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国際人権ひろば No.78(2008年03月発行号)
特集・世界の人権教育のいま Part 5
台湾の民間司法改革基金会による法関連教育
黄 旭田(Shiu-tian Huang) 弁護士、(財)民間司法改革基金会法関連教育センター所長
民間司法改革基金会」の設立
「民間司法改革基金会」は1995年11月、国立台湾大学法学部の講堂における集会を機に設立された。この基金会は、1994年末に改革意識を持った弁護士数名が設立準備に着手していたもので、1997年5月に財団法人として裁判所に登録されている。
「民間司法改革基金会」の目標は、名前に表されている通り、台湾における司法改革の促進である。主な改革には法改正(裁判官法、弁護士法、刑事訴訟手続法など)や、裁判官の監視や評価(法廷の評価および裁判官の評価)などがある。さらに、私たちは台湾における司法改革を達成する重要な方法である法関連教育に取り組んでいる。
同基金会は司法改革の重要性を一般に伝えるために、Judicial Reform Magazine(司法改革マガジン)およびEペーパー(電子新聞)の発行、学校での巡回講演、定期的な学生向けの合宿や教員のための一日裁判所ツアーなどの広報活動を行っている。これらの活動はあらゆる人の日常の生活にとっていかに法制度が重要であるかを示し、社会全体に司法改革の願いを広めようとするものである。
法関連教育に着手
学校において「法の支配」の考え方を広める準備のために、「民間司法改革基金会」のなかに、法関連教育委員会が1999年に設置され、私が初代の委員長に任命された。委員会には二つの重点分野がある。
一つは教員がたとえば体罰のような否定的ではなく、肯定的な規律指導措置を模索することや、学校の規律指導に関する法的な問題を学ぶことを支援すること。このために'Teachers, You May Have an Alternative Method?the Legal Concepts and Practices of Disciplining in School'(『先生、違う方法があります?学校における規律指導の法的概念と実務』)という本を2003年11月に発行した。出版後4年間に台湾で2万冊売れている。また、この本は2005年に人権教育出版物賞を受賞した。本の中であげられたいくつかの懸念事項は教育部が公表した2007年の学校における規律に関する指針に含まれている。
委員会の二番目の重点分野は一般市民や学校教員の法知識を広めることである。当初の段階では、多数の学校と協力して、授業計画に法知識を取り込むことができるよう、セミナーを開催し、教員を支援するなどした。さらに、人気の高い8本の映画を取りあげ、法知識を学校の教室で伝える観点から分析した'Learning Law from Movies'(『映画から法を学ぶ』)という本を発行した。
弁護士会との連携
一方、「台北律師公會」(台北弁護士会)は「民間司法改革基金会」と共同で台北市と協力し、1995年から1998年の間、市のすべての中学校の8年生に2時間の授業を行うために弁護士を派遣する法関連教育の事業を企画した。1998年には1,100以上のクラスを合計で300人の弁護士が教えた。しかしこの経験から私たちは弁護士は教室で教える「最善の教師」ではないということ、教員が自分たちの授業で使えるよう法と教育を結びつけるためにもっと努力をしなければならないことに気づいた。
2000年、台湾大統領選挙後、平和的に政権の移行が行われた。しかし私たちは台湾の民主改革が完成したとは思わなかった。むしろ、特に、法の支配の考え方を確立するなどやるべきことはまだまだあった。そこで、ロータリークラブの人びとは「民間司法改革基金会」と台北弁護士会に呼びかけ2002年3月に法関連教育の会議を開催した。そこにはイェール大学から2名の教授も参加し、米国における法関連教育の経験を話した。
2002年9月、私は他の二人の弁護士と日本のつくばで開催された関東弁護士会連合会の定期大会に参加した。そこで、米国の「公民教育センター」の代表と会い、そこが40年以上も法関連教育に取組んできたことや'Foundations of Democracy'(『民主主義の基盤』)のシリーズを発行していることを知った。
『民主主義の基盤』は4つの概念、具体的には権威、プライバシー、責任、正義を含み、12年生までを4段階に分けて取りあげるユニークな法関連の教材である。『民主主義の基盤』は異なる年齢集団のニーズに対応して、6才から18才、小学校から高校までをカバーする。
この包括的な出版物を台湾に紹介しようと決定し、「公民教育センター」の了承を得る手続をはじめた。2003年、「民間司法改革基金会」、中華ロータリー教育基金会と台北弁護士会は中華ロータリー教育基金会のもとで法関連教育の特別委員会をつくった。その後2006年、委員会は「民間司法改革基金会」の法関連教育センターとなり、私が初代の所長に任命された。
センターは『民主主義の基盤』を学校における12学年の法関連教育プログラムの主要教材として翻訳し、改訂した。次に、プログラムを実施したいという学校とのパートナーシップ、資金を提供し得る地域のロータリークラブの支援やプログラムを実施する教員を訓練するために地域の弁護士会とのパートナーシップ提携を模索した。2008年2月現在、2年生用と3-6年生用(4巻と教員用マニュアル1冊)の翻訳、改訂を終え、2年生用は「子ども版」、3-6年生用を「少年版」(中国語版のまま)とした。7-9年生用はこの3月発行予定で、「市民版」(citizen version)とされる。「子ども版」を5年間、「少年版」は、「子ども版」に重点をおいているため、2年間推進してきた。
この5年間で教員、弁護士や保護者を含む3,500人以上の人びとが私たちのワークショプで研修を受けた。地域の12の教育当局、3つの弁護士会と70の学校とパートナーシップを結び、約200人の弁護士が研修を受け、何度も学校を訪問し、教員や保護者に紹介して研修を行うシニア・トレーナーを約20人研修した。
2007年2月、国立台湾師範大学の林桂範教授はセンターの代表としてカリフォルニアの「公民教育センター」を訪れ、私たちが台湾で『民主主義の基盤』をどう使っているか紹介した。「公民教育センター」は感銘を受け、2007年5月17~20日、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催された市民教育世界会議に参加するようセンターに呼びかけた。林教授と張澤平弁護士が会議に参加し、市民教育および法関連教育に取り組む人びとや団体と今後の経験の共有に向けた国際的なリンクをつくった。
民主主義を根付かせるために
民主主義の年月がまだ若い台湾では、人権と法の支配の考え方を法制度だけでなく、若い世代の人びとの意識の中にも根付かせる必要がある。しかし、政治改革が行われたにもかかわらず、古い社会的および文化的慣習が依然として民主主義の実現を妨げており、若い人びとに早い段階からこの考え方を知ってもらわなければならない。
『民主主義の基盤』はこれまでの台湾の法関連教育が重視していた事実ではなく、民主主義にとって重要な価値を教える。それらの価値を教条主義的ではなく、民主的な方法で、つまり生徒の議論への参加を通して教える。これは台湾の学校ではほとんど見られない教授アプローチである。高校の入試のためのプレッシャーから、中学校(7から9年生)に『民主主義の基盤』を導入することはより難しい。したがって、「市民版」(米国の7から9年生)を高校、大学または成人教育のレベルに移行することを考えている。
私たちが取り組んでいる法関連教育が近い将来に根を張り、台湾によい民主主義をもたらすと心から信じている。
(訳:岡田仁子・ヒューライツ大阪)