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「移住者の人権に関する国連特別報告者」のホルヘ・ブスタマンテさんが、2010年3月23日~31日にかけて日本における移住者の人権状況に関する訪問調査を行った。1999年に国連人権委員会(現、国連人権理事会)によって創設された「移住者の人権に関する国連特別報告者」が日本政府の承認を得て公式訪問したのは初めてのことであった。
ブスタマンテ特別報告者は、東京、名古屋、豊田、浜松などを訪れ、関係大臣をはじめ国や地方の行政担当者、国際機関の職員、弁護士、研究者や教員、市民団体のメンバー、移住女性・男性・子どもたちと面談するとともに、東日本入国管理センター(茨城県)、外国人学校などを視察した。
特別報告者は、9日間にわたる調査を終えるにあたり、東京で要旨下記のようなプレスリリースを発表した。
経済危機が移住者へ与える悪影響を緩和するために日本がとった措置を評価する一方で、市民団体から提供された情報によると、人種主義、差別や搾取などの問題が存在し、司法機関や警察に移住者の権利を無視する傾向があるとともに、人権保護を含む包括的な入国管理政策が欠如しているなど、一連の課題が存在することに注目している。
特別報告者は、移住者が直面する人権問題の深刻さに対処するため日本政府が行っている努力、とりわけ経済危機後に進めた取り組みに注目する。(1)金融危機の結果、私立の外国人学校を退学し、日本の公立学校に転入する移住者の子どものための日本語指導の実施、(2)地方自治体により認められたいくつかの外国人学校に対する助成などは、移住者の子どもが教育を受ける権利を実現するための注目すべき取り組みであり、積極的な例としてあげられる。
さらに、地方自治体レベルにおいて、国からの助成金を受けてハローワーク(公共職業安定所)に通訳を配置したり、日本語学習支援基金の創設(愛知県など)により、企業が移住労働者やその子どもたち向けの日本語学習教室を負担するなど、興味深い取り組みが進められていることがわかった。移住者のニーズへの対応を議論する場として、27の自治体が集まって設立された外国人集住都市会議もまた積極的な取り組みである。
しかし、移住者およびその子どもの人権を保護するために、政府が取り組まねばならない課題もたくさん残されている。事態の改善に向けて最も重要性の高い懸念、および予備的な勧告として、以下のような課題が挙げられる。
○日本は、20年前から移住労働者を受け入れるようになったが、移住者の権利保護を保証する包括的な移民政策は実施されていない。移住者の上陸・在留を管理するだけでなく、移住者の社会統合および就労・医療・住宅・教育を含む、移住者の権利を尊重する条件を、差別なく作り上げる制度を実現するための、明確かつ包括的な移民政策の実施が必要である。
○国籍に基づく人種主義および差別意識は、日本でいまだ日常的に起こり、職場、学校、医療施設、住宅などにおいて見られる。国連人種差別撤廃委員会の勧告で明らかにされたように、憲法や現行の法律などの一般的規定は、外国人住民を人種または国籍に基づく差別から保護するためには効果的ではないことから、人種差別の撤廃と防止のための特別な法整備が求められる。
○外国人研修・技能実習生制度は、研修生・技能実習生の心身の健康、身体的尊厳、表現・移動の自由などの権利侵害となるような条件のもと、しばしば搾取的で安価な労働力を供給したり、奴隷状態にまで追い込んでいる場合もある。このような制度を廃止し、雇用制度に変更すべきである。
○非正規滞在の移住者に対する収容政策、とりわけ庇護申請者、子どもの保護者および子どもを含む非正規滞在者の全件収容主義、および場合によっては2~3年という事実上無期限収容にあたる長期収容が存在することなどに懸念を表明する。
○特別報告者は、移住女性およびその子どもに対するDVの頻発に懸念を表明する。外国人女性が、たとえDV被害者であっても、在留資格の更新において夫の協力に頼らなければならない状況に懸念を表明する。
○多くの外国人の子どもが、不就学の状況にあることから、外国人学校または日本の学校で学べるよう、また日本語を効果的に学習できるよう促進する措置を、政府は強化するべきだ。
○特別報告者は、移住労働者に対する民間の雇用者による雇用、昇格機会、労災における医療へのアクセスの問題、不当な解雇脅迫など明らかな差別の状況について数多く耳にした。滞在の正規・非正規にかかわりなく、移住労働者は多くの場合、短期契約で働いているため、不安定で差別的な条件で雇われ、社会保障へのアクセスがない。
今回の訪日の報告書は、国連人権理事会の2010年内のセッションに提出される予定である。
参照:国連広報センター http://unic.or.jp/unic/press_release/1548)