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国際人権ひろば No.82(2008年11月発行号)
NEWS IN BRIEF
韓国の差別禁止法案は17代国会 (任期:2004年5月30日~2008年5月29日)で廃案に
韓国では、国家人権委員会が2006年7月24日に、国務総理に差別禁止法の制定勧告をし、そのための法案を示したが、政府内で積極的な立法推進の動きに至らなかった。こうした状況の下、まず個別の課題である「障害者差別禁止及び権利救済等に関する法律」と「年齢差別禁止法」が国会を通過した。
一方、国家人権委員会が勧告した差別禁止法の立法勧告案をベースに、関係省庁が参加して法案の調整など実務作業が具体化していた。国家人権委員会の勧告案は、一元化した組織によって、包括的に差別を取り扱うとともに、差別の申立、救済をもっと実効的に確保できるようにしようとした。
これまで差別を禁止する個別の法律や法条項がなくはなかった。「男女雇用平等法」「障害者福祉法」「高齢者雇用促進法」等がその例である。しかし既存のものは、適用対象が限られていたり、差別是正の手段が及ばなかったり、韓国社会の不当な差別を解消するには不十分なものであった。国家人権委員会法は、様々な差別の是正の根拠になりうる法ではあるが、その基本性格が組織法であるために、国家人権委員会の構成、権限、任務などが中心となり、差別の概念、禁止される差別行為の類型、救済の内容などが欠けていた。差別禁止法案は、これまで分散していた差別条項をただ単に集めたのではなく、差別禁止と処罰、是正の方法まで体系化したものである。
しかしながら、法案にあった差別禁止事由の一つである「性的指向」について、宗教界、保護者、人権団体、女性団体などからそれぞれ異論が出て収拾がつかず、結局国会での審議が遅れて、第17代国会は差別禁止法を通過できないまま会期を終えてしまった。第18代国会が開かれたが、現時点(2008年10月)では国会議員のみならず、人権団体、女性団体も法制定運動を再開していない。差別禁止法制定によって、韓国憲法や国際人権基準の規定にある平等の原則を実現し、社会的弱者、少数者に対する差別と対立を解消するために貢献できるということを考えると大変残念である。
(韓国・鄭康子前国家人権委員会常任委員の文章を編集部で要約)
参照:
「韓国国家人権委員会・鄭康子常任委員を東京・大阪に招聘-差別禁止法制定への取組みに学ぶ」
ヒューライツ大阪ウェブサイト・ニュースインブリーフ(2007年12月)
「韓国国家人権委員会が包括的な差別禁止法の制定を国務総理に勧告」
ヒューライツ大阪ウェブサイト・ニュースインブリーフ(2006年7月)