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国際人権ひろば No.103(2012年05月発行号)

人権の潮流

人とのつながりを実感しエンパワメントする居場所が必要 - 児童養護施設出身の当時者活動から見える支援と人権-

新井 智愛(あらい ちえ)
CVV(Children's Views & Voices)副代表

 

新井智愛.JPG
『支援と人権』を考えるワークショップで報告する筆者
 
 

児童養護施設について

 
 私自身が児童養護施設で育ち、現在は、大阪府箕面市にある「萱野中央人権文化センター(愛称:らいとぴあ21)」の総合生活相談員(隣保事業士、パーソナル・サポーター)として働いています。またライフワークとして考えていますが、児童養護施設で生活していたり生活したことのある人たちの集まりであるChildren's Views & Voices(CVV)のスタッフとして活動しています。
 児童養護施設とは、「保護者のない子ども、虐待されている子ども、その他環境上養護を要する子ども(父母の死亡、虐待、行方不明、長期入院、離婚、拘禁、再婚・・・)を、保護者に代わって育てる施設」のことです。現在、全国に約580カ所あり、約31,000人の子どもたちが生活しています。2歳から18歳まで入所できますが、措置延長として20歳まで入れる場合もあります。
 施設形態は、一舎につき20人以上の子どもが住む「大舎制」が最も一般的です。一つの大きな建物の中に調理室、お風呂、トイレなど必要な設備が配置され、一部屋が2人~8人部屋です。男女別・年齢別にいくつかの部屋に分かれており、食事は大きな食堂で一緒に食べます。共同の設備、生活空間、プログラムのもとに運営されているため、管理しやすい反面、プライバシーが守られにくい、家庭的雰囲気が出しにくいなどの問題点を抱えています。
 「小舎制」は、一舎につき12人までの子どもが住むものです。一つの施設の敷地内に独立した家屋がいくつかある場合と、大きな建物の中で、生活単位を小さく区切る場合があり、それぞれに必要な設備が設けられています。普段の生活が小集団であるために、より家庭的な雰囲気で生活を営むことができるのが特徴です。
 これまでの大規模施設の問題点を改善するために、2000年には、「グループホーム(地域小規模児童養護施設)」が制度化されました。ここは定員6名が原則です。
 また2004年から「ユニットケア(小規模グループケア) 」の制度が導入され、こちらも定員6名が原則です。こうした施設は、既存の住宅等を活用しているので、大舎制の施設では経験出来ない生活技術を身につけることができ、また家庭的な雰囲気での生活を体験でき、地域社会と密接な関わりを持てるなど大舎制にくらべて豊かな生活体験を営むことができます。このように、小規模型施設へと少しずつ変化しています。
 
 

私自身の経験を通じて

 
 4歳の時に両親が離婚し、2歳下の弟と児童養護施設に入所しました。その施設は50名ほどの子どもがいる大舎制でした。親権は父親にわたったのですが、父親が育児放棄をして、施設に入れたままどこかへ行ってしまったそうです。
 1994年に日本が「子どもの権利条約」を受け入れたことで、児童養護施設にいる子どもたちの人権問題がようやくクローズアップされました。私が10歳ぐらいの時、ケースワーカーの方が来所し、10歳ぐらいの子どもたちを別室に集め「何か困っていることはないか?」いう質問に、幼馴染の女の子が「ちえのお母さんを探して」と言ってくれました。それから4年後、突然母の身内がきて、母親に引き取られました。施設での生活は約9年間でした。初めて「家族」ができ、母親ができたのですが、どう接したらいいのか、「お母さん」と呼ぶのも違和感しかなく、とても困りました。それでも「助けて」「しんどい」「教えて」と、身内や施設の先生にも言えませんでした。
 また、施設を出たら、知らないことだらけで困りました。電車の乗り方、大きなお金の管理の仕方、健康保険、ゴミの出し方、料理、マナーなど、家族にも「何も知らんな」と言われたぐらいです。そのときは「知らない私が悪い。恥ずかしい」という気持ちで、自分自身をすごく卑下していました。しかし、それは、私のせいでも、施設のせいでもなく、社会が課題を見ていないからではないかという思いがでてきました。私は途中で親が見つかり家庭に戻ったため、周りのサポートのおかげで料理や電車や、社会のルールを少しずつ教えてもらいました。
 
 

C V V の活動をスタート

 
 CVVは、2001年に結成されました。Children's施設にいる「子どもたちの」Views「視点」からものを見てVoices(施設での生活をよりよいものにするために)「発言していく」という意味で名称がつけられました。現在、児童養護施設で生活している中高生や、そこを退所した若者たちの居場所活動を行っています。来てくれた人たちが安心でき、人とのつながりを実感しエンパワメントする居場所であることを大切にしています。研究者や弁護士、学校の教職員など、経験者でない方と一緒に課題について取り組んでいます。
 私自身が退所した時に、「しんどい」「助けて」「教えて」と言えず困りましたが、今の子どもたちも少なからず同じ思いをしているのでは、という思いから当事者スタッフとして関わっています。
 講演会、みんなの会(施設の子どもたちと野外活動)などいろいろ行っているのですが、私が特に力を入れたのが、施設訪問「でまえいっちょー」(ピア・カウンセリング事業)です。施設で育った当事者自身が施設を訪れ、ロールモデルとして見てもらうことで、子どもたちが自分の数年後を想像しやすいのではと思いと、同じ当事者だからこそ、本音で話しやすくなるのではないかという考えから事業をつくりました。
 施設内で「女子による女子だけの女子のための茶話会(中高校生女子対象)」を実施しました。次に子どもたちが、施設から外出する機会を作るために料理教室や社会見学、一時保育のボランティアなどを行いました。子どもたちは参加しながら、施設のこと、将来への不安、進学、仕事、家のこと、親のことなど話してくれました。話をきいていると、施設での生活は、安心してすごしているが、子どもの権利は守られているのか?という思いも出てきました。一般家庭では当り前の意見が、施設にいると「ダメ」「ルールだから」という一言で消えてしまいます。大人数で過ごすから仕方ないことかもしれませんが、退所してから困るのは子どもたちです。
 
 

退所後も堂々と生きていける社会を

 
 先日、CVVからの相談ケースを箕面市のパーソナル・サポートが受けて、CVVや関係機関、保護者などが連携しながら取り組んだケースがありました。これは、私が相談員であり、かつCVVのメンバーなのでうまくつながったのだと思います。本人が児童養護施設を退所後、いろいろあって野宿をしているところをCVVがキャッチし、本人と会うことができました。その後パーソナル・サポートにつないだのです。本人はこれまで自分と向き合うことから逃げ、親からも逃げていました。いやな事があると逃げていましたが、周りの大人たちがサポートした結果、現在は自分と向き合うためにがんばっています。裏切られても、その都度根気よく見てくれる大人や地域の存在が本人を変化させたと思っています。
 「タイガーマスク現象」で児童養護施設の存在が広く知られるようになりましたが、「施設出身」と言うと、よく思っていない人がいるのも事実です。私自身が、前の職場で「施設出身」をカミングアウトしたら、「施設の子はマナーがない」「何か悪い事したの」「障害者に見えない」などと言われることもありました。
 子どもが、1人の人間として生き、あらゆる種類の差別や虐待から守られ、教育を受けて育ち、興味のあることに自由に参加しながら生きていくことは子どもの権利です。施設の子どもたちが、退所した後も堂々と生きていける社会をめざして、子どもたちのリアルな声をひろい、発信していきたいと思います。
 
CVVの活動に関心のある方は
yes_cvv@yahoo.co.jpまでご連絡ください。
(ブログ http://ameblo.jp/cvv/)
 
 
※編集注:この原稿は、2012年3月18日に、ヒューライツ大阪が主催した「『支援と人権』を考えるワークショップ-当事者の人権をまもるため」で、報告者の一人として話していただいた内容をまとめたものです。