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特別寄稿:日本は人権の改善に国会の積極的関与を

馬橋 憲男(うまはし のりお)
フェリス女学院大学名誉教授

 普段あまり意識しないかもしれないが、私たちの人権は国連が長年かけて構築してきた「国際人権保障制度」によって守られている。しかし、この制度の仕組みや、市民がどのように参加できるか、人権被害を受けた場合にどう活用したらよいかは、あまり知られていない。
 このため「実施ギャップ」が生まれている。国際人権条約に入っている国でも、市民の人権が十分に保護されないケースが見受けられる。国連は、このギャップを解消するため、国会議員の積極的な関与こそ大事だと指摘している。

国際人権保障制度とは
 まず、国際人権保障制度の主な仕組みに次の三つがある。
1.締約国審査:女性差別撤廃、子どもの権利、障害者権利などの条約は、締約国が規定を守っているか、各条約機関が人権専門家による審査をし、改善勧告を出す。
2.普遍的定期的審査(UPR);ほぼ5年ごとに全国連加盟国を対象にあらゆる人権について各国の政府代表が審査し、勧告する。
3.特別手続き:ジェンダー平等、少数者の権利など46テーマと14カ国が対象で、独立した人権専門家が訪問調査を行い、勧告を発する。2023年に訪日調査したビジネス&人権作業部会もそうである。

独立した「国家(内)人権機関」の導入
 人権条約の審査やUPRでは、一国の政府とNGOの意見に大きな隔たりが生じるケースが少なくない。これを解消するために「国家(内)人権機関」が考案された。構成、予算、活動のすべてで「政府から独立」が絶対的要件である。人権被害の調査・救済、人権教育・研修、政府への勧告などを行う。現在115カ国で設置され、日本は30年前から勧告されているが、いまだに設置していない。
 国家人権機関は条約審査でも中枢的な役割を担う。審査の大元となる政府報告書について独自に評価し、勧告案を提出するのだ。審査委員は現地に赴いて調査をしないので、この情報は実効性のある勧告を作成するのに非常に重要である。

国会の参加の重要性
 この国家人権機関とともに両輪をなし、ますます重視されるのが国会である。国連は人権条約の審査やUPRの全過程への国会議員の参加を推奨している。それは人権に関する法律や政策を決定し、行政府による実施状況を監視するのは、立法府である国会だからである。
 女性差別撤廃条約では、いち早く2008年から締約国に対し、「国が報告過程と条約の規定の実施に国会を関与させる重要性に注意を払うように」と、政府報告書に「国会」の項目が設けられた(注1)。
 従来から政府報告書(案)の作成に国会議員が国家人権機関、NGOとともに参加し、国連勧告が出たら、その実施の可否について国会で審議する国も少なくない。
 さらに国連が積極的に推奨するのが、国会議員が政府代表団の一員やオブザーバーとして国連審査に直接参加することである。審査委員や他の国の国会議員との意見交換や交流を通して、自国の人権状況を国際基準で見つめなおし、知見や経験を共有し、政策の策定と政府の監視に生かすためである。
 これが特に顕著なのがUPRである。審査を担当するのが他の国の政府代表なので、自国の人権状況が国際的にどう評価されているか、わかりやすい。

国会に「人権委員会」の設置を
 また、国連は、列国議会同盟(IPU)と協力し、国会に「人権委員会」の常設を働きかけている。そのためにセミナーを開催し、啓発資料を作成している。日本では国会議員による差別発言が問題視されることも珍しくなく、国会議員の人権意識の向上も人権委員会の重要な役割とされる。
 そうした資料の「国会と人権--自己評価ツール」(注2)などは、国際人権保障制度の仕組みについて詳しく説明し、下記のような国会による人権の促進・保護の事例を紹介している。

<韓国>
 ジェンダー平等枠組み法で女性差別撤廃条約の定期審査に国連に提出する政府報告書は、事前に国会へ提出しなければならない。また、ジェンダー平等委員が政府による条約の履行状況をモニターする。
<カナダ>
 上院の常設人権委員会が重要な問題について調査し、政府に勧告を行う。服役者の状況、サイバーによるいじめ、子どもの権利条約の国内法への影響などが該当。刑務所や難民収容施設の視察も行う。
<英国>
 上下両院の合同人権委員会は、法案が人権条約などの国際基準に適合しているか審査する。人身売買、不当な勾留などついて調査し、刑務所を視察し、その結果を報告書として公表する。
<ウズベキスタン>
 国会はUPRの全過程に関わり、国会の人権委員会の議長が政府代表団の団長を務めた。政府関連省庁、市民社会の代表が参加する公聴会を開催し、その提案やコメントが政府報告書に盛り込まれるようにする。国連勧告の完全実施に向けた国内行動計画案の作成に参加する。

国会に人権委員会設置し、国会議員の国連審査への参加を
 近年、障害者権利条約、自由権規約、それに女性差別撤廃条約の対日審査が相次ぎ、重要な勧告が出たが、国会で審議された様子はない。これでは「審査のための審査」で、国際社会の貴重な知恵が市民の人権の改善に生かされない。
 日本も国際人権基準に則り、国会に人権委員会を設置し、国会議員が条約審査やUPRへ参加する体制を整え、市民の人権改善に積極的に貢献すべきである。

注1 2008年の女性差別撤廃委員会第41会期で採択された声明
National parliaments and the Convention on the Elimination of All Forms of Discrimination against Women
https://www.ohchr.org/sites/default/files/documents/HRBodies/CEDAW/Statements/Parliamentarians.pdf

注2 Parliaments and Human Rights : A self-assessment toolkit
https://www.ipu.org/resources/publications/toolkits/2023-10/parliaments-and-human-rights-self-assessment-toolkit

https://www.ohchr.org/en/publications/policy-and-methodological-publications/parliaments-and-human-rights-self-assessment


(2024年11月28日 掲載)