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国際人権ひろば No.82(2008年11月発行号)

特集・移住女性の人権と多文化共生を考えた韓国スタディツアー2008 Part 1

東アジアにおける女性の移住と人権を考えた6日間

 ヒューライツ大阪は、2008年8月19日から24日まで、「韓国における移住女性の人権と多文化共生の現状とNGOの取り組みを学ぶ」をテーマに韓国スタディツアーを実施した。2007年8月に同様の目的でスタディツアーを企画したが、そのときはソウルの政府機関や施設、NGOが主な訪問先であった。今回は近郊都市である安山(アンサン)市の外国人集住コミュニティを訪ねて移住者・移住労働者に対する自治体施策やNGOによる支援活動の概要を聞くとともに、全羅南道(チョルラナムド)と全羅北道(チョルラプクト)を訪ね、近年急増している農村への国際結婚による移住女性やその子どもたちを支援しているNGOの全国ネットワーク「韓国女性の電話(女性ホットライン)連合編注」の支部を訪問してきた。
 また、ツアーのプログラムの一環として、ソウルの梨花(イファ)女子大学アジア女性学センターが主催した国際シンポジウム「移住の時代におけるアジアの女性と家族の変容」(協力:ヒューライツ大阪、大阪府立大学女性学研究センター)に参加した。
 ツアーには教員、研究者、NGO、自治体職員、国際交流協会職員など16名が参加し、各訪問先で活発な交流が行われた。

シンポジウム「移住の時代におけるアジアの女性と家族の変容」


 シンポジウムでは、移住女性の受入国である韓国と日本、送出国であるベトナム、フィリピン、中国、スリランカから招かれた8人の研究者が、アジアにおける女性移住労働者や結婚移住女性の人権、および家族関係の変容をめぐる課題などに関する報告を行った。それを受けて、討論者や一般参加者たちとの質問や議論が韓英日の同時通訳により行われた。
 基調講演として、梨花女子大学のイ・チェギョンさんが「市場化された愛?:国際結婚における愛と親密性の意味」というテーマで、国際基督教大学の大石奈々さんが「国境のない家族?:移住するアジアの女性と家庭生活の変容」というテーマで講演した。また、日本から横浜国立大学の小ヶ谷千穂さんが「移住と岐路に立つ『家族』:ジャパニーズ・フィリピーノ・チルドレンと母たちの運動」というタイトルで報告を行った。
 本稿では、イ・チェギョンさんの講演の概要を紹介する。

市場化された愛?:国際結婚における愛と親密性の意味
国際結婚へのまなざし


 近年の国際結婚の増加現象は、男女の親密性の構造の変容に関する重要な問いを提起している。2000年代以降、アジア地域内の国際結婚が急増している。これらの結婚の特徴は、中国や東南アジアの女性たちが、韓国、台湾、日本、シンガポールの男性たちと結婚して、夫の国に移住していることである。男性たちは、経済的地位が低いことなどから、自国の女性との結婚が難しいため、外国人女性と結婚しようとするのだが、外国人女性に自国の女性が持っていない「伝統的」な女性性を強く望む。一方、外国人男性と結婚しようとする女性は、母国が経済的な困難にあえいでおり、自国の男性たちの経済力がないことに失望し、より豊かな国に移住しようとするのである。すなわち「貧しい国」の女性たちには、より「豊かな国」の下層階級の男性が、階層移動とロマンチック・ラブを実現できる魅力的な相手だとみなすのである。
 これまでの移住結婚に関する議論は、国際結婚市場における仲介業者の搾取的な性格や、移住のみを目的とした女性の結婚詐欺、あるいは外国人妻に加えられる夫の暴力と人権侵害に多くの関心が置かれてきた。また、こうした「被害者」を保護する政策に対する議論も活発に進められてきた。さらに、「豊かな国」の男性と「貧しい国」の女性の結婚は、経済的要因と動機からなっており、結婚仲介業者を通じる場合、商取引と経済的合理性の極まったものと理解されている。

市場取引される愛と親密性


 しかし結婚は、二人の間の「親密な関係」を作っていくプロセスでもある。言葉が通じない若い外国人女性を妻に迎える男性に、「愛と結婚」の意味は何であり、「移住」と「結婚」を通して自らの欲求を実現しようとする女性たちの経験は、どう説明できるのか?こうした観点から、結婚移住の動機やプロセスを経済的な要因にのみ還元できないという前提から出発し、愛と親密性に対する個人的、文化的欲求と経済的必要が相互に関連している点を議論する必要がある。
 愛と親密性は、社会的、情緒的に構成されているが、同時に社会の資源、地位、権力の分配などと相互に影響をしあっている。フェミニズムの研究者たちは、ロマンチック・ラブと結婚が、社会全体のジェンダー不平等と相互に連関していると分析している。
 また、グローバル化の進行は、愛と親密性という「理想」に挑戦している。生活の多くの領域が商品化され、グローバルな市場経済の中では、親密な関係はまた経済的な側面と無関係であるはずがなく、むしろ経済取引が社会的関係を規定するという側面をもたらしている。
 現在の国際結婚において、愛と親密性が取引される現象は、国際結婚の特殊性なのか、あるいは加速するグローバル化の結果なのだろうか?結婚移住を分析するにあたり看過してはならない二つの視点を指摘したい。一つは、結婚の取引的な性格は、家父長制社会のジェンダー権力関係からはじまるという点である。もう一つは、結婚の市場化現象が強化されているなかで、国際結婚は、ジェンダーと階級の相互交差として起きている結婚という取引が、民族・人種と再び混交するという事実である。
 男女が運命的に恋に落ち、永遠に愛をわかち合うというのは想像上の結婚であり現実ではない。女性学者たちは、家父長的な性質を有す結婚が、愛と親密性によってその事実が隠蔽されていることを批判してきた。グローバル化の過程は、全世界が一つの市場として統合され、さまざまな分野において商品化を拡大させてきたが、愛と親密性の領域も例外ではない。

国際結婚を選ぶ女性の行為者性


 「外国人花嫁」の結婚の動機を単に経済的なレベルに還元させるのではなく、「結婚」や「移住」を通じて、彼女らが配偶者との関係を含め、自分たちの生活をどのように作っていこうとしているのかという問いが提起されなければならない。すなわち、外国人女性は、国際結婚の被害者であったり、韓国社会に適応すべきであるという政策プログラムの対象としてのみの視点からは、彼女らの行為者性や結婚の実相を浮き彫りにすることは難しい。どのような結婚であっても自分の生活を配偶者と共有して、情緒的、性的親密性を分かち合う相手を求めようとする動機を排除したまま理解することは困難なのである。
 韓国内の見合い結婚市場で、国内の男女間の身上や条件が「結婚情報」という呼称で取引されている現実の中で、国際結婚が、より計算的で商業的に見える理由は何なのか?これは勿論、短期間に言語も通じない未知の相手との結婚であり、結婚当事者や仲介業者の詐欺で被害者が出てくることも理由として考えられる。売買婚と語られる理由もこうした背景からはじまっている。国内男女の結婚は、経済的な投資として、様々な「婚テク」、「愛テク」を駆使することで商業的な取引をロマンスで包装しているのである。国内結婚と国際結婚が、類似性をもっているにもかかわらず、異なったようにみえるのは、多くの国際結婚が、富裕国の下層男性と貧困国の女性との組み合わせというグローバルな階層的結合・移動に対する差別的な視線のためであるとみることもできる。
(構成:藤本伸樹、朴君愛:ヒューライツ大阪)

編注:「韓国女性の電話(女性ホットライン)連合」(本部ソウル)は1983年に、女性の人権運動団体として活動を開始。特に女性への暴力根絶に力を注いできた。全国に26支部がある。

韓国スタディツアーの日程