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国際人権ひろば No.116(2014年07月発行号)

人権さまざま

「グローバル」という落とし穴

白石 理(しらいし おさむ)
ヒューライツ大阪 所長

世界人権宣言
第1条
.....人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神を持って行動しなければならない。
 
 
 「国際競争を勝ち抜くグローバル人材を育てる」、「国際的に活躍できるグローバルリーダーの育成」。教育の現場で「グローバル」という言葉がもてはやされている。「グローバル」とは英語で「地球規模の」とか「世界的な」という程度の意味であろうか。地球儀、地球を表す「グローブ」からくる。
 
 しばらく前までは、「国際」という言葉がはやっていた。「国際化」、「国際...大学」、「国際...学部」など。「国際的に活躍されている」というのは、立派な褒め言葉であった。忘れてはならないのが、「国際人権都市大阪」という壊された看板。
 
 「国際」は国と国とを分ける壁、国境を前提としているのに対して、「グローバル」は国の仕切りも壁もない地球全体を、人やモノがそこで自由に動き回ることができる空間ととらえる。今はこの意味でグローバル化の時代である。
 
 文部科学省が2014年度から始めた「スーパーグロ-バルハイスクール」。「将来、国際的に活躍できるグローバルリーダーを育成するため、グローバルな社会課題を発見・解決できる人材や、グローバルなビジネスで活躍できる人材の育成に関する教育課程等の研究開発を行う高等学校及び中高一貫教育校を新たに『スーパーグローバルハイスクール』に指定し、国内外の大学や企業、国際機関等との連携による質の高い教育課程等の開発・実践やその体制整備を支援することとし」た。そこでは「生徒の社会問題に対する関心と深い教養、コミュニケーション能力、問題解決力等の国際的素養を身につけ」ることを目指すという。
 
 大阪では、大阪府教育委員会が府立高校を10校「グローバルリーダーズハイスクール」に指定して、大阪の国際競争力を強化するためにグローバル人材を育成するという。あくまでも「競争に勝ち抜く人材の育成」を目指す。求められる人材の理想像は、グローバル市場で競争に勝ち抜くビジネスリーダー、政治、外交で日本の立場を強化し、国益を守ることができるリーダーなど。「グローバル」と言いながら、国の垣根が垣間見える。
 
 2012年9月、国連事務総長は、「グローバル教育第一イニシアティブ」に着手した。そこで挙げられた3つの重点課題の一つに「グローバル市民を育てる」教育がある。この「グローバル市民教育」と日本でいわれる「グローバルリーダーを育てる」こととは同じことなのか。
 
 グローバル市民教育の「グローバル」は、地球に住むすべての人と社会を視野に考える。「普遍的な価値」とか、「差異を越えて、国の壁を越えて、互いに協力し合うこと、すでに切っても切れない関係にある世界中の市民が共に生きること」の意味がその言葉に込められている。決して、競争に勝ち抜くことや特定の国の利益を優先することを意味しない。
 
 グローバル市民教育は、社会、政治、文化そしてグローバルな課題を理解し解決する人を育てることをめざしている。その教育理念は、平和、人権、社会正義、ダイバーシティの受容、持続可能な開発など、現代社会に生きる人として最も大切にすべきこと、すなわち「普遍的価値」を基礎としている。このようなグローバル市民教育は、平和教育、人権教育そして持続可能な開発教育と重なり合う。
 
 グローバル市民教育は、21世紀に生きるために必要な能力の育成をその中心に置く。まず、科学技術を含むグローバル課題や社会の出来事に関する知識と理解。そして世界で通用する「普遍的価値」の理解と尊重。次に、 思考力、問題解決能力、決断力の習得。さらに、協力的、協調的な関係や言葉の習熟を含むコミュニケーション能力の向上。最後に、社会のための行動力の体得である。
 
 グローバル市民教育が目指すのは、地域社会でそしてグローバルな規模で、より公平で公正な社会、平和、寛容、安全で持続可能な社会を実現するために積極的に貢献できる人を育てることである。
 
 グローバル化の時代に必要な知識の獲得 、自分のものにした知識をどう使うかという技能の習得、そして人との関係を含めたコミュニケーション力の強化ということでは、日本の「グローバルリーダーの育成」と上に述べた「グローバル市民教育」は共に、その必要性、重要性を強調している。異なっているのは、グローバル市民教育の拠って立つ基礎的理念が、平和、人権などを含む「普遍的価値」であること、そしてその目的が、「グローバル」な視点をもって公平で公正な社会、平和、寛容、安全で持続可能な社会を実現するために貢献できる人を育てることである。
 
 世界の現状は、武力紛争、領土紛争、飢餓、深刻な人権侵害、経済的、社会的格差の拡大、環境汚染など、「グローバル課題」に溢れている。国と国とが駆け引きで自国の利益を守ろうとする国の枠組みでは、対処し解決できない問題が多い。「国を守る」こととは別の次元で平和と安全に取り組むことが必要であり、自国の国際競争力強化、経済的発展や自国のエネルギー資源、食糧の確保以上の「グローバル課題」としての開発課題、資源、食糧問題に関わることが大切ではないか。
 
 「市場原理」や「競争力」という、力の強い者、恵まれている者の視点からではなく、力の弱い者、恵まれない者の視点からグローバル課題に取り組むことができる「グローバルリーダーの育成」を求めたい。