世界の人権教育
人権教育は、国レベルで、国際的な地域レベルで、そして地球レベルで一層注目され、支持されている。人権がまもられるためには、人権教育が重要であることが認識されているからだ。ナヴァネテム・ピレイ(NavanethemPillay)国連人権高等弁務官は、次のように述べている。「人権教育は、人権侵害の防止、非差別の促進、平等と持続可能な開発、民主的な意思決定における人々の参加の強化のために欠かせないものだ」。
人権教育の分野で、1988年に国連人権センター(後に国連人権高等弁務官事務所に改組)がはじめた「人権の世界広報キャンペーン」のような国際的な取り組みは、これまで継続して行われてきた。人権侵害を防ぎ、人権が社会に根付くために、人権教育が重要であることは、1993年にオーストリアのウィーンで開催された世界人権会議の成果文書である「ウィーン宣言と行動計画」でも述べられている。
この国際会議では、日本を含めた171カ国の政府代表と多くのNGOが集まって、人権に関わる重要な議論が交わされた。最終的に「ウィーン宣言と行動計画」が採択され、「人権教育のための国連10年」(1995-2004)の実施が勧告された。
「人権教育のための国連10年」は、成功した取り組みであったといえるが、人権教育の推進という入口に立ったに過ぎない。人権教育は、それに関わるすべての関係者が継続して支えていく必要があり、各国に対してインパクトを持つには、国際社会で長い期間にわたって優先的に取り組まれなければならない。
「人権教育のための国連10年」に続いて「人権教育世界プログラム」が始まり、その第1段階(2005-2009)では、初等・中等教育(小学校、中学校、高等学校に相当する)に焦点があてられた。2010年からは第2段階に入ったが、その行動計画は、2010年9月の国連総会で採択された。そこでは、高等教育つまり大学や大学院での教育や、教員、公務員、法執行官、軍関係者などに対する人権研修に焦点があてられており、現在、進行中である。
ところで、2008年の「人権学習国際年」(国連総会決議62/171、世界人権宣言60周年記念に関する採択)の存在は、国際社会での人権教育の進展に重要な貢献をした。また、この国際年をベースに世界各地で多くの取り組みがなされた。
こうした流れを受けて、国連で、「人権教育・研修に関する宣言」を作成しようという動きが活発化し、宣言の草案がほぼ完成している。
国連人権高等弁務官事務所の弁務官に次ぐ立場にあるカン・キョンファ次官がこの草案作りに関わって、次のようなメッセージを出している。
「人権教育・研修を実施することは、明確な国家の義務であり、すべての人権を実現するための前提条件である。人は、人権を知り理解することなしに、人権を要求したり、遵守させることはできない。人権教育・研修に関しては、多くの国際的な文書の中では既に、それを推進するべきであるとする条項があるが、宣言草案は、そうした内容を集約したものでなければならない。それらの文書というのは、世界人権宣言をはじめ、女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約、人種差別撤廃条約、子どもの権利条約、社会権規約等の人権条約のことである。さらにいくつか追加すると、条約機関における見解、法律とまではいかない規範であるソフト・ロー、前述のウィーン宣言、2005年世界サミット(国連首脳会議)のような政策的な文書も含まれる」。
国連人権理事会は、人権理事会のシンクタンクの役割を担っている諮問委員会に対し、「人権教育・研修に関する宣言」の草案の準備を要請した。(決議6/10、2007年9月28日)その要請を受けた諮問委員会の「人権教育・研修に関する宣言」起草グループの特別報告者であるエマニエル・ドゥコー(EmmanuelDecaux)氏(パンテオン・アサスパリ第2大学教授)は、この間のプロセスをこう述べている。「諮問委員会で承認されたコンセプトの枠組みにしたがって、起草グループは、開かれた、多様な議論を受入れるようなやり方で調査研究、会議、意識啓発をうまく進めることができた。起草グループは、2009年2月に、国際機関、各国政府、市民団体に対し、人権教育の取り組みの現状や宣言作成に関するコメントを求めるアンケートを実施した。そのアンケートへの回答は、起草グループが分析し、特別報告者である私がまとめた(A/HRC/AC/3/CRP.4)」。2009年7月16日~17日、モロッコ・マラケシュで開催されたセミナーは、起草グループの考えを発展させるのに重要なステップであった。そこに参加した国内人権機関のネットワークは、人権教育に関わる広範な「NGO連合」や研究者と同じく、節目毎に、積極的に関わった。諮問委員会は、人権教育推進にあたり、すべての利害関係者が自分たちの意見を表明できるように公開討論会を開いた。
その討論の場には、専門家、数カ国の政府代表、アムネスティ・インターナショナルといったNGO、国内人権機関のネットワークの代表らが参加した。マラケシュでのセミナーのみならず、総じて草案準備の過程で議論のすべてにわたり、政府代表は人権教育をより知ろうと真剣な関心を示し、すべての利害関係者が、力の入った対話を交すことができたのは大変良かったと思う。
諮問委員会は、第4会期のときに満場一致で、「人権教育・研修に関する宣言」草案を承認し、親組織(人権理事会13会期)に回付する勧告4/2(2010年1月29日)を採択した。
草案を検討する政府間ワーキング・グループが会合を持つ前に、「五大陸」からの政府代表を含む「人権教育・研修のためのプラットフォーム」は、3回にわたる非公式会議を招集した。1回目が、2010年6月24日に全体的なコメントのために設けられ、2回目の9月3日は、代表参加者が草案を検討しコメントを行った。プラットフォームは、この議論に基づいて、3回目の2010年12月14日の議論のための草案の改訂版を作り、3回目の会議の結果が、さらに草案に組み込まれた。非公式会議は、文案を詳細に検討した。
そこでの草案は、2011年1月10日から14日の「人権教育・研修に関する国連宣言」草案に関するオープン・エンド形式の政府間ワーキング・グループでの議論の出発点となった。その政府間ワーキング・グループのセッションで、カン次官はこう述べた。「現在の文案は、諮問委員会での作業をフォローし、幅広い議論の中で修正されたものだ。そこでの『人権教育・研修』の定義は、知識やスキルにとどまらず態度やふるまいの改善(developments)を伴う生涯にわたるプロセスとしている。また『人権教育・研修』が効果をあげれば、すべての人々の平等と機会均等を育み、人権侵害を防止し、差別と闘う力になると理解している。関連する戦略・政策・プログラムを通じて、『人権教育・研修』が実施されるようにすること、そしてこの分野で市民社会が関連する活動ができるような環境を作ることは、政府の責任であることを強調している」。
カン次官は、草案に書かれている内容から2点を強調した。1点は、人権としての「人権教育・研修への権利」を明確に言及していることである。2点目は、既存の国際的あるいは地域的な人権システムの監視メカニズムを利用して、宣言が出たら一層人権教育の実施が強化されるべきであるということだ。監視メカニズムの利用とは、人権に関する条約機関、特別手続、人権理事会の普遍的定期審査(UPR)を使うことである。人権理事会決議13/15にしたがって、草案は、政府間ワーキング・グループが協議し、最終的にまとめた(A/HRC/WG.9/1/2)。この草案は、人権理事会第16会期に検討されることになっている。
人権理事会に提出された草案は次のURLを参照:
http//www2.ohchr.org/english/bodies/hrcouncil/16session/reports.htm
中央スイス・ルチェルン教員大学(theUniversityofTeacherEducationCentralSwitzerland)人権教育センター(ZMRB)では、2012年に新しい国際研究プログラム「CertificateofAdvancedStudiesinHumanRightsEducation(人権教育上級研究修了認定コース)」がスタートする。このプログラムは学校や生涯教育など各現場で働く人権教育トレーナーを養成することを目的としている。
詳しい情報は peter.kirchschlaeger@phz.ch