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国際人権ひろば No.102(2012年03月発行号)
国際化と人権
外国人住民はコミュニティ放送の運営に参画できない!?
日比野 純一(ひびの じゅんいち)
特定非営利活動法人エフエムわいわい代表理事
外国籍住民はコミュニティ放送局の取締役、理事になれない
外国人が多く暮らす街・神戸で1996年から放送を続けている多文化・多言語コミュニティ放送局「FMわぃわぃ」が2011年3月、外国籍の理事就任を総務省に拒まれた。実は、現行の電波法は外国人が放送局の役員(取締役、理事)に就任することを認めていない。地域住民である外国人がコミュニティづくりに参画し、その声がまちづくりに反映されることは、外国人のみならず誰もが暮らしやすい社会づくりにつながる。それにもかわわらずコミュニティのための放送局の運営に外国籍住民の参画を許さない現行の電波法は、時代遅れの法律ではないだろうか。
FMわぃわぃの始まりは、阪神淡路大震災時に在日コリアンが被災者に震災情報を発信したミニFM局にある。その動きに日本人やベトナム人などが合流し、一緒に救援活動に取り組んだ。その活動を震災救援時だけでなく、復興のまちづくりの中に位置づけていくために、多くの市民から寄せられた寄付金や浄財を資本金にして運営母体「株式会社エフエムわいわい」をつくり、1996年1月にコミュニティ放送の免許を取得した。以来、声なき声を社会に伝え、コミュニティの課題解決と異文化間対話の促進に貢献すべく、さまざまな活動を続けてきたのがFMわぃわぃである。
そして2010年度に、より多くの市民が参加するだけでなく、等しくオーナーとして支えていけるコミュニティ放送局になることを目的に「特定非営利活動法人エフエムわいわい」を設立した。
総務省「放送は国民意識の形成にもかかわる。外国籍住民は排除せざるを得ない」
放送局を運営する法人は、60年前に施行された電波法によって、その種別にかかわらず、「外国籍の役員が全役員の20%を超えてはならない」「総会での議決権を持つ正会員のうち外国籍の会員の比率が20%を超えてはならない」ことになっている。放送事業を「株式会社エフエムわいわい」から承継するため、総務省近畿総合通信局への申請を進める過程で、FMわぃわぃもしぶしぶながらそれに従い、理事8人のうち外国籍の理事は1名(韓国籍)の非常勤の理事とし、正会員の外国籍比率も20%以下とした。
そして、総務省近畿総合通信局の担当者にも確認をして、事業承継の申請書類をいよいよ提出しようとしたときに、「この役員構成では放送免許を交付できない」という連絡が近畿総合通信局の担当者から入った。理由を質すと「外国籍の役員が20%以下であっても、その役員に業務執行権があれば、欠格事項となり申請は受理されないことが判明した」という説明がなされた。総務省の本省(霞ヶ関)にも確認をしたところ、業務執行権とは「役員会(理事会)での議決権をさす」というのが公式見解であった。しかし、それは電波法には明記はされておらず、示されたのは次の電波法要説の解釈である。
業務を執行する役員
必ずしも法人又は団体の代表権を有する者のみをいうのではなく、法人等の役員のうちで、その業務執行(定款の変更、会社の解散等のごとき会社の基礎的事項を除き、会社事業に関する事務を執行することをいう。)の権限を有する者のすべてを称し、監査機関たる役員は含まない。具体的には、例えば株式会社においては代表取締役のほか全取締役、民法上の法人においては全理事がこれに該当する。
なお、会社法には「業務執行取締役」という概念がある(会社法 363I(二))が、これに該当しないいわゆる社外取締役であっても、会社の業務執行を決定する重要な意思決定機関である取締役会の構成員として、その決議を介して間接的に業務を執行すると解することができるため、業務を執行する役員に含まれるものと考えられる。
<財団法人電気通信振興会「電波法要説」(今泉至明 著)より抜粋>
特定非営利活動法人エフエムわいわいの理事8人の中に日本の国籍を有しない人が非常勤理事になっていたことについて、総務省はそれが放送事業者の不適格要件(欠格事由)に該当すると判断したのだ。これは、日本の放送局には取締役や理事に一人でも在日外国人がいると、電波法に違反し放送できなくなることを意味する。総務省の担当者は「放送は国民意識の形成にもかかわる。外国籍住民は排除せざるを得ない」と説明する。公共資源である電波が外国人に奪われないため、という理由が60年を越えて多文化・多言語コミュニティラジオ局に襲いかかったのである。百歩譲ってNHKならまだしも、コミュニティのラジオ局にである。この国の情けなさが計らずも露呈した格好だ。
欧州諸国はコミュニティ放送を外資規制の適応外に
確かに、電波は公共の資源であるうえ、社会的影響力が強いとされる放送が外国人に占領されることが国家の安全保障にとってマイナスだという考え方は、日本だけでなく世界の多くの国で支配的だ。日本の電波法が外国籍役員を規制しているのは、公共性の高い放送が他国の支配を受けないようにするためである。
しかし、日本は米国からの要求によって、ケーブルテレビやCS放送の一部には外資規制を行っていない。さらに2011年10月から開始されている新「衛星放送」では、FOXやディズニーなどアメリカの企業が設立した日本法人に放送免許が与えられている。外国資本と分かっても役員が日本人の日本法人を作ったからOKという理屈である。
一方、コミュニティ放送は文字通り、地域共同体のための放送だ。「コミュニティ放送とは、声なき声を社会に伝え、コミュニティの課題解決と異文化間対話の促進に貢献するもの」と国連や欧州議会では定義されている。イギリス、アイルランド、フランス、イタリアなど、隣国と国境を接するヨーロッパの国々も放送局の外資規制を厳しく行っているが、コミュニティ放送には適用をしていない。総務省はコミュニティ放送局の外国人役員就任を認めない先進国は少数であることを認めつつ、「放送法、電波法にはコミュニティ放送の概念がない」と説明するしかない。
日本の放送関連法は、2010年に制定後60年で最も大きな改訂が行われ、2011年にそれが施行されたが、コミュニティ放送については明確な位置づけがなされておらず、放送区域だけの言及にとどまっている。例えば、コミュニティ放送の概念をきちんと定義した上で、総務省令として外国人排除の項目を除くなど、総務省がとれる道はあるはずだ。
「それはオカしい!」という社会の手応えをもとに交渉へ
FMわぃわぃはこの一年間、この問題を広く社会に伝え草の根で市民の理解を広げていくために、神戸、京都、仙台、大阪での対話集会の開催や、この問題を扱った映像の制作・公開、そしてラジオやインターネット、新聞、タウン誌、専門誌を通しての社会発信などの活動に取り組んできた。そして、「それはオカしい!」という確かな手応えを得ることができた。
多文化なコミュニティづくりには在日外国人の参画は不可欠だ。規則(法やルール)は目的を何度もふりかえらないと独り歩きをはじめる。立法の精神と現実が合ってない法律は変えていくしかない。「昔の法律で決まっているから…」で片付けてしまうと大事なチャンスを失ってしまう。
問題の発生から一年。放送関連法によって地域の多文化社会を反映するメデイアとしての積極的な位置づけをコミュニティ放送に与え、外国籍住民の排除を緩和したり、適用除外とするような制度づくりに向け、FMわぃわぃは総務省との本格的な交渉に入る。
2011年12月にFMわぃわぃ、大阪大学グローバルコラボレーションセンター、ヒューライツ大阪が大阪市内で共催したセミナー「外国人住民はコミュニティ放送の運営に参画できない!?♪多文化社会の放送制度を語ろう♪」で報告する筆者