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国際人権ひろば No.115(2014年05月発行号)
特集 障害者の権利保障への地方の取組
障害者権利条例づくりの動き
全国に広がる障害者権利条例
2006年10月、千葉県で「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」(障害者差別禁止条例)が県議会において全会一致で可決された。これは、障害を理由とした差別を包括的に禁止する日本で初めての法的文書という点で歴史的な事である。当時の堂本知事のリーダーシップのもと、行政と民間が一体となって、差別などの「やなこと」の事例を集めながら、丁寧にタウンミーティングを重ねてできた。その後、条例制定の動きは各地へと広がり、2011年の障害者基本法(以下、基本法)の改正、2013年の障害者差別解消法(以下、差別解消法)成立を受けて、さらに広がりを見せている。筆者の所属するDPI日本会議も関係団体と共に、千葉県条例成立以降、条例制定運動を全国で展開してきており、その成果が少しずつ表れてきている。
以下、成立順に並べてみた。これらは、当該自治体のホームページで条文から成立過程までの経緯について確認することができる。
千葉県条例(平成18(2006)年10月制定)
「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」
北海道条例(平成21(2009)年3月制定)
「北海道障がい者及び障がい児の権利擁護並びに障がい者及び障がい児が暮らしやすい地域づくりの推進に関する条例」
岩手県条例(2010年12月制定)
「障がいのある人もない人も共に学び共に生きる岩手県づくり条例」
さいたま市条例(2011)年3月制定)
「さいたま市誰もが共に暮らすための障害者の権利の擁護等に関する条例」
熊本県条例(2011年7月制定)
「障害のある人もない人も共に生きる熊本づくり条例」
八王子市条例(2011年12月制定)
「障害のある人もない人も共に安心して暮らせる八王子づくり条例」
長崎県条例(2013年5月制定)
「障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例」
沖縄県条例(2013年10月制定)
「沖縄県障害のある人もない人も共に暮らしやすい社会づくり条例」
別府市条例(2013年9月20日可決)
「別府市障害のある人もない人も安心して安全に暮らせる条例」
京都府条例(2014年3月6日制定)
「京都府障害のある人もない人も共に安心していきいきと暮らしやすい社会づくり条例」
茨城県条例(2014年3月20日採択)
「障害のある人もない人も共に歩み幸せに暮らすための茨城県づくり条例」
鹿児島県条例(2014年3月26日採択)
「障害のある人もない人も共に生きる鹿児島づくり条例」
条例の内容と特徴
条例制定の動きは、2006年に国連の障害者権利条約採択や先述の通り2009年から始まった障害者制度改革を受けた2011年改正障害者基本法と2013年の差別解消法制定の動きとリンクしており、内容に大きな影響を与えている。いくつか概要を紹介する。
千葉県条例は前文、第1章(総則)、第2章(差別の事案の解決)、第3章(推進会議)、第4章(理解をひろげるための施策)、第5章(雑則)の構成で、全36条で構成されている。幅広い障害の定義や差別事例の公表規定、教育における学校の選択権などの内容を盛り込んでいた当初の条例案からは後退したものの、障害者に対する差別の定義を初めて明文化し、知事が相当であると判断した場合は訴訟援助を行うことができる等、画期的なものとなった。訴訟援助規定を持つ法律文書はいまだに千葉県条例のみである。
全国2番目となる北海道条例は細かな差別禁止規定等は行っていないが、「地域づくりガイドライン」をつくり、障がい者が暮らしやすい地域づくり委員会を設置するとし、施行後3年後に改正等の措置を取るとしている。
さいたま市条例(通称は「ノーマライゼーション条例」)は、政令指定都市として初めての条例である。この条例の特徴は差別禁止規定が充実している点である。合理的配慮の定義のほか、個別の教育や労働等の分野において、合理的配慮を行わないことも差別としており、差別に係る事項を調査審議するための「障害者の権利の擁護に関する委員会」をつくるとある。また、24条には、自ら選択した地域で生活をすることや続けることができるための施策を講ずる、とある。教育に関しては「市及び市が設置する学校は、障害者が生活する地域においてそれぞれ必要とする教育を受けることができるようにするため、必要な措置を講じるよう努めなければならない」(29条の2項)。その他、個別条項についても条例としては充実した規定となっており、権利条約の理念に沿ったものと言えよう。
長崎県条例は条文が諸外国の差別禁止法に劣らない「高い」水準のものであり、今後の運用が特に注目される条例である。この条例は2012年9月に内閣府の審議会である障害者政策委員会差別禁止部会で出された「部会意見」iの規定を踏襲している唯一の「部会意見型」である。障害に基づく差別の定義を「不均等待遇」と「合理的配慮の不提供」とし、不均等待遇には機能障害そのものを理由にした直接差別以外にも、機能障害に関連した事由により区別や排除、制限等を行う関連差別の要素も入れられている。さいたま市条例と同様、合理的配慮の定義も注目されるべきものである。また、個別分野の規定も大変充実しており施行後の運用を特に注視すべきだろう。骨抜きにさせてはならない。
その他の熊本県や沖縄県、鹿児島県などは、基本的に基本法や差別解消法をベースにしている「基本法型」である。差別の定義等は基本法4条に即したものとなっている。鹿児島県条例では、差別解消法に規定された差別解消地域支援協議会の設置を規定しており、これからできる条例は障害者基本法と同法4条を具体化する法律と位置づけられている差別解消法の内容から影響を受けるものになると思われる。特色のある条例としてはここでは京都府条例を挙げたい。女性障害者が先頭に立って運動した結果、同条約2条基本理念に「全て障害者は、障害のある女性が障害及び性別による複合的な原因により特に困難な状況に置かれる場合等、その性別、年齢等による複合的な原因により特に困難な状況に置かれる場合については、その状況に応じた適切な配慮がなされること」という障害と女性という二つの要因による複合差別に言及する条文ができた。画期的なことである。
まとめ-条例の必要性
障害を理由とした、あるいは障害に関連することを理由とした差別を無くしていくことを目的に、条例づくりを行ってきた。何が差別に当たるのかを決めること、実際に何かが起きたときに相談でき、解決できる仕組みが条例の肝となる。解決できる仕組みにはあっせんや差別行為を行った者への勧告や公表ということはもちろん大切であるが、地域の理解を得るための仕組みも重要である。
国の法律として差別解消法が成立してはいるが、「差別」や「合理的配慮」の定義はなく、紛争解決の仕組みも既存の相談の仕組みを利用するという脆弱性をもつ。生まれたての法律なので仕方ない部分もあるかもしれないが、差別解消法の弱い部分を条例が補うという意味で条例の必要性は今後ますます高まる。新潟県や奈良県など各地で条例の検討が行われている。この動きを障害者団体としても引き続き条例制定運動を展開することが求められる。
i : 差別禁止部会意見は、以下、内閣府のホームページを参照→
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/seisaku_iinkai/pdf/bukai_iken1-1.pdf