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国際人権ひろば No.90(2010年03月発行号)

NGO おじゃま隊(第6回)

ダイバーシティ(多様性)が不可欠な時代を迎えて

ダイバーシティ研究所
Institute for Human Diversity Japan

 「ダイバーシティ研究所」は、地域社会や組織のありようを調査研究し、「人の多様性に配慮した組織や地域社会づくり」を支援するために2007年1月に大阪市内に設立された非営利民間団体です。
 同研究所代表の田村太郎さんは、多文化共生というテーマで長年 NGO/NPO 活動に携わってきましたが、個別のマイノリティの課題を超えたあらたなアプローチで、3名の研究員スタッフとともに、企業・行政・地域社会に多様性を促すための働きかけをしています。2010年4月には東京事務所をオープンする予定で、社会に生きる一人ひとりが個性を生かして活躍できる社会をめざして、ますますパワーアップします。

設立時の思いは

 私は、阪神・淡路大震災で外国人被災者に対する支援のための活動をはじめて以来、多文化共生にかかわる活動を続けてきました。この研究所をあらたに立ち上げたのは、自分の経験がベースになっています。これまで在日外国人、障がい者、女性などカテゴリー別に、機会均等やエンパワメントなどをめざした取り組みが、さまざまな団体によってなされてきました。カテゴリー別の課題の解決も重要なのですが、一方で、それらを総合的に捉えてマジョリティ(多数派)の側に、個別の課題の対応だけではない、多様な人たちと共に生きるという意識を促すような活動をする必要があると思ったからです。
 マジョリティの側といっても行政・企業そして広い意味での市民というようにいろんな立場があるのですが、それぞれの対象に向けた活動を組み立てています。

企業の CSR 活動へのアプローチ

 日本の企業の CSR(企業の社会的責任)の評価をすると、環境分野ではいい取り組みをしていますが、雇用や地域社会とのつながりというような多様性への配慮につながる部分は、正直なところ弱いですね。実際にどういう取り組みがなされ、どの程度進展しているのかを、企業が発行する「CSR 報告書」の調査を通して分析しています。数字でそれを明らかにすることで、企業に問題意識を持っていってもらうのがねらいです。実際、CSR 報告書には、人の多様性にかかわる部分―障がい者雇用率や女性の管理職の割合など―はあまり掲載されていないことがわかります。大きな企業が発行する CSR 報告書は、国際的な NPO である GRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)が策定したガイドラインに準拠して CSR 報告書を作成しています。GRI のガイドラインには、企業が開示すべき情報として、雇用や人権、社会公正といった分野の項目が明示されているのですが、環境に関連した情報の開示状況と比較すると、日本の企業ではこうした社会関連の内容が薄いです。ちょうど今は2009年度分の調査のまとめに入っているところです。研究所としては、企業セミナーに招かれたり、取引先企業の研修を受託したりする仕事も増えてきて、少しずつ企業の側の意識も前進してきたと感じています。まだ依頼してくるのは大企業が多いですが。

本当にすべきことは、これから

 最近日本の企業でも、米国からダイバーシティ・マネージメントという経営概念が導入されており、ダイバーシティ推進室を設けている企業もあります。しかし日本企業が扱う「ダイバーシティ」は女性のみが対象となっていることも多く、他の社会的マイノリティ全体に光を当てて取り組みをしている企業はまだほとんどないといっていいです。ダイバーシティの概念や組織の多様性への取り組みの必要性がピンときていないのだと思います。女性の就業に関したものだけをダイバーシティで扱い、障がい者雇用は人事、外国人雇用は調達担当で扱っていたりと、体系化されていないのです。こうした調査研究を通じて、やっと現状はわかってきた、そして課題解決のための取り組みをどう進めていくかという次のステップにきたわけで、私たちの活動はこれからが本番です。

行政や地域の役割も重要

 ダイバーシティの課題は、企業単体では解決できないものです。環境問題なら自社工場で CO2 排出量抑制をするなどのことが可能ですが、例えば女性の就業率を上げようと思えば、自社の努力だけでは無理です。子育て支援施策が充実している地域とそうでない地域とでは、自ずと差が出ます。外国人労働者の問題も同じことがいえます。企業が雇用した外国人労働者の日本語教育まで全部自前でできるかといえばそれはむずかしいです。結局、自治体や地域社会、NGO/NPO の取り組みが必要になるわけです。企業だけに責任を押し付けても課題は解決しないです。
 また私たちが推進している地域や市民向けの取り組みとして、「地域 SR(社会的責任)」の概念の普及があります。各地で地元の団体とともにセミナーの形で実施して来ました。地域で SR に取り組む企業を紹介し、地域全体で SR を進めていくにはどうすればいいのかを考える機会として、これまでのべ20カ所以上で実施して来ました。企業を批判するだけではなく、取り組みにがんばっている企業を評価し、ロールモデルを作っていくことは大事ですね。

NGO/NPO 代表として政策にも関わる

 前政権下の2009年3月に、「安全・安心で持続可能な未来に向けた社会的責任に関する円卓会議」が発足しました。この会議は、日本政府がはじめてマルチステークホルダー・プロセスという形式を採用した会議です。つまり、政府、労働団体、市民団体など多様なステークホルダー(利害関係者)による構成メンバーで課題とその解決に向けた行動計画の策定をめざしたものです。私は、当研究所も加盟している組織、「社会的責任向上のための NPO/NGOネットワーク(NNネット)」の代表協議者として、この円卓会議で戦略部会委員として関わっています。この NNネットは、2009年に、日本各地の NGO/ NPO 約20団体が立ち上げましたが、円卓会議では NNネットが NGO/NPO 部門の代表ということで位置づけられています。政権交代でしばらくストップしていましたが、ダイバーシティとワークライフバランスを扱う「ともに生きる」ワーキンググループの副幹事として、労働者グループとともに行動計画づくりに向けた取り組みに携わっています。

アジアと協働して取り組む時代に

 こうした多様な担い手の協働による「マルチステークホルダー・プロセス」と併せてこれから重要になってくるのが「サプライチェーン」での SR の推進です。例えば大きなメーカーが、環境と社会貢献以外の CSR に力を入れていくなかで、取引先である中小企業に対しても環境や品質管理に加えて雇用や人権といった社会面での取り組みを求めていくことになります。中小企業もダイバーシティを推進しなければ生き残れない。
 また人口変動とサプライチェーンの問題をかけあわせると、もはや日本国内だけを対象にして議論している時代ではないこともわかります。アジア全体を視野に入れた雇用の多様性と地域社会の SR を一緒に議論していく必要があります。例えば、中国の企業で雇用者の人権が守られていなければ、日本の企業の CSR も果たせないということです。当研究所でも2010年度から、アジアにおける人の送り出し地域として、またサプライチェーンの視点から、中国や韓国の調査をはじめようと考えています。
 政府も「東アジア共同体」というのであれば、こうした問題解決からスタートするべきだと思います。マルチステークホルダー・プロセスをアジアで構築していくことを、日本から提案するぐらいの視点を持って、アジアを見つめたい。
 消費者であれ、雇用する立場・される立場であれ、ダイバーシティという考え方はこれから不可欠になってくると思います。内外で今求められているのはそのモデル作りで、当研究所はその理念と実践の広がりに役立ちたいと思っています。


ダイバーシティ研究所
http://www.diversityjapan.jp/
大阪事務所 〒532-0011 大阪市淀川区西中島 4-6-19  木川ビル5階
東京事務所 〒169-0051 東京都新宿区西早稲田2-3-18 アバコビル5階
連 絡 先:office@diversityjapan.jp

(構成:朴君愛 ヒューライツ大阪)