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国際人権ひろば No.106(2012年11月発行号)
特集 韓国スタディツアー 地域に学ぶエンパワメントと参加・木浦&ソウルへの旅
社会的企業「わかちあいケア(ナヌム トルボム)センター」 (ソウル市九老区)訪問
社会サービス提供と就職困難層の雇用促進
ツアーのプログラムの最後は、社会的企業「わかちあいケアセンター」を訪問した。事務所は、中小工場が密集していたソウル市南部の九老(クロ)区にある。「わかちあいケアセンター」は、社団法人「ソウル女性労働者会」が設立した「ソウル九老生活の場地域自活センター」で展開している10個の事業体の1つであり、2008年12月に国から社会的企業の認証を受けている。「ソウル九老生活の場地域自活センター」は、低所得など脆弱層の女性たちの自立と福祉をめざして2001年より活動している。
韓国では、2007年に「社会的企業育成法」が制定され2008年から施行された。数年間は、政府から様々な活動支援が得られることもあり、社会的企業が次々に誕生したと聞いた。社会的企業育成法による社会的企業とは、「脆弱階層に社会サービスまたは仕事を提供し、地域住民の生活の質を高めるなどの社会的目的を追求しながら、財及びサービスの生産・販売など営業活動を遂行する企業」である。
「わかちあいケアセンター」の主な事業は、日本でいう介護保険対象となる高齢者の在宅ケアである。社会的企業としての「社会目的」からみると、現状は、脆弱層(就職困難層)とされる55歳以上の高齢者や日本でいう生活保護受給者などの雇用が、全体の8割(26名中、高齢者10名、生活保護受給者など10名)で、利用者は、70名すべてが高齢者など脆弱階層である。収支の方は、2011年も赤字決算(-380万ウォン)で、経営は決して楽ではない。
女性の労働運動の中から生まれた取り組み
土曜日で休業にも関わらず、一行を受入れてくれたのは、「ソウル九老生活の場地域自活センター」長で、「わかちあいケアセンター」代表のユン・ヘヨンさん。ユンさんは、小学校を卒業し、数え年14歳から、九老地区にあった輸出専門の工業団地の縫製工場で働くが、労働時間も法律を全く無視したものだったという。1979年より労働運動に参加したユンさんは、やがて出産や仕事と家事育児の両立など女性労働者の問題を解決しなければいけないと痛感し、1987年のソウル女性労働者会の結成にかかわる。終始にこやかに話をしていたユンさんの人生を聞き、現在はソーシャル・ビジネスの分野で奮闘されている姿に、参加者から共感と尊敬の拍手が起こった。個人経営では、社会的企業の認証がえられなかったため、「わかちあいケアセンター」は株式会社の形を取っている。2012年12月から「協同組合基本法」が施行される見込みで、病院の看護ケアや統合教育で障がい児の補助スタッフ派遣など他の事業体も併せて、協同組合として位置づけたいとユンさんは語っていた。
日本にはまだ社会的企業に関連するような法はない。事前知識も十分ではなく、かつ短時間の訪問になったことが残念で、次回企画の宿題としたい。
これまでの経験とセンターの活動を熱く語るユン代表(左)と通訳の梁京姫さん(右)
2012年度の韓国スタディツアーは、台風と台風に挟まれ3時間遅れのフライトとなったが、日本と韓国の多くの方々のヒューライツ大阪への信頼と応援で、訪問・交流のプログラムを決めることができたことに感謝を申しあげたい。参加者からの感想文は、ヒューライツ大阪のウエブサイトに掲載しているのでご覧いただきたい。
●木浦・ソウル5日間の旅主な日程
8/29(水) 大阪からソウル経由で一路、全羅南道務安郡の全南女性プラザへ(務安泊)
8/30(木) 午前 全南女性プラザとの交流会、施設見学
午後 「木浦女性連帯」との交流会、夜は、「木浦女性連帯」主催の夕食懇談会(務安泊)
8/31(金) 午前 木浦市内見学
(旧日本人街、木浦共生園訪問など)
午後 木浦からソウルへ(ソウル泊)
9/1(土) 午前 聖公会(ソンゴンフェ)大学で、聖公会大学NGO大学院と大阪府立大学女性学研究センター共催のワークショップ「韓国と日本における性暴力・ハラスメント問題をさぐる」
午後 社会的企業「わかちあいケア(ナヌムトルボム)センター」訪問
夕方 自由行動―希望者 「戦争と女性人権博物館」見学(ソウル泊)
9/2(日) 出発まで自由行動、全体反省会、ソウルから大阪へ