国際的な人権の枠組みに沿った原則であるため、各国において未批准の国際人権条約があっても、国際的な人権の枠組みを支持しているかぎり、重要鉱物に関するすべての行動において、この原則が各国に適用されるとしています。
国には、すべての人の環境に対する権利を保護し、重要鉱物がもたらす生物多様性の損失、水不足、海洋劣化、気候への影響、有害物質による汚染などに声を上げる環境活動家を守る義務があることを国連の専門家が強調しています。また、国はこうした影響に対する予防原則を適用し、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」を含む先住民族の権利や、重要鉱物の探査や採掘による環境の悪化で最も深刻な影響を受ける農民などの権利を認識して保護しなければならないとしています。
企業は、重要鉱物に関する原則が「信頼できる業界基準」としている国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に従い、国際的に認められている人権を尊重する責任があります。国連の専門家によれば、特に、重要鉱物のバリューチェーンとライフサイクルを通して、人権リスクを特定・評価して、リスクを防止・軽減するための対策を講じ、そうした対策の実効性を追跡調査するべきだとしています。また、企業は、影響を受ける可能性のある人々、特に先住民族に十分な情報を提供し、影響を受けた人々が効果的な救済を受けられるようにする必要があるとしています。
重要鉱物のニーズと採掘の代替手段については、科学的根拠に基づいて、事前に包括的な第三者評価を行うことが重要であると専門家は指摘しています。
<エネルギー転換に不可欠な重要鉱物に関する原則>
原則1:すべての鉱物バリューチェーンの中心に人権を据えなければならない。
原則2:危機に瀕している地球、環境、生物多様性の本来あるべき姿を保護しなければならない。
原則3:鉱物バリューチェーンは公正で公平なものでなければならない。
原則4:利益の共有、付加価値の創出、経済の多様化によって開発を促進しなければならない。
原則5:投資、金融、貿易は責任ある公正なものでなければならない。
原則6:良い統治のためには、透明性、説明責任、腐敗防止対策が必要である。
原則7:多国間および国際協力は、グローバルな動きに沿った、平和と安全保障を促進するものでなければならない。
<出典>
<参考>
(2024年11月19日 掲載)