ヒューライツ大阪は
国際人権情報の
交流ハブをめざします
国際人権ひろば No.85(2009年05月発行号)
NGO おじゃま隊
おとなと子どものパートナーシップをめざして 子ども情報研究センター
岡田 仁子 (おかだ きみこ)
ヒューライツ大阪 研究員
今号から、関西をはじめとして活躍されている団体の活動をインタビューしてご紹介するシリーズを始めます。第1回は大阪市港区築港にあるpiaNPO3階で、ヒューライツ大阪のお隣の社団法人子ども情報研究センターにお伺いして、事務局長の国松祐子さん、山下裕子さんにお聞きしました。
一番の強みは会員 「力」
国松さん
子ども情報研究センターは、1977年に設立されました。編集・出版・情報発信事業、子どもエンパワメント事業、地域子育て支援ネットワーク事業、子どもの人権・人権保育教育に関する研修・研究事業などの活動をしています。日々の相談活動などには延べ 150 人くらいの会員さんが参画し、企画・運営しています。また全国には機関誌 『はらっぱ』 でつながる会員さんがいます。この会員の参画とつながりがセンターの強みです。
山下さん
設立当初は『乳幼児発達研究所』という名称でスタートしました。被差別部落の子どもたちが命や健康、育つ権利を脅かされ、その背景に親の生活の厳しさがある中で、いかに子どもの権利を守ることができるかという運動から始まりました。したがって、当時、会員の多くは保育・教育に携わる人たちでした。1994年、子どもの権利条約の国内批准を機に、0歳から18歳までの「子ども」の権利について考えていこうと、『子ども情報研究センター』と名称変更しました。それにともない、現在では地域で市民活動をしている会員が増加しています。
0歳から18歳までの話題を取りあげる 『はらっぱ』
国松さん
編集・出版・情報発信事業では、月刊の機関誌『はらっぱ』を発行しています。この『はらっぱ』も設立当初は、「保育を考える仲間の雑誌」として創刊しましたが、センター名称変更にともない、現在は「こどもとおとなのパートナーシップ誌」と銘打っています。09年5月で295号になりました。現在9人の編集委員で毎号の特集や連載コーナーを企画していますが、それぞれ特色あるメンバーで、編集会議はいつもかなり盛り上がります。
取りあげる内容や読者層をもっと絞った方がいいのでは、という声もあるのですが、子どもといっても0歳から18歳までを対象とするとなかなか絞ることができず、逆に幅広いテーマを扱いながら、それら全部まとめて子どもの問題なのだという考え方をとっています。『はらっぱ』のなかで、10代の人の声を取りあげる「ティーンズメッセージ」は私たちが力を入れているところです。子どもの問題を考えるとき、当事者である子ども、10代の人たちの生の声を受け止め発信することははずせません。ただ、原稿を書いてくれたり取材に応じてくれたりするティーンズを探すのは、ちょっと苦労するときもありますね。
会話を重ねる相談活動
山下さん
子どもエンパワメント事業では、「チャイルドラインOSAKA」と「子ども家庭相談室」、地域子育て支援ネットワーク事業では、「ファミリー子育て何でもダイヤル」という相談事業を行っています。
チャイルドラインとは、18歳までの子どものための専用電話。特に悩みや困ったことでなくても、何でも話していい、家族や友人、教師ではない第三者であるチャイルドラインの受け手が聴くというものです。主導権は子ども。話したいことを話し、切りたくなれば自由に切ってもいいのです。
チャイルドラインが日本で始まって10年、全国で66団体が実施しています。08年11月からフリーダイヤルになり、08年は1800件の電話がありました。年々増加傾向にあります。中身を見てみると、男の子からの自分のからだや性のことについての話が一番多く、次に多いのが小中学生の女の子からの友人関係に関する相談です。「試し」にかけてくる電話や、友達どうしで遊びでかけてくる電話も結構あります。もちろん、本当に困ったことを抱えている子どもからの電話もあります。いじめや虐待、体罰、友達との関係などで困っている子どもには、「あなたは悪くないよ。あなたは助けをもとめていいよ。何ができるか、一緒に考えよう」と伝えます。指導やカウンセリングではなく、一方的な情報提供だけでもない、相手の話に耳を傾け、対話することを大切にしています。
子ども家庭相談室は、子ども・保護者・教職員を対象に、面接も含む相談を行っています。08年受けた相談は500件を越えました。また、大阪府教育委員会の委託により、『児童生徒のための被害者救済システム』民間支援機関として、いじめ・体罰・セクシュアル・ハラスメント等の相談も受けています。相談内容は、学校に関する相談が多いです。昨年から、子どもの障害にかかわる相談が増えてきたように思います。
相談にかかわるスタッフの養成講座は、ほぼ年1回開催しています。会員や一般の方々に広く呼びかけ、センターやこれらの活動の趣旨、子どもの権利や子どものおかれている現状などについて知っていただき、ともに活動していただきたいと思っています。
また各相談事業では、スタッフ間の振り返りを大事にしています。相談員が相談者の話を自分一人で抱え込んでしんどくなったり、相談者を傷つけてしまうこともあります。振り返る中で、社会にある差別や抑圧について話しあい、子どももおとなも尊重される社会をめざし、ともに学びあう姿勢を大事にしています。
「つどいの広場」
国松さん
センターの活動の中で、今勢いがあるのが「つどいの広場」事業という活動です。国の子育て支援事業の一環ですが、センターでは大阪市からの委託で、おもに就園前の子どもと保護者が集う場を市内3か所で開いています。ここ港区では08年4月から「はっぴいポケットみ・な・と」を開設し、地元のみなさんの協力を得ながら、地域に根ざした居場所になりつつあります。そのほか、淀川区と北区で開設し、それぞれ地域性やスタッフのカラーを生かして特色ある活動をしています。
こうした「つどいの広場」事業は、子育て中の母親が孤立しないように支援するというのが中心にあり、確かにそうした場は必要だと思います。ただ、そのことによっていっそう、子育ては母親が担うもの、といったメッセージが強化されないようにしたいと考えています。私たちは、以前から「子育て支援」ではなく、「共同子育て」と言ってきました。子育てをみんなで、そして、子育て中だからといって「親」という立場だけではなく、その人がその人としていられる、そんな場にしたいと思います。本当は仕事を持っている人たちにも来てほしいのですが、借りている場所の関係で平日の昼間が中心になっているのが残念です。
長期的取り組みへの課題
山下さん
ここ数年、行政からの委託事業が増えてきました。それはそれで嬉しいことなのですが、1年ごとの契約なのが頭の痛いところです。契約を更新していくことができるものもありますが、3 年までなど期限のあるものもあります。できるだけ長期的に取り組んでいきたいので、行政とどう協働するか、事業費をどう確保するか、それが課題です。
国松さん
センターがめざしているのは、「子どもとおとなのパートナーシップ」。センターの事業・活動すべてのベースになる思いです。子どもだけがお客さんなのではないし、子どもに迎合するわけでもありません。この時代に生きるパートナーとしてともに生き、ともに考え、ともに活動していきたいと思っています。現実にはなかなか大変ですけどね。
「子どもの権利条約」が国連で採択されて今年で20年。日本で批准されて15年になりますが、条約があることすらまだまだ広くは知られていません。特に子どもの参画については、子どもの権利条約の大きな柱であるにもかかわらず、なかなか実現されてきていません。09年のセンターの総会では「子ども参画をどうすすめるか」をテーマに開催しますが、特に今回はぜひ子どもにも参加してほしいと思っています。
社団法人 子ども情報研究センター
連絡先:〒552-0021 大阪市港区築港 2-8-24 piaNPO 307号室
Tel:06-4708-7087/Fax:06-6577-1893
E-mail:
info@kojoken.jp
ホームページ:
http://www.kojoken.jp
ブログ:
http://ameblo.jp/kojoken/