特集:国際シンポジウム「アセアンの地域的人権機関の設立と東アジアにおける可能性を考える」
現在存在している地域的人権保障システムについて簡単に述べたい。1948年に世界人権宣言が採択されて以降、国際社会は何が人権であるのかを定義し、それに対して国家が負うべき義務に関して合意をつくりあげてきている。きょうのテーマは、いかに実効性のある地域的人権保障メカニズムを構築するかについてであるが、その目的のためには人権委員会という機関を設置する、あるいは地域的裁判所を設立するという方法などが考えられる。これらが、人権保障を現実のものとしていく手段なのである。
人権実施のギャップを縮めるために、アフリカはアフリカ人権委員会、ヨーロッパはヨーロッパ人権条約の採択や人権裁判所の設置、米州(北米、中南米、カリブ海)は、米州人権委員会や米州人権裁判所の設置などをはじめとする人権保障メカニズムを地域全体として創設している。これらの3機構の設立経緯はかなり異なっているものの、いずれもそれぞれの地域において人権の伸長と保護にとって大きく寄与しているという点では共通している。また、下記のような基本的な方向性が3機構の共通点としてあげられる。
1)地域的人権保障メカニズムは、国内における人権保護のシステムとは補完関係にあり、どちらも取って代わることはできない。
2)規範的な枠組み(政治的コンセンサス、条約、宣言など)が存在し、それらは国際基準よりも低くなってはならない。
3)独立した中立の人権専門家、かつ高潔な人格者で構成される。つまり、
・構成員の選定にあたっては、市民社会が関与する真に透明な国家による指名過程と地域レベルにおける選任
・個人資格で任務にあたる
・構成員の多様性の確保
・構成員の特権と免除を保障
・不適任の場合の解任手続
4)人権の伸長、保護という二つの任務
・個人および国家間の申立てを受理し、それについて決定する
・人権侵害を言明し、法的に拘束力のある決定や補償を命じることのできる地域裁判所へのアクセスを提供することができる
・加盟国を訪問し、国レベルの活動を行う
・異なる加盟国で会合を開催する
・広く公表される公聴会を開催する
・人権の伸長と保護の双方に関わる新たなメカニズムを創設する(例えば、ある課題に関する特別報告者を選任する)
・予防的メカニズム(例:緊急手続)
・広く広報される決定や勧告の記録の透明性
5)十分な資源(予算、人材など)をもとに有能で常勤の事務局の支援
6)市民社会、国内人権機関との交流が制度的に行われるための手続
7)国際的な人権メカニズムとの協力
これまでの経験に即していえば、東アジアにおいて地域的人権保障メカニズムを設立する際、そして活用する際には、市民社会におけるさまざまな集団の最大限の参加が非常に重要である。例えば、NGO は、苦情を申し立てる余裕のない人たちへの支援や、人権基準のさらなる発展を推進すること、また人権基準とは何かについて啓発し実施を実現するために主要な役割を担ってきているからである。