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国際人権ひろば No.78(2008年03月発行号)

特集・世界の人権教育のいま Part 2

アジア・太平洋地域における「人権教育世界プログラム」

構成:ジェファーソン・R・プランティリア(Jefferson R.Plantilla) ヒューライツ大阪主任研究員

 アジア・太平洋地域において、各国政府は1998年、人権の伸長と保護のための地域協力の枠組みの4つの柱訳注1のひとつに人権教育の強化を位置づけることに合意した。その重要性はさまざまな機会に強調され、人権教育は活気にあふれた活動へと進展してきたが、このダイナミズムはアジア・太平洋地域全体の一貫した取り組みとはなっていない。
 いくつかの国や学校、団体により新たなアプローチが行われているが、それらの実践はほとんど検証されてこなかった。数カ国において、人権教育の量・質・アクセスや活発化させるための国の支援体制などに関して系統的な評価が行われている。しかし、わずかな国においてしか、人権教育のための包括的な国内行動計画を策定していない。学校における人権教育に対する国際地域的な支援は、多くの場合統一性を欠き、断続的なものにすぎない。このように、よい実践例やアイデアを経験交流する機会は増えつつあるものの、まだごく限られたままの状態にとどまっている。

アジア・プロジェクト


 そのような背景や「人権教育のための世界プログラム」(以下、「世界プログラム」)を考慮し、ユネスコと国連人権高等弁務官事務所は共同で、アジアにおいて「世界プログラム」の実施を支援する事業を始めている。[1]
 この事業は、国が人権教育に関して3つの主要な局面に系統的に力を注ぐことの支援を目的としている。
 第1点は、人権教育の内容が国内および国際人権基準に照らして批判的に検証されることである。国連子どもの権利委員会が採択した一般的意見1では、「すべての子どもがそれに対する権利を有している教育とは、子どもにライフスキルを与え、あらゆる範囲の人権を享受する子どもの能力を強化し、かつ適切な人権の価値観が浸透した文化を促進するような教育である」訳注2(パラグラフ2)と述べている。教育のこうした目的が学校のカリキュラムや教材にどのていど反映されているかについて、評価するのである。
 第2点は、教育学的方法に基づかなければ、人権のメッセージは弱まるかもしれないということ。もし平和の文化や寛容、人権尊重が学校に浸透しているならば、体罰や品位を傷つけるような罰、特定のマイノリティ・グループやジェンダー(しばしば女性に対して)に関する社会的な偏見を助長するようなことはなくなるに違いない。
 したがって、この事業では、対象国のカリキュラムに加え、教育の方法論を検証していく。同時に事業として、2000年にセネガルのダカールで開催された「世界教育フォーラム」において採択された「ダカール行動枠組み」の実施を支援する。とくに、認知・測定できるような学習の成果が達成されるために、国に対して教育の質を改善するよう要請していく。学習者の満足度、内容と結果の関係、教授/学習のプロセスの質、学習環境の適性などが検証される。
 第3点は、人権教育へのアクセスに関する批判的検証である。人権教育を行うために差別なく無償の義務教育へのアクセスが求められるだけでなく、それは世界人権宣言や国際人権諸条約に規定されている基本的人権である。
 ダカール行動枠組みは、2015年までにすべての子どもたち、とりわけ少女や困難な環境にある子ども、民族的マイノリティに属する子どもが、無償で質の高い初等義務教育にアクセスし、就学を完了できるようにすることを目標としている。
 しかし、そうした国際的な約束にもかかわらず、アジア・太平洋地域の多くの国では、無償の義務教育を保障する国内法が制定されていないのである。また、法的枠組みは存在していても、確実に実施されていない状態がしばしば存在する。公式、非公式に徴収されるお金のために、貧しい家庭の子どもたちが事実上アクセスできない場合がある。アジアの多くの国において、アクセスの問題というのは、直接あるいは間接的な差別と関わっている。そうした教育への障壁や社会の隅に追いやられた人たちにもたらすマイナス影響は、十分に証明されている[2]
 この事業は、南および東南アジアを優先的にみながら、アジア・太平洋地域において今日までどのような進展があったかを検討するとともに、学校システムにおける人権教育の系統化に貢献をすることをめざしている。「世界プログラム」に呼応して、対象は初等・中等学校の教育とする。事業内容は、3年間をめどにさまざまな活動を提案しており、まず専門家の経験交流や実践的な情報交換などを行う。もっとも、これらは「世界プログラム」が終了したとしても続けていくべきことである。

全体の目標および特定の目的


 この事業の全体目標は、アジア・太平洋地域における「世界プログラム」(第一段階)の行動計画の実施に貢献することにある。
(a)初等中等教育において人権が盛り込まれ実践されることを推進
(b)学校において国としての包括的で効果的、持続可能な人権教育戦略の開発と策定、
  実施を支援するとともに、既存の取り組みを評価し改善
(c)学校における人権教育の柱となる内容に関するガイドラインの提供
(d)国際的、国際地域的、国内、および地方の団体が各国に支援・協力することを促進
(e)地方、国、国際地域および国際社会の諸機関のネットワーク化および協力の支援[3]

 事業は、以下の3つの目的の実行を通じて以上のような目標を達成するものである。
1.域内の各国の学校において、人権教育を支援する教育システムの中身を確認し分析する
  ことなどによって、人権教育の発展のためにその成果、弱点、範囲の確認と分析を行う。
2.アジア諸国の学校における人権教育に関する既存のプログラムや事業、取り組みなどの
  情報や経験を広く普及させる。
3.アジア諸国の学校における人権教育に関する情報が流通するためのシステムを構築する。

実施計画


 事業は、参加型方式を十分に取り入れて、関係者によるハイレベルな協議を重ねる予定である。協議は、専門家団体、市民団体、国内人権機関、教育省を含む各国の鍵となる機関・組織からなる実務レベルの人権教育国内チームを編成して開催にあたることとなろう。
 各国の国内チームは以下のようなことに取り組むことが期待されている。
1.とりわけデータや教材収集をはじめとする国レベルの活動を調整する。
2.学校における人権教育の取り組みの報告や現状を分析するために、NGOや高等教育機関
 (教員養成大学)、メディア、国連諸機関をはじめとする国際機関などとのネットワーク化。
3.この事業推進のチームといっしょに、学校における人権教育の現状に関する国別報告を
  作成する。

 この事業の対象国の選定は、諮問委員会が決定することになるが、それは政府が関心および人権教育国内チームを編成する意思などを公式に表明しているかどうかを基準に据える。諮問委員会は、ユネスコ・バンコク事務所とジュネーブの国連人権高等弁務官事務所のスタッフで構成される。
 国際小地域および国際地域レベルの協議には、学校およびNGOで教育に携わる人々、学校の運営にあたる教育担当者、研究者、教員養成者、大学の人権センターに関わる研究者、人権団体のスタッフ、国内人権機関、教育に関わる国際機関、国連諸機関などが参加するものとする。
 現時点では、事業はカンボジア、インドネシア、ラオス、タイを対象としている。これらの国々では、教育相が人権教育国内チームを編成しており、2008年中旬をめどに国別の調査報告書を完成させる予定である。
 ヒューライツ大阪は、事業実施のために国連人権高等弁務官事務所と、4カ国における事業実施をモニターするとともに国内調査活動において技術協力を行う「国際地域事業チーム」の一員となることに合意を交わしている。

(この原稿は、国連作成の "Regional mapping, collection of best practices and coordination of initiatives to promote human rights education in South-East Asian school systems" という文書を抜粋・構成したものです)
(訳:藤本伸樹・ヒューライツ大阪)

1. たとえば、国連人権高等弁務官事務所は、インドのいくつかの州において「世界プログラム」の実施事業を支援している。
2. Tomasevski. K, 「初等教育普遍化への障害としての学校への支払金-万人のための教育のための背景調査・グローバルモニタリングレポート」(ユネスコ、2003)
3. 「世界プログラム」行動計画のパラグラフ21(e)

訳注1 国連が1998年にイランで開催した「第6回アジア・太平洋地域における人権の伸長と保護の地域的取極に関するワークショップ」において、地域協力のための主要な枠組みとして、(1)国内人権行動計画、(2)人権委員会、(3)人権教育、(4)発展の権利(経済的・社会的・文化的権利)、という4つの柱が位置づけられた。
訳注2 翻訳・平野裕二(ARC代表)