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国際人権ひろば No.83(2009年01月発行号)

国際化と人権

ポズナニ会議(COP14/CMP4)の結果と今後の課題

上園 昌武(うえぞの まさたけ)
NPO法人 地球環境と大気汚染を考える全国市民会議<CASA>1 理事;島根大学准教授

はじめに


 2008年12月、ポーランドのポズナニ(Poznan)において気候変動枠組条約第14回締約国会議(COP14)及び京都議定書第4回締約国会合(CMP4)、4つの補助機関会合が開催された。ポズナニ会議の目的は、2009年12月にコペンハーゲンで開催されるCOP15/CMP5で、京都議定書第1約束期間(2008~12年)の後に続く2013年以降の削減義務と制度枠組み(以下、2013年以降)について合意するための基本的な方向性と約1年間の交渉スケジュールを合意することであった。本稿では、会議の争点と結果、日本が果たすべき役割について検討したい。

ポズナニ会議の争点


 ポズナニ会議の主な役割は、コペンハーゲン会議での合意に向けて、2007年にCOP13/CMP3(バリ)で合意された「バリ行動計画」を具体化することであった。すなわち、2013年以降の枠組みの中で、①緩和(温室効果ガスの排出削減・抑制)、②適応(温暖化による悪影響への軽減措置)、③資金(温暖化対策に必要な資金調達)、④技術(発展途上国への省エネなど技術移転)の4分野について議論を整理し、交渉の土台となるテキストと作業計画を策定することであった。
 ①緩和については、IPCC第4次報告書(AR4)の科学的知見を踏まえる必要がある。AR4は、気温上昇を工業化以前と比べて2℃以下で抑えることを求め、そのためには2050年までに世界全体で温室効果ガスの排出量を少なくとも半減すること(長期目標)、今後10~15年以内に排出量を減少に転ずること(中期目標)が必要だと指摘している。長期目標については、バリ会議やG8洞爺湖サミットなどで国際的な同意が得られているが、中期目標については、日本やカナダなどが2020年の数値目標を表明せずに会議での合意を妨害していると途上国や環境NGOなどから批判されていた。
 AWG-KPという作業グループ2では、AR4が指摘する「附属書?国(先進工業国)全体の温室効果ガス排出量を2020年には1990年レベルから25~40%削減する必要がある」との知見について議論が重ねられたが、決定書ではこうした削減数値を「認識する(recognized)」という表現にとどまった。この中期目標の合意に向けてバリ会議から後退はしなかったものの、一歩も前に出ることはできなかった。また、京都議定書の第1約束期間では附属書B国(先進工業国)が法的拘束力を伴う国別の数量約束(QELRO)を課されたが、ポズナニ会議では「原則的に」QELROの形式をとるという表現にとどまった。
 AWG-LCAという作業グループ3では、日本やロシアなどが提案した経済発展段階に応じた途上国間の差異化について議論されたが、先進国が率先的に削減対策を行うべきであることや途上国の削減義務化につながるとしてG77/中国グループから拒否された。
 日本政府は、「共有のビジョン」として、2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を少なくとも50%削減するという長期目標の採択を求め、「この目標の実現に向け、今後10~20年後に世界全体での排出量をピークアウトさせることを目指す」としているが、2020年の中期目標については触れていない。また、日本型セクター別アプローチとして、途上国の差異化を主張し、新興国に「主要セクターにつき、単位活動量当たりのGHG排出量又はエネルギー消費量について、各国の国情を踏まえ、拘束力のある目標を設定する」ことを求めている。日本提案は、「公平性」を振りかざしてセクター別アプローチに基づいて自国の数値目標を軽減する意図が誰の目からも明らかであり、国際社会から信頼が得られていない。
 ②適応については、設置されている適応への資金メカニズムが有効に機能していないと途上国から強い不満が出されていた。そこで共同実施と排出量取引に「収益の一部」を適用拡大することが提案されたが、会議では合意が得られず、追加的な資金源を確保できなかった。③資金と④技術についても、途上国が求める提案が具体化されず、途上国側から強い失望と不満が表明された。
この他の重要な議題として、途上国で大規模な森林伐採による温室効果ガスの排出増加が続いており、「森林減少および劣化に起因する排出の低減(REDD)」の具体策が議論されたが、大きな進展が見られなかった。
 ポズナニ会議では、先進国は途上国に排出削減義務を盛り込もうとするが、途上国はそれに反対し、一方で途上国は先進国に適応や技術移転の拡充を求めるが、先進国はそれに積極的に応じないという対立構図が鮮明であった。

コペンハーゲン会議に向けて-日本政府に求められること


 法手続上、コペンハーゲン会議の6ヶ月前に正式な交渉文書を作成しなければならない。京都議定書は最後の3日間で政治的な妥協がまとめられた経緯があり、2013年以降の枠組みは客観的な根拠に基づく合意作りが求められている。ポズナニ会議では、交渉テキストに各国から出された意見に基づく両論併記の文言が数多く残されていたが、最終的にはコペンハーゲン会議へ先送りされてしまった。2009年に補助機関会合やワークショップが4回予定され、2009年6月1日~12日に開催されるボン補助機関会合が交渉の1つの山場になる。ポズナニ会議は、新たなメッセージもなく実質的な合意は何も得られなかったと評価されるだろう。環境NGOの国際ネットワークが発行する"eco"(12月12日)には、カタツムリの写真が掲載され、交渉の進展の遅さを揶揄し、「交渉ペースをスピードアップせよ!(Pick up the Pace)」と訴えられている。
 このような結果になったのは、オバマ次期政権の誕生待ちという雰囲気があったのは間違いない。しかし、交渉でリーダーシップをとれない日本政府の責任が重いと言わざるを得ない。自らの中期目標を明確にしない交渉姿勢が環境NGOから批判され、「化石賞(Fossil of the Day)」の年間2位という不名誉な結果につながったことがその証である。日本の後ろ向きの姿勢は、2007年の温室効果ガスの排出量(速報値)が90年比で8.7%も増えた状況を反映している。増加の原因は、発電所や工場等の大排出源への排出削減政策を実施せずに、原子力発電の拡大と「自主性」に任せた日本経団連の環境自主行動計画に依存した「政策の失敗」に他ならない。
 日本政府は、国際社会で「環境先進国」として信頼を得るためにはコペンハーゲン会議に向けて3つのことに取組まなければならない。第1に、「2020年に1990年比25~40%削減」のような中期目標の早期表明である。第2に、80%を占める企業関連の排出量の抑制、国内排出量取引、税制のグリーン化や炭素税、再生可能エネルギーの買取保証制度などの抜本的な政策を導入し、第1約束期間の6%削減を確実に達成することである。第3に、これまで軽視してきた適応への資金拠出を準備し、途上国支援を具体化することである。

<注>
1. CASAは、1988年10月、1)地球規模の環境問題と地域レベルの大気環境の保全についての調査・研究・提言、2)海外のNGOとの交流・連帯、3)地域の大気汚染被害者の運動の支援などを目的に、大阪で設立されたNPO(特定非営利活動法人)。
2. Under the Ad hoc Working Group under the Kyoto Protocol (AWG-KP)の略。気候変動枠組条約の京都議定書の下で、2013 年からの先進国の排出削減目標を検討する作業部会(通称AWG-KP)が2005年に設立され、作業を継続している。2008年3月31日から4月4日までタイ・バンコクにてAWG-KPの第5回会合が開催され、今回のポズナニ会議にいたっている。
3. 2008年12月のCOP13で合意されたバリ行動計画に基づき、気候変動枠組条約におけ る将来の枠組みを検討する作業部会(通称AWGLCA)が設立された。2008年3月31日から4月4日までタイ・バンコクにて、AWG-LCAの初回会合が開催された。