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国連専門家ら、米国トランプ大統領の「ガザ所有」構想に抗議(2/11)
米国のドナルド・トランプ大統領が2月4日、イスラエルのネタニヤフ首相との会談後の会見で、米国がガザを所有し、パレスチナの住民を国外へ移住させる構想を発表したことに対し、国連の専門家ら35名の連名による抗議声明が出されました。
専門家らは「主要国によるこのような露骨な国際法違反は、軍事侵略に関する世界的なタブーを打ち破り、他の侵略的な国家による外国領土の奪取をも力づけ、世界の平和と人権に壊滅的な影響を及ぼす」ものであり、「世界を植民地支配の暗黒時代に逆戻りさせることになる」と深刻な懸念を表明しています。
また専門家らは、米国の提案が「武力による外国領土の侵略・併合、住民の強制移住、そしてパレスチナの人びとからガザを主権国家パレスチナの一部として維持するという不可侵の権利を奪うこと」であり、「このような違反行為は、国際法のもたらす安定を破壊し、『力が支配する無法状態』を生み出すことになる」と強く警告します。そして「イスラエルによる50年以上にわたるパレスチナ占領が、イスラエルにもパレスチナにも平和や安全をもたらさなかった」ことを喚起し、米国による「ガザ所有」も同様に「破滅的な結果を招き、永続的な戦争、死、破壊を引き起こすだろう」と述べます。
第二次世界大戦後、1949年のジュネーブ条約により、占領地からの民間人の大量追放は戦争犯罪として認識されており、現在では、こうした行為は人道に対する罪にも該当します。これらの国際法に違反する米国の提案は、「1947年-1948年のナクバ[1]以来続いてきた、(家屋の破壊、立ち退き、天然資源の略奪、そして違法なイスラエル入植地の建設などを含む)パレスチナ人の土地からの強制移住を加速させる」と専門家らは非難しています。
「もし米国大統領が本当にパレスチナ人の福祉を懸念しているのであれば、米国は恒久的な停戦を仲介し、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)への資金提供を再開し、国際人道法違反の重大なリスクにもかかわらずイスラエルに提供された米国製兵器による被害に対する補償を行い、武器の移転を停止すべきだ。さらに、イスラエルに対し、ガザの復興資金の提供、違反行為への賠償、国際犯罪の加害者への責任追及を求め、パレスチナ国家の実現を本格的に支援すべきである。」
イスラエル軍によるガザ攻撃では、48,100人以上のパレスチナ人が死亡し、110,000人が負傷し、その大多数が女性と子どもとされています。また、ガザ住民の85%(約190万人)が家を失い、食糧や水などの基本的な生活必需品を奪われ、さらに、住宅、農業、公共インフラの大部分が損壊または破壊され、環境にも壊滅的な影響を及ぼしています。
専門家らは国際社会に対して「人権と国際法を重視するすべての国々は、米国大統領の違法な脅迫を断固として非難すべきだ。世界は二度と、暴力と力による支配がまかり通る無法状態を受け入れてはならない」と呼びかけています。
この声明を発表した国連の専門家は以下の通り:
- ベン・ソール(Ben Saul) - テロ対策と人権・基本的自由の促進・保護に関する特別報告者
- フランチェスカ・アルバネーゼ(Francesca Albanese) - 1967年以降占領されたパレスチナ地域の人権状況に関する特別報告者
- ジョージ・カトルガロス(George Katrougalos) - 民主的かつ公平な国際秩序の促進に関する独立専門家
- マーガレット・サターズウェイト(Margaret Satterthwaite) - 裁判官および弁護士の独立に関する特別報告者
- メアリー・ローラー(Mary Lawlor) - 人権擁護者の状況に関する特別報告者
- ファリーダ・シャヒード(Farida Shaheed) - 教育の権利に関する特別報告者
- ジーナ・ロメロ(Gina Romero) - 平和的集会および結社の自由への権利に関する特別報告者
- マイケル・ファクリー(Michael Fakhri) - 食料の権利に関する特別報告者
- ジュヌヴィエーヴ・サヴィニー(Genevieve Savigny) - 農民および農村労働者に関する作業部会議長
- 小保方智也(Tomoya Obokata) - 現代的形態の奴隷制に関する特別報告者
- バラクリシュナン・ラジャゴパル(Balakrishnan Rajagopal) - 適切な住居の権利に関する特別報告者
- クラウディア・マーレル(Claudia Mahler) - 高齢者のすべての人権の享受に関する独立専門家
- ローラ・ニイリンキンディ(議長)(Laura Nyirinkindi, Chair)、クラウディア・フローレス(副議長)(Claudia Flores, Vice-Chair)、ドロシー・エストラーダ・タンク(Dorothy Estrada Tanck)、イヴァナ・クルスティッチ(Ivana Krstić)、ハイナ・ルー(Haina Lu) - 女性および少女に対する差別に関する作業部会
- アストリッド・プエンテス・リアーニョ(Astrid Puentes Riaño) -清潔で健康的かつ持続可能な環境への権利に関する国連特別報告者
- ヨヴァナ・イェズディミロヴィッチ・ラニト(議長)(Jovana Jezdimirovic Ranito, Chair-Rapporteur)、ラヴィンドラン・ダニエル(Ravindran Daniel)、ミシェル・スモール(Michelle Small)、ジョアナ・デ・デウス・ペレイラ(Joana de Deus Pereira)、アンドレス・マシアス・トロサ(Andrés Macías Tolosa) - 傭兵の使用に関する作業部会
- ペドロ・アロホ=アグド(Pedro Arrojo-Agudo) -安全な飲料水と衛生に対する人権に関する特別報告者
- リーム・アルサレム(Reem Alsalem) - 女性および少女に対する暴力に関する特別報告者
- スーリヤ・デーヴァ(Surya Deva) - 発展の権利に関する特別報告者
- ビナ・D・コスタ(議長)(Bina D'Costa, Chair)、バーバラ・G・レイノルズ(Barbara G. Reynolds)、イザベル・ママドゥ(Isabelle Mamadou) - アフリカ系住民に関する専門家作業部会
- アイリーン・カーン(Irene Khan) - 意見・表現の自由の促進と保護に関する特別報告者
- ヘバ・ハグラス(Heba Hagrass) - 障害者の権利に関する特別報告者
- アシュウィニ・K.P.(Ashwini K.P.) - 現代的形態の人種主義、人種差別、外国人嫌悪および関連する不寛容に関する特別報告者
- ニコラス・レヴラ(Nicolas Levrat) - マイノリティ問題に関する特別報告者
- シヴォーン・ムラリー(Siobhán Mullally) - 人身取引(特に女性と子ども)に関する国連特別報告者
- パウラ・ガヴィリア・ベタンクール(Paula Gaviria Betancur) - 国内避難民の人権に関する特別報告者
参照
https://www.ohchr.org/en/press-releases/2025/02/us-proposal-take-over-gaza-would-shatter-fundamental-rules-international
[1] 1948年5月のイスラエル建国に前後して70万人以上のパレスチナ人が故郷を追放された悲劇をあらわす言葉。アラビア語で「大厄災」を意味する。