特集 日韓の難民政策の現状と展望
難民は他の国の、私たちと関係がない出来事ではない。例えば信じる宗教を禁止されている、軍事政権の下で民主化活動をしたら不当に逮捕された等の人権侵害や命の危険を逃れて助けを求める人が日本へもやってきている。難民を保護する制度は具体的にどのようなものか、また課題は何か?さらに、今年新しくはじまる第三国定住はどのような制度なのか?韓国との比較を意識しながら紹介していきたい。
日本は1981年に難民条約に加入し、1982年に出入国管理法を改正して出入国管理及び難民認定法とし、難民からの申請を受理し、審査するための手続きを整えた。難民として保護を求める外国人は、まずは日本政府(法務省入国管理局の地方事務所)へ申請書を提出し、難民調査官による審査を経た上で決定を受ける。この決定に対して不服があれば異議申立て、さらに裁判により決定の取り消しを求めることができる。この一連の過程を、難民認定手続きとして一貫した視点でみることが重要だと考えている。
難民認定に関する情報は、法務省のウェブサイトに日本語を含む14カ国語で掲載されているほか、 NGO も独自に情報提供をしている。また、当協会でもウェブサイトに日本語を含む8カ国語で情報提供を行っている。例えば、イギリスでは空港の誰もが見える場所に10ヶ国語以上で難民申請についての情報提供を行っているが、そのような掲示板は日本の空港にはまだ存在しておらず、成田空港には 「入国・難民申請手続総合案内所」 があるものの、利用についての報告はほとんどない。今後の課題といえる。もっとも、入国管理局にて難民認定手続きについて知ったという申請者は複数名いるほか、インターネットを通じて情報収集ができた人もいる。しかし、韓国と同様に難民認定手続きや生活等についての情報を得る先としてはコミュニティが圧倒的多数である。アフリカ等同国出身者が少ない場合には、頼れるコミュニティがないために、国連や NGO を通じて情報を知ったという人も少なくない。さらには、必ずしも識字率が高くない国から来て文字が読めない人への配慮等も必要であると考えられる。そして何より、誰もが通過しているはずの空港で難民申請が少ないということは韓国・日本両方に当てはまる課題としてあげられる。申請にあたって相談できる NGO や弁護士が空港に常駐しているわけではないので、とりあえず入国した後に手続きをしなくてはならないという状況は両国でも変わらないが、諸外国の事例を見ると、できるだけ早く申請し、結果を出し、難民を保護する、という流れができあがっていることが多く、日韓もそのような方向で運用が変わっていくことが期待される。
韓国と同様に、難民認定申請をした後は難民調査官による審査がある。日本では政府により通訳がつけられることが多いが、質を担保するための制度的保証はないことに加え、少数言語であると非常に人数が限られてしまうのは社会資源の課題といえる。また、提出資料の日本語への翻訳については自身で行うことを求められることが多い。弁護士による支援については、難民申請者数に比して非常に限定的であるといえる。例えば2006年の異議申立において理由なしとされた127人に対し、訴訟提起数は59件(訴状1通につき1件と数える)であり、1人について1件と計算しても、多くの人が行政手続き終了後、訴訟提起を行っていない状況にある。
申請者また行政手続きにおける弁護士の代理は認められておらず、一次申請の際のインタビューでは弁護士の立ち会いが認められていない。日本弁護士連合会が法テラスへ委託し、難民の認定に係る手続などにおける弁護士等の費用援助が行われている。また、近年では法律事務所が社会貢献の一環として難民の代理人となり法的支援を提供するケースもみられており、その支援の輪は広がりつつあるが、急増する難民申請者に追いつけるペースではない。
日本においては、2009年末までに難民申請者8,685人、認定を受けた人538人、人道配慮による在留許可を受けた人1,383人(在留更新許可者数のため重複ありと予想される)となっている。
相談・カウンセリング風景 (難民支援協会)
法務省は、難民審査にかかる期間の目標値を6カ月、現状では13カ月間であると公表した1。加えて、異議申立ての期間があり、全体としては難民申請者は行政手続きのみで約2年間を要する。その間の法的地位は難民申請時の在留資格によって変わってくるが、申請時に在留資格がある申請者は6カ月の特定活動が付与される。最初の6カ月は就労が禁止されるが、その後原則就労が認められる。また、多数の自治体で国民健康保険への加入が認められたことが確認されている。しかし、生活保護を得ることはできない。
また、難民申請時に在留資格がない場合には難民申請によって在留資格が付与されることはないが、審査を経て仮滞在をえられる場合もある。仮滞在の効果としては退去強制手続きが停止することのみであり、入管法施行規則には就労禁止とされている。また、2008年の実績によると仮滞在は対象者のうち10%未満の人にしか許可されず、多くは退去強制手続きの中で仮放免を得ることになる。仮滞在、仮放免ともに国民健康保険の加入対象及び生活保護の準用は認められていない。
なお、2012年から施行予定の外国人住民基本台帳には仮滞在許可を得ている人が記載対象者とされており、また仮滞在を得ている人についても検討対象となっているため、行政サービス提供の対象となることが期待されている。
外務省は1982年の行政監察により、難民申請者への生活支援金(保護費)の支給を行ってきた。1日生活費1,500円、家賃補助40,000円/月(単身者の場合)、医療費は実費(原則30,000円まで)の支援が行われているが、2009年度は難民申請者の急増に予算増が追いつかず、一時100人近くが支援金の支給を得られない状況となった。
収容については、韓国同様、日本でも課題となっている。とりわけ退去強制令書の発付後は無期限の収容が可能であり、2010年5月には難民申請者で2年以上収容されている人が複数人に上るという状況下で、収容者によるハンガーストライキが行われた。収容の必要性に関する定期的な司法審査もなく、国際機関からも改善を勧告されているが、日本政府は法務大臣が、収容後、一定期間経過後の収容の必要性・相当性についての検証・検討と仮放免の弾力的運用を行う旨発表した。今後は、官民の連携により、より仮放免をされやすい環境整備が期待されている。
公的支援を失い、食べ物や住まいもないという難民に対して食糧支援を行う(難民支援協会)
定住支援に関しては、2002年8月7日の閣議了解にて条約難民への定住支援が実施されることとなった。現在では外務省によって委託先の財団法人アジア福祉教育財団難民事業本部を通じて実施され、572時間の日本語教育、生活ガイダンス、職業相談員による職業相談及び職業紹介等の実施が実施されている。しかし、人道配慮による在留許可を受けた人についてはこの支援の対象とはなっていない。
最後に、すでに母国を逃れて難民となっているが避難先で保護を受けられない人を他国(第三国)が受け入れる、第三国定住が2010年度から3年間のパイロット事業として実施される。報道によると、9月末に30人程度のミャンマー(ビルマ)難民がタイの難民キャンプより日本へ直接受け入れられることとなる。これまで述べてきた難民と大きく違うのは、日本へ来る前に難民審査を終えていることであり、在留資格を得て、原則として定住を前提に来日することである。来日直後に半年間の研修を受けることが予定されているが、その後地域社会にて暮らしていくことになる。アジアで初の事業となるこの受入は、切磋琢磨する韓国政府が導入を検討する等この地域へよい影響を及ぼしていくことが期待されている。
1. 難民認定審査の処理期間に係る目標の設定と公表について(入国管理局 2010年7月16日)
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri03_00006.html