特集 日韓の難民政策の現状と展望
韓国の難民制度が新しい法案「難民等の地位と処遇に関する法律案」の制定の動きを含めて大きく変わろうとしている。2010年6月20日開催された「世界難民の日 10関西集会」(主催:世界難民の日2010関西集会実行委員会)にファン・ウヨ国会議員とともに招かれて、韓国の難民処遇について報告したキム・ジョンチョル弁護士に寄稿していただいた(編集部)。
「世界難民の日 `10関西集会」で報告する筆者
私の理解では、韓国が難民条約に加入する際、他の分野と同様に難民制度も日本の難民保護の処遇を大いに参考にした。難民制度の導入当時の日本の制度を参考にすることで、一方では、難民制度を早急に定着させることができたが、他方では日本の制度が保守的であるために、韓国の難民制度の発展を妨げることにもなった。その代表例が、「難民」という用語である。韓国では、refugee, asylum-seeker を呼ぶとき、日本と同じく「難民」という。しかし「難民」という言葉には refugee, asylum-seeker に込められている「人道主義的な保護の必要性」というニュアンスがほとんどない。私は、refugee に対するこの誤った翻訳が難民への処遇や世論によくない影響を及ぼしていると考えている。
ところでこの数年間に、韓国の難民制度には注目すべき変化があった。これまでの状況とその処遇の変化について述べる。
○難民認定の手続き
韓国は1992年に難民条約に加入し、1993年に出入国管理法を改正して難民に関連する条項を新設した。
まず、難民認定手続に関する情報であるが、法務部(省)は、空港や港湾で難民認定手続について全く案内をせず、出入国管理事務所でも詳しい案内を受けるのが難しい状況であった。大部分の難民は出身国のコミュニティで、難民認定手続について情報をえるのである。出入国管理事務所に難民認定の申請をした人は、難民認定の担当職員と面談をすることになる。しかし通訳の予算がわずかで、これまで多くの難民面談が通訳なしに進められてきた。難民申請後に、拒否の決定を受けて行政訴訟をする難民申請者たちは訴訟支援を受けるのが難しく、プロボノ(善意の)弁護士が主に訴訟を代理することになる。行政法院(裁判所)は、例えば、税金問題を専門に担当する裁判部があるが、難民のケースを専門に判断する裁判部がないので、難民事件は様々な裁判部に割り当てられる。すると難民法の法理に慣れない判事はかなり高い立証基準を適用して判断するケースが多い。韓国での判例の特徴の一つは、難民要件以外の事由(例えば、難民申請が遅い、経済的目的の入国、本国に残った家族の安全、有効なパスポートでの入国など)を根拠に訴訟を棄却する例が多く、難民条約上の難民要件に該当しても、それに基づき保護するかどうかは国籍国の裁量事項という判例が確立されていた。こうして、韓国は、難民条約加入後約10年の2001年に初めて難民として認定した。2010年5月現在、182名の難民認定者と106名の人道的滞留許可者(編注)がいる。
○難民などに対する社会的処遇
難民申請者に対する社会的処遇は皆無であったため、ほとんど事実上強制送還になっていた。申請手続者は就業が禁止され、衣食住や基本的医療への支援が皆無の状況におかれた上、難民認定手続が長期化していたからである。難民申請者の社会的処遇に関連してもっとも深刻な問題は拘禁である。というのは、こうした拘禁は、期間の制限がなく、行政機関による拘禁にもかかわらず、定期的な司法審査の可能性を排除しているからである。
2008年12月に改正された出入国管理法(2009年6月1日施行)は、その間、民間レベルで絶えまなく主張してきた難民などの社会的処遇の改善に対し、その一部を受け入れた。それは大きく3つの内容に分けられる。
まず、法的根拠がなかった人道的滞留許可について規定をし、人道的滞留地位者に就業許可を申請できるようにした。二番目に、改正出入国管理法は、難民申請者にも就業許可する道を開いた。しかし、事実上その要件があまりにも厳しく難民申請者が就業許可を得るのはほぼ不可能な状態である。三番目に難民申請者などに衣食住と基本的な医療サービスを提供する難民支援施設を設置できるようにした。改正法ではその施設の具体的な内容は出ていないが、法務部は、この間、民間が提案した都心の小規模の民間委託型の難民支援施設モデルを受け入れず、アクセスが困難な仁川空港付近に大規模な法務部直営の施設をつくることにしており、既に設計を終えている。
前述の出入国管理法改正に際し、法務部の難民手続の運営でいくつかの変化があった。難民専門スタッフを6名から11名に増員し、滞って積まれている難民申請を迅速に判断しており、この過程で、難民認定手続に要する時間が平均3年から1年に短縮された。しかし新しく生まれた就業許可制度によって、これまで難民申請者に対し就業黙認の政策を一気に変えて、難民申請者が就業をしたという理由で拘禁される例が増えており、また滞っている難民申請を無理に解消するために、法務部傘下の「難民認定協議会」は極めて形式的に異議申立の審査を行った。
最近、法務部は通訳サービスが難民認定手続で重要であると認識して通訳予算を拡充しようとしており、難民申請段階で、これまで認めなかった弁護士代理を許容し、面談でも難民申請者と同席できるようになった。また2010年6月1日から外国人労働者にのみ認められていた緊急医療支援サービスが難民申請者、難民認定者、人道的滞留地位者にも認められるようになった。
「世界難民の日」制定25周年に韓国で発行された記念切手
2008年12月の公聴会を経て、2009年5月25日に難民支援の NGO と弁護士たちが別途、難民法の制定案を準備し、国会でファン・ウヨ議員を通じて提案した(現在、法案は国会の法制司法委員会を経て、法案審査小委員会に係留中)。その法案の主な内容は次のとおりである。①「難民」「難民申請者」などの概念の定義を明確にし、国際法に立脚した難民制度の運用を可能にするようにした。② 国際法に拠って例外のない強制送還禁止の原則を明確にした。③ 難民認定手続での情報へのアクセスをしやすくした。④ 空港・港湾などへの難民認定の申請手続を明文化した。⑤ 難民認定審査の期限を設け、面談時に信頼関係にある者の同席を規定した。⑥ 難民の特殊性から起因する立証責任及び立証程度の緩和の内容を明文化した。⑦ 異議申立においても口頭陳述の機会を保障するなど手続的保障がなされるようにした。⑧ 人道的地位の付与手続も原則的に難民認定の手続を準用するようにした。⑨ 再定住難民を規定し、海外難民の大韓民国での再定住の可能性を付与した。⑩ 異議申立決定機関であると同時に難民政策審議機関である難民委員会を新設して独立した異議手続を進められるようにした。⑪ 人道的地位を付与された者は出入国関連部分を除いて、難民と同一の処遇を受けられるようにした。⑫ 難民申請者の場合、生計費支援を原則にし、一定期間が過ぎれば例外的に就業できるようにした。
最初に、日本の難民制度が保守的であるために、韓国での発展に障壁になっているところもあると述べたが、もう一度考えると公正な評価ではないように思う。数年前には、韓国で再定住難民という言葉も出せなかったが、日本が第三国定住による難民の受け入れを始めたと聞いて、難民法案に再定住難民に関連した条項を入れることができた。日本での難民の処遇において、韓国の法務部が無関心であったり努めて無視している中に、良いものが多くあるはずだ。
日韓が民間レベルでの難民の専門家や活動家がいっそう活発に交流をして相互の良い部分を学び、挑戦する機会が増えることを望む。
(訳: 朴君愛)
※「世界難民の日'10関西集会」の報告は次のウェブサイトを参照
http://www.rafiq.jp/wrd/siryo/report.html
※(編注)
難民条約上の難民要件を充足していないが、人道上、保護な必要な場合に在留を受けいれる補完的保護と呼ばれる制度があるが、韓国ではこれを「人道的滞留許可」という。