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国際人権ひろば No.77(2008年01月発行号)

人権教育の新潮流

「持続可能な開発のための教育の10年」をめぐる国際的な動向について

野口 扶弥子 (のぐち ふみこ) NPO法人持続可能な開発のための教育の10年推進会議(ESD-J)事務局

日本の政府とNGOがヨハネスブルグサミットで共同提案し、2002年の第57回国連総会で、日本政府が決議案を提出し採択された、国連「持続可能な開発のための教育の10年(DESD又はESD10年)」。2005年から開始し、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)が主導機関として、国際レベルで推進しています。本稿では、これまでのDESDに関する国際的な取り組みと今後の展望について、ユネスコの動きを中心に、Q&A形式で紹介したいと思います。


問1:ユネスコは、DESD(ESD10年)の推進にむけ、どんなことに力を入れてきたのでしょうか?



答:ユネスコが、DESD開始からの2年間で特に力を入れてきたのは、ESDを10年間進めていく基盤固めで、枠組み・体制作り、周知活動が中心でした。枠組み作りに向け、ユネスコは、日本ユネスコ国内委員会を含め、世界中の研究者や専門家の意見を統合しながら、国際実施計画(IIS: International Implementation Scheme)[1]を策定し、2005年12月第171回ユネスコ執行委員会で発表しました。IIS策定を受け、DESDの実施にむけ、図のような体制が組まれました[2]。資金的に見ると、DESDの活動は主に、日本政府によって提供されている日本政府信託基金(Japanese Government Funds-In-Trust)によってまかなわれています。
 DESD推進の基盤がある程度固まってきた2年目以降は、「EFA[3]やMDGs[4]とESDの連携」や、「ESDの指標開発」といったテーマごとの活動が、セクションごとに単発あるいは継続的になされてきています。各国のユネスコ国内委員会も、DESDの国レベル、地域レベル[5]での推進に関し、重要なパートナーとして位置づけられています。このような経緯の中、2007年10月16日-11月3日の日程で、第34回ユネスコ総会が開催され、今後6年間のユネスコの活動の方針や具体的な事業にもかかわる、次期中期戦略案(34C/4)[6]および2008-09年事業予算案(34C/5)についての議論が交わされました。

国連におけるDESD実施体制


問2:34C/4では、DESDはどのように扱われ、総会では、中期戦略におけるDESDの扱いをめぐり、どのような議論が交わされたのでしょうか。



答:34C/4では、アフリカおよびジェンダーの平等を優先事項とし、以下の包括的な目標が掲げられています。
 1. 万人のための質の高い教育と生涯教育の実現
 2. 持続可能な開発のための科学的知識と政策の動員
 3. 新たな社会的及び倫理的課題への取り組み
 4. 文化的多様性、異文化間の対話と平和の文化の促進
 5. 情報とコミュニケーションを通じた包括的な知識社会の構築
 これらの目標に対応し、14の戦略的な事業目標が掲げられています。しかし、ESDについては、独立した事業戦略として取り上げられていないだけでなく、各戦略の詳細説明でも数箇所の記載があるにとどまっています。
 このような内容に対し、ユネスコのDESD活動の日本における窓口、日本ユネスコ国内委員会[7]では、「これまでのユネスコのESDに対する取り組みは不十分」という見解を含む、DESDの更なる推進に向けた提言を取りまとめ、第34回総会の前に、ユネスコ事務局長に提出するとともに、ユネスコ加盟193カ国に送付しました。総会では、日本とドイツが更なる推進に向けた決議案を作成し、45カ国の共同提案国のほか、他の多数の加盟国からの支持を得て、決議として採択されました。そして、34C/4に、「UNDESDは、EFAの達成目標の一つである教育の質を高め、国際的に合意されている開発目標の達成を支援するものであると認識し、ユネスコは主導機関として、UNDESDを確実に実施していく」(筆者抄訳)という一文が挿入されることになりました[8]
 総会では、ユネスコおよび各加盟国におけるESD推進に向けたよりいっそうの努力と、既存のリソースの活用や外部予算の確保の推奨、ユネスコ協同学校[9](ASP)の推進と体制の強化、10年の中間年である2009年のDESDのレビュー会合である、「UNDESD世界会議(仮称)」のドイツ政府による開催と開催資金負担について決議され、「国連持続可能な開発のための教育の10年の更なる推進」の決議が出されました[10]


問3:地域レベルでの、ユネスコの取り組みについて教えてください。



答:ユネスコの地域事務所の中で、アジア太平洋地域を統括するユネスコバンコク事務所が、これまでESDに積極的に取り組んできています。DESDの周知活動に加え、災害が続くアジア太平洋地域では、防災教育が持続可能性へのひとつの鍵であるという見解から、ESDの視点からの防災教育や、青少年向けのESD、コミュニティエンパワメントに向けたESD、指標開発プロジェクトを進めてきました[11]
 なかでも、ユネスコ本体の動きとも連携する指標開発プロジェクトでは、最近、「指標ガイドライン」、ガイドラインのエッセンスをまとめた「クイックガイド」(全て英文)[12]が公開になりました。このプロジェクトは、ユネスコバンコク事務所が、オーストラリアのマッコーリ大学の協力を得ながら、国際自然保護連合(IUCN)と協働ですすめられました。ガイドラインの作成には、約80名の専門家の意見が統合され、2007年4月のバンコクの指標開発に関するワークショップで最終化されました。
 ガイドラインには、アジア太平洋地域におけるESDの目標と優先課題、指標開発におけるユネスコ国内委員会およびユネスコ地域事務所の役割、DESD指標の使用や、指標開発のプロセス、データの収集手法、ESD進捗レポート作成の方法などについて、多様な視点からわかりやすく書かれています[13]
 ガイドラインは、ESDの進捗を知る上で、使用するべき特定の指標を明記しているものでも、共通の指標を各国で使うことを促すためのものでもありません。アジア太平洋の文化・社会・経済的な多様性や、各国が独自のESDの目標を定める努力を前提とし、ESDが何であるのか、といった点にかかわる議論は、各国の手にゆだねられています。そのため、ガイドラインは、各国内でのこのような議論を踏まえた上での、指標開発の方向性や進め方を示す枠組みを提示するにとどまっています。
 なお、日本ユネスコ国内委員会は、指標開発やガイドライン翻訳の予定について、「日本におけるESDのあり方や、ESDにおける日本の達成目標を明らかにした上で指標開発をするべきで、今は時期尚早。日本での指標開発およびガイドライン翻訳は、状況を見ながら検討したい」という回答をしています[14]


問4:ユネスコ以外の、ESDをめぐる国際的な動きについても教えてください。



答:まず、全世界レベルでは、国連大学高等研究所(UNU-IAS)が進めている、「RCEプロジェクト」があります。RCEは、公的・非公的機関組織のESDのコミュニティレベルでのネットワークづくりを目的としていて、現在45の地域がRCEに認定されています[15]。ESDに関連した大きな国際会議としては、2007年7月に南アフリカ・ダーバンで第四回世界環境教育会合が、11月にインド・アーメダバードで第四回環境教育国際会議が、それぞれ開催されました。一時は、どちらの国際会議も「トリビシ以降の10年毎の環境教育国際会議の4回目の位置づけ」と主張する政治的な綱引きがありましたが、最終的に、アーメダバードの会議が正式な第四回環境教育国際会議となりました。アーメダバードの会議は、ESDがテーマで、持続可能な社会作りに向けた教育の重要性と、環境教育のESDに対するスタンスなどが示された「アーメダバード宣言」が採択されました[16]
 地域ごとの大きな動きとしては、ヨーロッパで国連欧州経済委員会(UNECE)の下にUNDESD欧州運営委員会が設置され、ヨーロッパ全体のESD戦略が策定されました。UNECEは2007年5月に、「ESDヨーロッパからの貢献」という会議を開催しています[17]
 アジア太平洋地域での動きとしては、まず、UNU-IASは、アジア太平洋地域の大学が、大学院の講座やカリキュラムに持続可能な開発を統合するため共同で取り組むという内容の憲章を、2007年11月に採択しました。この憲章によって、ESDに関する大学院教育と研究を前進させる基盤となるネットワーク、ProSPER.Netが構築される予定です[18]
 (財)ユネスコアジア文化センター(ACCU)では、日本政府信託基金を基に、アジア太平洋地域で、ESD理念の普及・事業推進のために、優れた活動を行っている組織を支援する「ESD事業拠点(COE-Centre of Excellence)」や、ESDを当該地域において実施・推進する上で、好事例となる革新的な事業の発掘と支援を行う「イノベーション創生プログラム」を実施しています[19]
市民レベルの動きとしては、2006年より、アジア6カ国のNGOと共に、地域に根ざしたESDの実践事例調査交流をとおして、アジアにおけるESDのネットワークづくりに向けたアジアESD推進事業(AGEPP)[20]を、ESD-Jが実施しています。AGEPPは、ESD-Jとアジア6カ国の6つのパートナーNGOが、アジアの地域コミュニティに根ざしたESDの実践事例を発掘し、多言語ウェブサイトで共有することを通して、アジアのESDネットワークを構築することを目的としています。関心のある人誰もがAGEPPについて意見交換し合えるメーリングリストも、第四回環境教育国際会議のESD-J特別セッションがきっかけとなって、立ち上がりました。

<注>
1. UNESCO IIS
  http://unesdoc.unesco.org/images/0014/001486/148654E.pdf
2. UNESCO (2007) "Progress Report by the Director-General on the United Nations Decade of Education for Sustainable Development (2005-2014)"177 EX/9
3. 万人のための教育(EFA:Education for All)」とは、各国が協力しながら、国連ミレニアム開発目標(MDGs)に基づき、2015年までに世界中の全ての人たちが初等教育を受けられる、字が読めるようになる(識字)環境を整備しようとする取り組み
4. 平和と安全、開発と貧困、環境、人権とグッドガバナンス(良い統治)、アフリカの特別なニーズなどを課題として掲げ、21世紀の国連の役割に関する明確な方向性を提示した「国連ミレニアム宣言」と1990年代に開催された主要な国際会議やサミットで採択された国際開発目標を統合し、一つの共通の枠組みとしてまとめられたものがミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)
5. 本稿では、「地域」をアジア太平洋や、欧州など地域的枠組みを示すリージョン(region)の意味で使っています
6. UNESCO"Draft Medium-Term Strategy"34C/4
7. 日本における、ユネスコ活動に関する助言、企画、連絡および調査、諮問に応じ、ユネスコ総会における政府代表の選考、議事に関する事項、条約等の締結に関する事項等の調査審議、日本のユネスコ活動の基本方針の策定、国内のユネスコ活動関係機関および団体との情報交換をする組織。「ユネスコ活動に関する法律」の下、文科省内に設置されています。
  http://www.mext.go.jp/unesco/002/001.htm
8. UNESCO"Draft resolution on the Medium-Term Strategy for 2008-2013"34C/PLEN/DR.2 Rev.
9. ユネスコ協同学校とは、ユネスコと連携しながら持続可能な開発のための教育の理解と促進を図り、世界のASPのネットワークを活用し、世界中の学校と生徒間・教師間で交流、情報や体験を共有。
  http://www.mext.go.jp/unesco/004/005.htm
10. UNESCO"Report of the Education Commission"34C/79
11. UNESCO Bangkok,"DESD Progress to Date in Asia and the Pacific June 2007"
12. Asia-Pacific Monitoring Project
  http://www.unescobkk.org/index.php?id=monitoring
13. アジア太平洋地域指標開発ガイドラインの策定プロセスおよび概要については、ESD-J2006活動報告書(107-178頁)にも掲載されている。http://www.esd-j.org/documents/houkoku_2006_7.pdf
14. 2007年11月27日 日本ユネスコ国内委員会事務総長補佐大村浩志さんインタビューをもとにしています。ESD-Jでは、ガイドラインの翻訳は急務であり、さらに働きかけを強めたいという意見を持っております。
15. UNU-IASウェブサイト RCEプロジェクト 
  http://www.ias.unu.edu/sub_page.aspx?catID=108&ddlID=183
16. CEEウェブサイト アーメダバード宣言文(英文)
  http://www.esd-j.org/documents/4thicee_ahmedabad_declaration.pdf
17. UNECE ESDに関するサイト
  http://www.unece.org/env/esd/welcome.htm
18. 国連大学ウェブサイト
 http://www.ias.unu.edu/sub_page.aspx?catID=108&ddlID=592
19. ACCUウェブサイト
  http://www.accu.or.jp/esd/jp/projects/index.html
20. AGEPPウェブサイト
  http://www.agepp.net/