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国際人権ひろば No.88(2009年11月発行号)
特集:「移住」の視点からみる韓国・済州島スタディツアー Part3
済州移住民センターとの交流を通じて ―未来の移住者に対して私たちが出来ること
佐藤 温(さとう のどか) 野呂 瞳(のろ ひとみ)
隼田 奈穂(はやた なほ)藤本 涼子(ふじもと りょうこ)
京都女子大学現代社会学部3回生
急増する韓国人男性の国際結婚
3日目のテーマは「済州島にくらす移住労働者、国際結婚の家族」である。雷雨の中、「済州外国人平和共同体」が運営している「済州移住民センター」、
「済州平和人権センター」を訪問し、職員やボランティアの方々から活動の説明を受け、夕食交流会に参加した。
「済州外国人平和共同体」は2002年にクリスチャン青年団体やクリスチャン医師団体の協力により、前身である「済州外国人勤労センター」として活動を開始した。
2006年には、外国人支援にかかわる事業の母体として社団法人登録をした。2009年からは結婚移住女性のシェルター運営で政府の支援を受けることになり、本格的に活動を始めている。
こうした活動の背景には、済州における国際結婚をはじめとする外国人人口の増加がある。『韓国外国人登録人口(韓国統計庁 HP KOSIS)』によると、
済州特別自治道における外国人登録数は1999年には749名、2008年には4,902名と9年間で約6.5倍に増加している。2008年の日本における日本人男性の国際結婚は結婚全体の4%を占めるのに対し、
同年の韓国人男性の国際結婚は日本の約3倍にあたる11.6%である。韓国全体での外国人妻の国籍別割合の内訳は、中国で46.8%、ベトナムで29.4%、そしてフィリピンの6.5%の順に続く。
同年済州特別自治道においては、1番割合が高いのはベトナム33.8%、中国29.1%、フィリピン20.4%である。日本における外国人妻の内訳は中国、
フィリピン、韓国・朝鮮(在日韓国・朝鮮人含む)となっている。韓国ではベトナム籍女性の占める割合が高く、日本と著しく異なる点である。
多文化家族の支援に取り組む NGO と韓国政府
最初の訪問先である「済州移住民センター」では、移住労働者や結婚による移住女性の相談、医療相談及び診療サービスを無料で行っている。
国際結婚による家族を韓国では、多文化家族と位置づけているが、政府の保健福祉部や済州特別自治道の委託・支援を受け、「多文化家族支援センター」として、
子どもたちの放課後勉強クラスの運営も行っている。
センター長のキム・ジョンウ(金正祐)さんの説明によると、済州においてベトナム人妻の割合が高いのは、嫁不足に悩む韓国人男性と、
ベトナム人女性の結婚を仲介する業者が増えてきたからだという。「済州移住民センター」はタイ、ロシア、シンガポールなどの出身者が利用している。
実際に事務所の壁に掛けてあるポスターや絵には、ハングルの他にも英語やロシア語など、私(佐藤)にはどこの国の言葉か判断がつかない言語も並んでおり、
本当に様々な国から来た人々がこの施設を利用しているのだということを感じた。
また、ここでは韓国語教室が開講されており、授業風景を見学した。講師の女性が1名、生徒が東南アジア系の女性と日本人女性の合計4名が、楽しそうに韓国語を勉強していた。
子守りをしながら授業を受けている女性もいたのが印象的だ。この韓国語教室には全体で約150名の登録者がおり、レベルや時間帯別に分かれて無料で授業を受講できる。
移住者、留学生、それ以外の人も受講することができ、なんと現在では日本人男性で受講している人もいるそうだ。他にもパソコンの授業をするためのコンピューター室や、小さなキッチンルーム、
子どもを遊ばせながら勉強できる部屋や廊下には手書きの絵が飾られており、センターにはアットホームな雰囲気が感じられた。
韓国や日本では国際結婚に対する期待が高まっている。私(隼田)は国際結婚に対して、例えば日本人女性が日本人男性では描けない結婚に対する期待を、外国人男性に求めているのではないかと考えていた。結婚する相手国の文化も言葉も知らずに、イメージ で国際結婚した女性は、理想と現実のギャップに戸惑ってしまう。「済州移住民センター」にも、韓国人男性と国際結婚をした外国人女性から、
DV や生活文化の違いなどの相談が多くあるそうだ。
センター長のキム・ジョンウさん(男性)と移住女性スタッフ(済州移住民センターにて)
移住労働者に対する支援
次に訪問した「済州平和人権センター」の事務所でタイ人男性労働者の話を聞いた。彼は2カ月ほど前、済州にきて、豚の飼育農場で働いていたという。
しかし、規定給料の不支払いだけでなく、農場の社長の横暴な言動に耐えられなくなり、「済州移住民センター」に相談するようになった。
センターの支援を受け、私たちが会った翌日にはタイに帰国する予定ということだった。
彼のような移住労働者の増加の背景には、1990年代以降韓国における経済成長がある。
3 D(difficult=難しい, dangerous=危険, dirty=汚い)と呼ばれる職種に人材が集まらず、労働者不足に陥った。
韓国政府は解消策として、日本の「外国人研修・技能実習制度」を参考にした「産業研修生制度」を設け、発展途上国への技術移転という名目で実質的に低熟練労働者を受け入れた。
その結果、主に中国、東南アジア、南アジアなどから韓国に来た彼らは劣悪な労働・生活環境に置かれることとなった。
現在は低熟練労働者の受け入れに関して韓国と相手国の2国間で協定を結ぶ「雇用許可制」が採用されているが、未登録で滞在している労働者もいるという。
「済州外国人平和共同体」傘下の各センターのスタッフの方々との夕食交流会が開かれ、私たちは前述のタイ人男性、英語と韓国語を話すタイ人の女性スタッフと同席した。
スタディツアーの参加者が積極的に英語で「タイに帰ったらどんな仕事をするの?」、「タイの家はどんなところなの?」といった質問されていた。
タイの男性は、自身の家が非常に貧しかったというわけではなく、母国の実家はフルーツ農場を営んでいて、土地も多数所有しているとのこと。
すぐにタイに帰っても生活できないような状況に陥る事はないようだ。
今まで私(野呂)が抱いていた外国人労働者に対するイメージは、本当に貧しくて生活できないような状況にある人が外国に出稼ぎへと向かうのではないかというものだった。
しかし、この男性はタイのフルーツ農場に比べ韓国の賃金が高いためやってきたと話してくれた。自分自身(野呂)の思い込みばかりが先行してしまっていたが、
実際に話を聞いて調べてみるとまた違った見解が出てくるのだと感じた。
旅を通じて痛感した意識化とアクションの必要性
各センターで話を聞いて一番印象に残ったのは、移住者と移住者を受け入れる側双方の意識を変えなければ、移住労働者・結婚移住者に関するトラブルは解決していかないという事であった。
これは私たち(佐藤・隼田・野呂・藤本)を大学のゼミで指導してくださっている嘉本伊都子先生のテキスト 『国際結婚論!?―現代編』 にも嘉本先生の口癖が以下のように記してある。
「ママは外国人」あるいは「パパは外国人」である事ことを想像してみてください。「きっとこんなことが大変なんだろうなぁ」と思ったら、「ちょっとしたアクション!」を起こしてみてください。
おおげさなことでなく、相手を思いやる=想像することから始めてみましょう! 〔嘉本 2008:136〕
先生が言われていたことと今回感じたことが重なり、自分が意識してアクションを起こすことは外国人移住者の方の助けになるのだと痛感した。
国籍も何もかも違うけれど、相手の気持ちを分かりたい・自分の気持ちを伝えたいという思いは皆変わらず一緒なのだと感じた。こうした気持ちは普段日本で生活していれば絶対に湧き出てこないだろう。
このスタディツアーを通じて私たちが得たものは、3つある。思いやりを持って相手の立場にたって物事を考えること。
流れてくる情報や問題に対し、他人事と思わず意識を持って何事にも取り組むこと。誰かがやってくれるといった他人任せの受け身でいるのではなく、主体性をもって自らが行動し、現実を直視すること。
今後はこのスタディツアーで感じた事を忘れず、日本の現実を知るためアクションを起こしていきたい。
<参考文献・URL>