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国際人権ひろば No.94(2010年11月発行号)

特集1: 国連人権活動と NGO 活動を学んだジュネーブ・スタディツアー Part2

国連欧州本部(パレ・デ・ナシオン)を訪問して

太平 満恵(たいへい みつえ)
アムネスティ・インターナショナル日本 会員

  私たちは第15回国連人権理事会の2日目、9月14日に国連を訪れた。セキュリティーチェックは厳しく、写真入りの ID をもらうまで1時間かかった。国連はアリアナ公園内にあり、国連の内外にある木々はゆったりと大きい。孔雀もいるらしい。貴族のアリアナ氏が土地を寄贈するとき、木を切らないこと、孔雀を絶やさないことを条件にしたという。
 人権理事会を傍聴するため、手荷物検査を受けて会場に入った。傍聴した時間は15分程。その後、人権高等弁務官事務所の職員の小野嶋悟郎氏と羽田鯉生氏からそれぞれ人権理事会などについて説明を受けた。
 人権理事会には特別報告者との対話システムがあり、私たちが傍聴したのはこれであった。子どもと武力紛争に関する特別代表であるラディカ・クマラスワミ氏に対し、フィリピンとオーストリアの政府が発言していた。以前は、特別報告者は1年に1回報告書を提出し、人権小委員会ではそれを読むという一方通行であったが、この方法によって特別報告者は発言ができるようになり、報告者に対しても直接意見を述べることができるようになった。人権理事会から始まった新しい取り組みのため、将来も継続されるかどうかは不明とのことであった。
 国連の活動は 1.安全保障 2.開発 3.人権の3分野であるが、人権理事会の予算は国連全体の2%で、4つの活動(1.人権の促進 2.人権が守られる環境整備 3.政府との協力 4.国連の中での人権の主流化)を行っている。他の国連機関と一緒に、人権に基づく開発や政策の検討、140の国連の駐在所への人権アドバイザーの派遣などを行っているという。国連の職員は、人権が大切なのは理念ではわかっている。けれども「実際にはどうすればいいのか」と聞かれるという。国連内でもそうなのだから、日本における人権活動の困難さも納得できる。
 人権理事会のアーカイブは web 上に公開されており、開催年や日、発言者を選択して閲覧できる<http://www.un.org/webcast/unhrc/>。これを利用すれば世界中どこでも会議の傍聴が可能だ。ただし、会場のマイクを通さない発言や、会場全体の様子までは見えない。人権理事会を目撃するという感覚は、その場にいて感じるものであろう。

ILOの歴史について学ぶ(撮影:関めぐみ)3.jpg

ILOの歴史を学ぶ(撮影・関めぐみ)

ILO(国際労働機関)本部を訪問
 

 ILO 本部の場所は国連前からバスで2駅分。歩いても10分ほど。国連前から続くなだらかな上り坂の途中にある。バス停からしばらく歩くと ILO の大きな石碑があり、並木道が続く。それを抜けて ILO の建物に辿り着く。
 国連本部に比べると、ずっとスムーズに入れた。訪問者も少ないようだ。入口近くまで ILO の組織と活動について説明して下さるレモ・ベッチ氏が出迎えてくださった。玄関から別館に続く、左右がガラス張りで吹き抜けの長い廊下に敷かれている絨毯を利用して ILO の歴史が話された。ILO が設立された1919年からの年号を重ねた長い長い絨毯である。その後、歴代の事務総長の肖像画の前で、各人の経歴がすらすらと話された。
 それから会議室に移動し、国際労働基準局の三宅伸吾氏から ILO の活動内容について説明を受けた。9月から ILO に3ヶ月のインターンに来ているという日本の大学院生の女性も同席された。
 ILO の労働における基本的原則は4つ(1.結社の自由 2.強制労働の禁止 3.差別の排除 4.児童労働の廃止)。それぞれに2つの権利に関する条約がある。それら8つの条約のうち2つを日本は批准していない。105号(強制労働廃止条約)と111号(差別待遇≪雇用及び職業≫条約)である。批准はしていなくとも、ILO 加盟国はこれらの基本原則を遵守しなければならない。これが ILO の特徴である。
 ILO の条約違反について、国連の個人通報制度のようなものは残念ながら存在しない。特別手続というものが3つあるが、個別案件に対応しているのは結社の自由に関するものだけで、しかもその申し立ては労働者団体でなければならず、個人ではできない。
 国連との協力関係ついては、国連が条約を作る際や特別報告者に対し、ILO がもつ情報を提供したり、専門家同士または社会権規約委員会の委員との交流があるという。
 ILO 条約について、どこが何を批准しているか検索できるシステムが ILO のウェブサイトに公開されている<www.ilo.org/normes>。このページの右下に「Databases」があり、これを使えば様々な検索が可能である。
 日本にいても情報収集はできる。しかし、国際機関に行き、人権意識を刺激することも大切だと今回のツアーに参加して強く感じた。時間もお金もかかることではあるが、機会があれば、是非、体験して欲しい。