ヒューライツ大阪は
国際人権情報の
交流ハブをめざします
国際人権ひろば No.79(2008年05月発行号)
人権の潮流
第4回「若者の人権活動家のためのワークショップ」で講義して
白石 理(しらいし おさむ) ヒューライツ大阪所長
第4回「若者の人権活動家のためのワークショップ」に招かれて参加してきた。ワークショップで「人権と民主主義の互いに支えあう関係」についての講義を頼まれたためであった。この企画は、「アジア人権センター」のユン理事長の人権のために働く若い世代を育てるという情熱によって実現したといってもよい。これには韓国の人権にかかわる組織と著名な人権専門家が積極的な協力をしてきた。また、参加者のほとんどが韓国の若者であったが、中には高校生まで混じっており、人権問題に取り組もうとする意欲とナイーブとも感じられる情熱には、驚きまた圧倒された。
ワークショップの運営は、数人の「アジア人権センター」職員のもとで働く十数人の若者のボランティアに頼っていた。ボランティアの募集をしたところ多数の応募があり、応募者全員を受け入れることはできなかったと聞いた。ボランティアになれば、ワークショップにそのまま参加できるという特典があるが、ボランティアになれなかった人たちは一般参加者として登録したのであろうか。いずれにしても、若者が主役の集まりであった。
ワークショップの内容は、人権活動家を育てるための配慮がなされてはいたものの、今後さらに、改良される余地があると感じた。人権に関する基本的な講義、特に国際人権の起りとその発展経緯、国連の人権保障制度、地域人権保障機構などについての講義とともに、子どもの権利、移住、無国籍の人の保護、韓国にいる北朝鮮からの子どものためのプログラムなど韓国の人権事情を反映した講義が用意されていた。あとは演習形式でグループ討論と発表があり、講義担当者との討論で締めくくるという筋立てであった。講義はテーマがいろいろと分散し、全体として一貫性がないと感じられた。また、トレーニングという演習形式の時間は、講義と連携していないものもあった。これは企画の段階から、よく考えて準備する必要があると思われた。
ただ一つ際立って異なった企画が入っていた。アメリカのInternational Republican Instituteから講師が二人、「リーダーシップと交渉」、「アドボカシーキャンペーンの基本」という題で、運動の仕方、リーダーのあり方、協力関係の作り方、キャンペーン行動計画、キャンペーン戦略の立て方、キャンペーンの反省と評価などについての講義を担当した。ボスニア、セルビア、アフガニスタンなどで民主社会の構築に役立つ仕事をしているというアメリカの団体から派遣された講師であると説明された。これらの講義が、純粋に有効な活動のしかたを説くという意味で、人権活動に携わる者のためのワークショップにはふさわしくまた興味深いものではあったが、アメリカの政治、社会風土がそのまま世界中どこでも理解されるということを前提とした議論で、そのまま韓国その他のアジア諸国で役に立つものとは思われなかった。ワークショップ参加者からの意見や質問があまりなかったことを見ても、興味と理解が芳しくなかったように感じられた。この種の講義は、やはりある程度の経験があり、現実を知る活動家が対象ではないだろうか。後でユン会長に尋ねたところ、たまたま時期を同じくして、ソウルに仕事で来ることになっていたので無料で講義をしようという申し出を受けたとのこと。
演習は、講義の内容と関係するもの、しないものを取り混ぜて、参加者の自由な発想と意見交換、グループに分かれての共同作業、グループごとの意見取りまとめと代表による発表という手順で進められた。発表から推し量る限り、まとまりのあるものと無いものが混じっており、理解のレベルも一様ではないように感じられた。自由形式の演習の難しさであろうか。
参加者の知識のレベルが一様ではなく、講義の消化も十分ではないと思われることもあったが、参加者の学ぼうとする意欲と積極性は大したもので、そのエネルギーをうまく方向づけることができれば、よい成果を生むのではないか。初心者に対する動機づけと、既に運動に入っている者に対するレベルアップのワークショップは分けて行うのが効果的ではないかと考える。今後の課題である。
全体として、ワークショップのテーマ、構成、そして講師の選定など、まだ課題が残る。世界の多様性、人権と政治の関係、人権活動の在り方などは、決して単純なアプローチでは対処しきれないものである。このことを参加者が理解できるようなワークショップにしていくことが必要ではないかと思う。「人権のために」ということで、「やりましょう」では済まない時代にわれわれは生きている。人権運動が、政治的な力となりうるが故に、利用され、乱用され、また無視されていくのを知っている時代である。そのような時代に生きる若者のために、人権問題を見据え、行動するために役立つようなワークショップを作り上げてほしいと思う。
このワークショップに参加しながら常に考えていたことがあった。ヒューライツ大阪が、日本の若者を対象とするワークショップを企画するのに何か参考になるところはないかということである。参考になるところは大いにあった。心配もあった。日本の若者にとって魅力のあるワークショップを企画できるだろうか、韓国の若者たちのように、人権を学ぶことに日本の若者たちは燃えてくれるだろうか。近い将来、大阪でワークショップを開くことができるよう準備にかかりたいと思う。