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「人権教育・啓発基本計画(第二次)中間試案」のパブコメに意見送付しました(2/26)

 政府は、2000年制定の「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」に基づき策定した「人権教育・啓発に関する基本計画」(2002年閣議決定、2011年一部変更)について、2024年から人権教育・啓発関係府省庁連絡会議幹事会において、第二次の基本計画を策定するための検討を進めています。
 同幹事会はこのほど「基本計画(第二次)中間試案」を取りまとめ、法務省人権擁護局が窓口となり、2025年1月28日から2月26日まで意見募集(パブリック・コメント)を実施しました。受け付けた意見を参考に、「基本計画」(第二次)を最終決定するとしています。
 中間試案は、「第一次計画策定後の社会経済情勢の変化と国際的潮流の動向」(第2章)など6章からなる63ページにおよぶ内容です。意見募集を受けて、ヒューライツ大阪は2月26日、18項目の意見(下記に全文)を送付しました。

 全体へのコメントとして、「基本計画」全体を貫く課題として、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」および「持続可能な開発目標」(SDGs)の内容を具体的に引用・例示してください(意見1)と提案し、その理由を述べています。

 個別の項目に関して、第1章の「はじめに」について、人権教育・啓発のあり方や経緯に関してすべての市民が理解できるよう、次のようにコメントしました。
 「人権擁護推進審議会による『人権救済制度の在り方について(答申)』の概要を含む『人権教育・啓発推進法』の制定に至る経過を記述してください。この答申に示されている人権救済機関は、現行の人権擁護制度とは異なる、政府からの独立性を不可欠とする『人権委員会』の設立です」(意見4)
 第2章の「国際的潮流の動向」に関して、パリ原則に基づく政府から独立した「国内人権機関」(人権委員会)が世界で118機関も機能しているなかで日本にはまだ設立されていないこと、およびその理由の説明を求めています(意見7)
 また、「国際的潮流の動向」の項目に、マイクロアグレッションに関する人権教育・啓発の要請の高まりを新規に追加し、基本計画のなかに位置付けることを提案しています(意見11)
 さらに、2024年10月の女性差別撤廃委員会による日本への勧告を引用し、「学校での性教育の実施」「教科書に『慰安婦』問題を適切に記載する」などを基本計画に盛り込むことや、ユネスコが中心となって作成された『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』の例示を求めています(意見14)

<参考>
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=300120124&Mode=0
人権教育・啓発に関する基本計画(第二次)中間試案に係る意見公募
https://www.moj.go.jp/JINKEN/JINKEN83/jinken83.html
人権教育・啓発に関する基本計画
https://www.moj.go.jp/JINKEN/renrakukaigi.html
人権教育・啓発関係府省庁連絡会議
https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC1000000147/
人権教育及び人権啓発の推進に関する法律


人権教育・啓発に関する基本計画(第二次)(中間試案).pdf

人権教育・啓発に関する基本計画2002.pdf


「人権教育・啓発基本計画(第二次)中間試案」への意見


2025年2月26日
一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)

<全体>
意見1:
 「基本計画」全体を貫く課題として、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」および「持続可能な開発目標」(SDGs)の内容を具体的に引用・例示してください。
(理由)
 SDGs の根幹には人権が据えられていることから、人権教育・啓発にはSDGsの内容を、学校および市民社会であまねく周知し、理解や実践を図ることが重要です。しかしながら、中間試案では、「第5章人権教育・啓発の推進方策」の「2 各人権課題に対する取組」の「ア 女性」の1課題にしか言及されていません。
「持続可能な開発目標」(SDGs)は、内閣総理大臣を本部長とする「推進本部」が設置され、国の重要施策として実施されている課題です。SDGsの推進は、2030年まで残り5年余りとなっているものの、終了後も17の目標は継承されるべき重要課題です。

意見2:
「国民」という表現を、「市民」に置き換えてください。
(理由)
 全文中、「国民」と表記されている箇所が99あります。「一般市民」および「市民グループ」という2カ所以外、「市民」とは表現されず、すべて「国民」と記されています。文中で使われている「国民」は、「オ 部落差別(同和問題)」と「キ 外国人」の項目の「日本国民」という箇所をのぞけば、文脈上、いずれも外国籍住民も含む内容だと解釈されます。
 そうしたことから、SDGsの「誰一人取り残さない」という理念が誤解されないよう「市民」とするのが適切です。

意見3:
政府が2020年に策定した「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」に掲げられた施策(措置)との整合性を確認してください。
(理由)
 「行動計画」で政府が確保を言明し、「国連ビジネスと人権に関する指導原則」で求められている「政策の一貫性」を確保する必要があるため。

<該当項目>
第1章 はじめに
意見4:
 「はじめに」の中に、人権擁護推進審議会による「人権救済制度の在り方について(答申)」の概要を含む「人権教育・啓発推進法」の制定に至る経過を記述してください。この答申に示されている人権救済機関は、現行の人権擁護制度とは異なる、政府からの独立性を不可欠とする「人権委員会」の設立です。
(理由)
 人権擁護推進審議会が2001年に法務大臣に答申した「人権救済制度の在り方について」の概要を含む「人権教育・啓発推進法」の制定に至る経過を記述することにより、人権教育・啓発のあり方や経緯に関してすべてのステークホルダーが理解できるため。

第2章1 我が国における人権意識の変化
意見5:
 2000年人権教育・啓発推進法の施行以降の四半世紀における施策の経過や効果などを分析・評価する記述を加えてください。
(理由)
 「従前の基本計画に従って実施されてきた人権教育・啓発施策の現状を分析し、その検証結果に基づいて見直しがなされることが必要」(「人権教育・啓発に関する取組課題に係る調査研究有識者検討会報告書」)であるため。

第2章1 我が国における人権意識の変化
(該当箇所)「国際準則」(1ページ)
意見6:
 「国際基準」に修正してください。
(理由)
 「国際準則」という用語は馴染みがなく、「国際基準」が一般的に普及している言葉であるため。

第2章3 国際的潮流の動向
意見7:
「国際的潮流の動向」の冒頭に、「国内人権機関世界連盟」(GANHRI)によると、2024年12月現在、人権促進および人権救済のために、パリ原則に基づき政府から独立した「国内人権機関」(人権委員会)が、世界で118機関も機能していること、しかし日本にはまだないこと、およびその理由を明記してください。
理由:
 日本は、1998年実施された自由権規約委員会の日本報告書審査以来、毎回の国連人権条約の審査において「国内人権機関」を設立するよう勧告を受けています。現行の人権擁護委員制度では十分でないことが各人権条約委員会で指摘され続けているにもかかわらず、国際基準に則った人権機関がいまだに設立されていないことの理由を明確に説明する必要があります。

第2章3 国際的潮流の動向
(該当箇所)P5の(2) 「ビジネスと人権」に関する国際的な要請の高まり
意見8:
「企業も人権を尊重する「責任」があるとして」の後に、「世界人権宣言」を追記する。
(理由)
 「国連ビジネスと人権に関する指導原則」においても明記されている世界人権宣言は国際規範として極めて重要であるため。

第2章3 国際的潮流の動向
(該当箇所)P5の(2) 「ビジネスと人権」に関する国際的な要請の高まり
意見9:
「政府は、各企業がサプライチェーン全体で更に人権尊重の責任を果たすことができるよう」の記述に、「サプライチェーン」について注釈を加える、または「バリューチェーン」に修正してください。
(理由)
 企業活動のいわゆる下流(川下)を含んで理解される場合と、含まずに理解される場合がある「サプライチェーン」は、より定義を明確にしながら使用する必要があるため。

第2章3 国際的潮流の動向
(該当箇所)P7の (3) いわゆる「複合差別」の観点
意見10:
「差別を受けやすい特定の属性が存在している ことを前提」のところに、「障害者でかつ女性であったり、在日外国人でかつ女性であったりするなど」の具体例を入れてください。
(理由)
 「差別を受けやすい特定の属性」という抽象的な表現ではよくわかりません。「複合差別」という言葉をよく知らない人が多数いるはずです。注にある人権条約の条文や条約機関の文書を反映するような具体的な例を書くべきです。

第2章3 国際的潮流の動向
(該当箇所)P6の「(3) いわゆる「複合差別」の観点」の後に追加する項目として
意見11:
「(4)マイクロアグレッションに対する人権教育・啓発の要請の高まり」を新たな項目として追加し、マイクロアグレッションに対する人権教育・啓発の必要性を基本計画のなかに位置付けてください。
(理由)
 マイクロアグレッション(Microaggressions)とは、発し手の悪意の有無にかかわらず、マイノリティに対して偏見や見下し、軽視などを伝える言動や態度を指します。多くの場合、発し手に悪意がないために見過ごされやすいですが、受け手のマイノリティに対して心理的ストレスなど負の影響を与え得ることが指摘されています。
 露骨な差別とは異なって、対人間で生起する不可視化されやすい差別的な事象を捉えるマイクロアグレッションの概念は国際的に注目されており、UNESCOが刊行するTeaching Respect for All(2014年)、Fighting Racism and Discrimination: A UNESCO Toolkit(2023年)などでも随所にわたって言及されています。
 また、日本国内においても複数の民族・人種にルーツがある人々を対象としたアンケート調査において、回答者の98%がマイクロアグレッションの経験があるという結果が得られています(下地, 市川「日本における複数の民族・人種等のルーツがある人々のアンケート調査結果」、2024年7月1日)。
 マイクロアグレッションとなる言動の多くは規則や法律で禁止するべき対象とは異なって、人権教育・啓発の果たす役割が重要であり、すでに様々な学校教育における人権教育や地方自治体の人権推進事業、企業等のDEI推進プログラムにおいてもマイクロアグレッションが取り上げられるようになってきています。
 かかる国内の実態および国際的潮流を踏まえて、基本計画のなかに明示的に位置付けられるべきと考えます。

第4章 3国民の自主性の尊重と教育・啓発のおける中立性の確保
第5章4総合的かつ効果的な推進体制等
意見12:
 「中立性」という言葉が恣意的に解釈されないよう、より具体的な例を示してください。
(理由)
 現場での恣意的な解釈がなされる懸念があるため、中立性という言葉の共通理解が必要です。「中立性」は、憲法、および世界人権宣言をはじめとする国際人権基準に基づいた行動や姿勢であると考えます。

第5章人権教育・啓発の推進方策の「1人権一般の普遍的な視点からの取組」
意見13:
 「人権一般の普遍的な視点」を「人権の普遍的な視点」に修正してください。
(理由)
 「人権一般の普遍的な視点」という小項目が設けられ、「2各人権課題に対する取組」における各人権課題と並列してカテゴリー化されていますが、「一般」と表現する意味が不鮮明です。個別の人権課題を考える基礎に、普遍的な人権があるものと考えます。

第5章2(2)各人権課題に対する取組 ア女性
p19 (ア) 人権教育・啓発等 ⑤
意見14:
 「女子差別撤廃条約関連文書や女性の地位向上に関する会議等の関連文書の内容の周知に努める」(内閣府、外務省)の箇所に、関連する女性差別撤廃員会をはじめとする国連人権条約機関による総括所見に盛り込まれた、学校での性教育の実施、および教科書に「慰安婦」問題を適切に記載することなど、日本への勧告を具体的に明記してください。
 性教育に関しては、2009年にユネスコが中心となって作成された『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』を例示してください。このガイダンスは、一貫して性(セクシュアリティ)は「人間の生涯にわたる基本的な要素」として位置付けられ、人権を基軸とした性教育を具体的に提起した内容であるからです。
理由:
<性教育に関して>
●女性差別撤廃委員会の総括所見(2024年)パラグラフ38「教育」
 (c)早期妊娠や性感染症を予防するための責任ある性行動を含む、年齢に応じた包括的な性に関する指導が、定期的な授業の提供を通じて、また、その内容と使用される用語に関して政治家や公務員が干渉することなく、学校の教育課程に適切に組み込まれることを確保する。

●障害者権利委員会の総括所見(2022年)パラグラフ53「健康(第25条)」
 (e) 質の高い、年齢に適した性及び生殖に関する保健サービス及び包括的な性教育が、全ての障害者、特に障害のある女性及び女児に対して、障害者を包容し、かつ利用しやすいことを確保すること。

●自由権規約委員会の総括所見(2022年)パラグラフ35「生殖に関する健康及び精神的健康」
 (a)思春期の児童の性と生殖に関する健康について包括的政策をとるとともに,早期妊娠及び性感染症の防止に特に焦点を当て,思春期の女子及び男子を対象とした性と生殖に関する教育が学校の必修カリキュラムの一部として一貫して実施されることを確保すること。

<「慰安婦」問題に関して>
●女性差別撤廃委員会の総括所見(2024年)パラグラフ38「教育」
 (d)教科書出版に関する政府のガイドラインにおいて、「慰安婦」を含む女性に関する過去の実経験を教科書に適切に反映するよう求め、そのことによって歴史的事実が客観的に生徒と一般市民に確実に示されるようにする。また、全ての教育機関において教科書の正確性と標準化を確保できるように、出版社の同ガイドラインの尊重度合いを見守る。

●自由権規約委員会の総括所見(2022年)パラグラフ29「奴隷制、隷属、人身取引の撤廃」
 (c)教科書での十分な言及を含む「慰安婦」問題に関する教育及び被害者を中傷し又は当該案件を否定するあらゆる企てへの強い非難。

第5章2(2)各人権課題に対する取組 オ部落差別(同和問題)
意見15:
 「部落差別の解消の推進に関する法律」第6条に基づき、国が部落差別の実態調査を実施した結果に基づき、教育・啓発に関する今後の施策の在り方があげられています。「今後も継続して実態調査をする」ことを明記してください。
理由:
 「部落差別の解消の推進に関する法律」の前文にあるように、「現在もなお部落差別が存在するとともに、情報化の進展に伴って部落差別に関する状況の変化が生じていることを踏まえ」としているように、状況の変化を認識し、実効性のある施策を策定するために定期的な実態調査が必要です。

第5章2(2)各人権課題に対する取組 キ外国人
意見16:
 外国人に対する偏見や差別を解消するための人権教育・啓発だけでなく、日本語教育を含む外国人の人権としての「教育を受ける権利」に関して明記してください。とりわけ、子どもの教育権の保障について、不就学問題の解消、朝鮮学校の高校授業料無償化への方向性について記述してください。
理由:
●人種差別撤廃委員会の総括所見(2018年)パラグラフ22「在日韓国・朝鮮人の状況」
 委員会は,韓国・朝鮮人の生徒の差別のない平等な教育の機会を保証するため,「朝鮮学校」が高等学校等就学支援金の支給にあたり不公平な取扱いをされないことを保証すべきという前回の勧告(CERD/C/JPN/CO/7-9, パラグラフ 19)を繰り返す。

●人種差別撤廃委員会の総括所見(2014年)パラグラフ19「朝鮮学校」
 委員会は,締約国に対し,その立場を修正し,朝鮮学校に対して高等学校等就学支援金制度による利益が適切に享受されることを認め,地方自治体に朝鮮学校に対する補助金の提供の再開あるいは維持を要請することを奨励する。委員会は,締約国が,1960年のユネスコの教育における差別待遇の防止に関する条約への加入を検討するよう勧告する。

意見17:
 外国籍住民を相談・支援の対象と位置付けるだけでなく、権利行使の主体として、また共生社会の担い手として、エンパワメントを促進する施策を検討してください。
理由:
 外国籍住民は、地域社会、そして日本社会の構成員として参加・貢献できるような環境づくりが必要です。

第5章2(2)各人権課題に対する取組 キ外国人
(該当箇所)p.38
意見18:
 「我が国の歴史的経緯に由来する在日韓国・朝鮮人等をめぐる問題」を「我が国が朝鮮半島を植民地支配したという歴史的経緯により日本に在住することになった在日韓国・朝鮮人等に対する民族差別や排外意識の問題」に記述を変えてください。
理由:
 日本の近代の歴史を学ぶ機会が無かった人たちには何のことか理解できないし、差別や排外意識の問題であることを明確にしないと人権の問題であることが伝わらない。

(2025年02月28日 掲載)