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シネマと人権23 : 国家の方針と個人の意思が衝突するとき-「TATAMI」

小山 帥人(こやま おさひと)
ジャーナリスト

 スポーツは政治と関わるべきではない、そうあってほしいと私も思う。しかし、現実には国際的なスポーツ大会には否応なく国際政治が絡んでくる。
 この映画は、イランの女性柔道選手が、国家の方針とぶつかり、悩み、乗り越えようとする姿を描く。
 イラン政府は数十年来、国際的なイベントでイスラエル人とイラン人を対面させないようにする方針をとってきた。もし負けるようなことがあれば、国の威信を損なうと思うのだろうか。選手は個人の意志を無視され、国の方針で出場したり、棄権したりすることになる。

試合の途中で棄権することを命じられ
 舞台は東欧のジョージアで行われる柔道の世界選手権大会。主人公レイラは、イラン代表のひとりで、イラン女性柔道界の期待の星だ。女性チームの監督はかつて世界大会で活躍した経歴を持つマルヤム。マルヤムの助言を受け、レイラは勝ち進んでいく。
 ところが、本国の柔道協会会長からマルヤムに電話が入る。会長は、レイラが勝ち進むとイスラエルの選手と対戦することになるので、棄権しろと命ずる。マルヤムはそれを拒むが、国家の方針に背くと関係者に被害が出ると脅され、やむをえず、レイラに棄権するように告げる。しかし、レイラは納得しない。これまで仲が良かった二人は言い争い、ついに決裂する。

家族の身に危険が及ぶ
 マルヤムの制止をはねのけ、レイラは試合に出場し、さらに勝ち進んで行く。当局は選手に対してさまざまな手段で露骨に恫喝を加えてくる。すでに警察はレイラの家に向かっている。父親や夫、子どもの身が危ない。
 真っ当なことを貫き、抑圧を跳ね返すことは、自分や家族を危険にさらすことになる。レイラは難しい選択に迫られる。
 白黒のシャープな映像は、黒いヘジャブを被った女性の畳の上での戦いの厳しさを表すのに効果的だ。意を決したレイラは試合の途中でヘジャブを脱ぎ捨て、髪を露わにしたまま技を競う。観客は、ヘジャブのかぶり方が悪いと言って警察に引っ張られた女性が変死した事件を思い出すだろう。

あなたならどうする
 この映画にはモデルがある。イランの男子柔道選手が2019年、東京での大会でイスラエル選手との試合に棄権するよう強制されたが、指令を拒否して出場したケースだ。その後、彼はドイツに難民として受け入れられ、今でも柔道界で活躍している。
 国と個人がぶつかるのは中東の国の特別な事例ではない。人間にとって当たり前のことが国家によって許されないことはままある。あなたがレイラならどうするか。多くの人が悩み、時に妥協し、時に闘い、時に犠牲になった。
 この映画はイスラエルとイランの監督の共同作業で創られた。象徴的な希望だ。


TATAMI_Sub7.jpg© 2023 Judo Production LLC. All Rights Reserved

<TATAMI>
監督・脚本:ガイ・ナッティヴ、ザーラ・アミール
2023年/ アメリカ、ジョージァ/ 1時間43分
配給:ミモザフィルムズ
2月28日より新宿ピカデリーほか全国順次公開
https://mimosafilms.com/tatami/


(2025年02月14日 掲載)