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国際人権ひろば No.83(2009年01月発行号)
人権教育の新潮流
ESD(持続可能な開発のための教育)の10年 -中間年に向けた動き-
村上 千里(むらかみ ちさと)/ 野口 扶弥子(のぐち ふみこ)
NPO法人「持続可能な開発のための教育の10年」推進会議1
ESDの10年中間年の国際会合
2005年にスタートしたESDの10年は、2009年折り返し地点を迎える。国連レベルでは、3月31日~4月2日、ドイツのボンで「ユネスコESDに関する国際会合-国連10年の後半にむけて」が開催される。主催はユネスコ、ドイツ政府、そしてドイツユネスコ国内委員会。会議の内容は各国のESDの専門家14名からなる国際アドバイザリー委員会(日本からはESD-J代表・阿部が参加)と、会合主催者によって企画された。
会合は、ハイレベル会合、分科会(水、気候変動、フードセキュリティ、CSR、市民社会の役割、教師教育、モニタリングと評価など22テーマ)、プロジェクト視察、特別イベント、優良事例の展示等で構成されており、ユネスコ加盟の政府代表者、会議が招聘する専門家と市民団体代表、一般公募あわせて700 名が参加する。
会合の目的は、世界各国間の優良事例を共有し、「なぜESDが必要なのか?」「何をお互いに学びあえるのか?」「これまで何を達成し、学ぶべき教訓は何であったのか?」について議論し、「進むべき方向はどこなのか?」今後に向けた戦略を練ることにある。会合の成果は、2010年に開催される国連総会に提出されるほか、宣言文としてとりまとめられ、ユネスコ総会に提出、ESDの10年におけるユネスコの役割の強化に向けた検討資料となる予定だ
2。
とはいえ、ESDの10年を中間評価するための各国共通の指標やレポートフォームが提示されているわけではなく、アジア太平洋やヨーロッパといった地域ごとにプレ会合がユネスコ等によって開催され、そこで共有された成果や提言を持ち寄るという形となる。このような曖昧な形とならざるを得なかったのは、ESDの10年前半におけるユネスコのイニシアティブがきわめて弱く、各国におけるESDの取組が目覚ましくは進んでいないこと、そして評価やモニタリングのための準備が間に合わなかったことにあると言わざるを得ない。そのためにも、10年の後半に向け、ユネスコとしてESDにより積極的に取り組む体制をつくることを市民社会からは求めたい。
中間年に向けた日本政府の取り組み
日本におけるESDの10年実施計画には、「中間年までの目標と見直し」に関し、2009年までの前半の5年間の取組み結果をふまえ、2010年に見直しを行う、と示されている。つまり中間評価は2009年をかけて行う予定であった。ボンでの国際会合の日程は2007年12月にはすでに示されていたが、政府が中間評価のスケジュールを大幅に前倒しすることはなかった。
ところで、ESDの進捗評価は誰がどのように行うべきであろうか? ESD-Jは当初から、ESDは省庁横断・各主体のパートナーシップによって推進すべきものであり、その施策の検討や取り組みの評価を行う仕組みとして、官民協働の円卓会議の設置を提案し続けてきた。この提案は、ESD推進議員連盟のサポートを受け、2008年1月にようやく「ESDの10年関係省庁連絡会議」のもとに、意見交換の場としての「円卓会議」が設置された。
ボンに向けた動きは第三回円卓会議(9月)にようやく議題に上り、ESD-Jからは事前に
・「ジャパンレポート」を官民協働で作成すること
・日本政府のESD への取組を国内外へ発信する「ESD ポータルサイト」(日・英)を内閣官房に設置すること
を提案。2009年3月までにあと二回円卓会議を開催し、ジャパンレポートを取りまとめる方向で調整が進んでいる。
アジア太平洋準備会合の開催
一方、アジア太平洋地域の準備会合は、12月2日~5日、日本の文部科学省およびユネスコ等の主催により、東京で開催された。約40カ国から、ユネスコ国内委員会の代表者、ユネスコ地域事務所の担当者、研究者が集い、アジア太平洋地域におけるESDの取組の共有・評価とともに、ESD活動の認定制度や、多様な分野・セクターの実施主体を巻き込んだコンソーシアムの構築、ESD促進のための研究のあり方についての議論が展開した。
各国の取り組みに関する発表では、「多様な主体の連携や、分野横断的なアプローチは大事ではあるが、実際の活動は限られた主体による特定の活動に偏っている」という課題を多くの国が持っていることが共有された。ESD-Jからは複数の省庁・NGO・企業が共にESD活動を実施している日本の特徴を紹介、この経験を国際社会に示していくことの重要性を確認することができた。
会議総括セッションでまとめられたボン会合に向けた勧告文には、ユネスコ加盟各国に対し、教育の主要な要素に持続可能な開発の価値や実践を位置づけること、国連機関および高等教育機関やNGO、企業セクターなどあらゆるステークホルダーとの連携を強化すること、などが提案された。また、ユネスコに対しては、国際実施計画に沿った形での、さらなるDESD実施の促進、ESD-EFA(万人のための教育)間の関係強化、ユネスコ加盟国間での協力、南北および南南協力の促進、加盟国・NGO・企業・メディア間のパートナーシップの強化を通したESDのための国際協力メカニズムの構築などが提案されている。
中間年から後半に向けて、ESD-Jからの政策提言
日本のESDの特徴は、前述のように、学校教育においても、地域の取組においても、多様な主体が連携しながら取り組んでいることである。ESDにおけるパートナーシップの重要性は国際実施計画にも明記されていることであるが、それが実現できている例は多くはない。「連携」は日本が世界に発信できるメッセージであり、それをより推進することがESDの発展につながるとESD-Jは考えている。
このような問題意識を持ちながら、ESD-Jでは、2008年度、ESDをより推進するための政策提言を全国の会員とともに作り上げてきた。理事会が作成したドラフトをベースに8月にはウェブサイトで意見を公募、9月バージョンを全国7カ所で開催した地域ワークショップで検討していただいた。大阪でのワークショップ開催はヒューライツ大阪の協力により実現した。こころより感謝申し上げる。
このようなプロセスを経て、12月の理事会で取りまとめた内容は1月中旬に公開する予定であるが、以下にその一部をご紹介し、今後のESD推進の方向性を示したい。
(1) ESDの普及・促進に向けた提言
ESD認知度は、教育現場をはじめ行政や地域活動の場等においてもまだまだ低い。このため、ESDの認知度に関する実態調査を行った上で、広報戦略を立て、戦略ターゲット別のアプローチを進めていくことを提案する。
(2) 全国レベルでのESD推進の仕組み作りに関する提言
官民協働のESD推進体制の強化を図るべく、ESD円卓会議の充実と強化を進めるべき。また、学校教育分野における更なるESDの強化(学校評価、教員養成課程、教員免許更新、教員研修へのESD導入など)を提案する。
(3) 地域レベルでの組織体制の整備に関する提言
地域の多様な主体の連携が組織的に継続・発展しているよう、地域におけるESDセンター機能の構築、市町村におけるESDを推進する学習コーディネーターの配置等を提案する。またその機能を支援する全国センターの設置も必要である。
(4) 国際的な活動に関する提言
2014 /2015年における「国連持続可能な開発のための教育の10年(DESD)」総括会議を日本で開催することを提案する。また、アジアを中心とする地域におけるESD関連市民組織のネットワーク化を目指す。
ESD-Jはこれら提案の実現に、会員および地域の実践者の皆さまと一緒に取り組んでいきたいと考えている。ぜひとも連携・協力を、よろしくお願いたします。
<注>
1.
http://www.esd-j.orgを参照
2.
http://www.esd-world-conference-2009.org/en/home.html