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国際人権ひろば No.117(2014年09月発行号)
特集 東北アジアにおけるビジネスと人権
国外でのビジネス活動における人権 -韓国企業の事例から-
ヒューライツ大阪は、「人権ベースの司法アクセスのためのアジア連合」(HRBA2J-Asia)に参加しているが、HRBA2J-Asiaは、2013年度から新たなプログラムとして東北アジアにおけるビジネスと人権について中国、韓国、モンゴル、日本の取り組みと実状について調査を進め、2014年にその報告として“Bridging Human Rights Principles and Business Realities in Northeast Asia”(英語)を発行した。その中から、ヒューライツ大阪の英語ニュースレター”FOCUS”に掲載された韓国と中国についての報告の要約を紹介する。(編集部)
海外韓国企業監視(Korean Transnational Corpo-rations Watch、略称KTNC Watch)
1は、人権、企業の社会的責任(CSR)、エネルギー・気候変動、労働問題など様々な分野で活動しているNGOのネットワーク組織で、海外でビジネスを行う韓国企業をモニターし、企業活動から引き起こされる問題を明らかにするために結成された。2013年には、韓国企業による人権侵害が起きているといわれていたフィリピン、ミャンマー、ウズベキスタンの3か国を現地訪問し調査を行った。調査チームは、そこで労働者、韓国企業の役員、企業の操業地周辺の住民、現地政府役人に対して聞き取りを行った(2014年3月)。
フィリピンの事例
韓国企業は1960年代からフィリピンにおいて事業を展開してきた。現在、多くの韓国企業が、製造業、建設業、造船業など多様な部門で事業を進めている。韓国の海外直接投資額でみるとフィリピンへの投資額としては2番目に多い。韓国企業は、フィリピン国内で上位1000社に入るものも多く、フィリピンの経済界において大きな役割を担っている。
フィリピンにおける現地調査は、経済特区で事業を行っている韓国企業を対象とした。訪問した2つの特区のうちのひとつ、スービック経済特区では、韓国の大手の海運・建設会社が2006年2月に事業を開始し、現在数千人の労働者を雇用している。
この韓国企業で働く労働者たちは、自分たちは十分な身分保障がされていないと訴えている。インタビューした労働者によると、フィリピンの労働法において、彼らを下請け業者に雇用されている形にして間接雇用にするか、非正規職員にすることで、正規社員として雇用することを回避しているようである。
こうした現状は、社内での労働組合の結成にも影響がある。造船会社の労働者は2007年から労働組合の組織化をすすめていた。しかしながら、組合運動を始めるやいなや、リーダーたちは解雇されるか異動させられた。企業側は、解雇の理由をリーダーたちが強盗や窃盗事件に関わったとか、職務怠慢であるからだと説明した。しかし、労働者側は、労働組合活動を妨害するためにやったと主張している。また、労働者たちは職場の事故についても訴えている。労働災害から労働者を守る十分な安全な措置が取られていないのだという。
地方政府の役人とスービック経済特区の3者機関(経済特区の産業秩序の向上と保護のための政労使機関)へのインタビューで、労使関係と労働安全に関し、現在、問題が生じていることを確認した。特に、企業が下請け業者を有していたり、被雇用者を正規労働者として認めないという問題が、かなりの数に上っていることがわかった。労働安全に関しては、地方政府が、時々、会社に対し現地の労働法規を順守するよう要求しているという。しかし、韓国企業は、地方政府当局と話をせずに、中央政府機関と直接話をする傾向にある。
ミャンマーの事例
ミャンマーで事業をしている50社近い韓国企業のほとんどが繊維産業である。ミャンマーでは2011年の労働組織法(2012年に施行し、結社の自由が認められた)の成立を含め、国内の経済改革や自由化が進められた。その結果として、韓国企業におけるの労使間の衝突が2012年から増加した。
調査チームは、ミャンマーの労働関係のNGOの助けを借りて、韓国企業5社から8人の労働者にインタビューを行い、次の情報を得た。
1)低賃金…繊維産業の労働者の賃金は、労働時間が長い割に低い。超過勤務は事実上強制される構造になっている。住居手当は生活費の必要最低限に達しない。
2)長時間労働…低賃金のため、労働者は超過労働せざるをえなくなっている。なかには、企業が日曜日も働くように求めた契約書にサインするよう要求する場合もある。所定労働時間44時間の法令はほとんど遵守されていない。
3)十分な休憩時間がなく、劣悪な労働条件…ほとんどの事例において、労働者は昼食時間として45分間の休憩しか取ることができない。午後11時まで働く場合は、15分間の夕食と休憩の時間が与えられる。
4)児童労働…15歳未満で働く子どもは工場において一般的である。彼らは大人たちと同じ労働条件で働く。
5)健康への権利の侵害…ミャンマー政府による医療保険制度ではほんのわずかしか保障がない。女性労働者は生理休暇または出産休暇の権利が与えられていない。結婚した際に1日の休暇が与えられる。病気による休暇は給料の減額を意味する。多くの労働者は長時間の超過勤務が原因で健康を害している。
6)その他の権利侵害…労働者は労働組合を組織できるが、多くの場合、組合の責任者や組合員は解雇されるか、もしくは処罰されている。2012年の集団デモの余波により、いくつかの工場の労働環境は向上した。しかし、韓国企業は、御用組合以外のいかなる労働組合も認めようとしない傾向にある。靴を製造するある企業の場合、2012年のストライキに参加した労働組合員は解雇されてしまった。
ウズベキスタンの事例
ウズベキスタンは、年間100万トンもの綿花を生産し、綿花の5大輸出国の一つである。綿花栽培は国の大きな財源となっていて、国家が独占的に綿花を買い上げ輸出している。韓国国有企業と民間企業の共同事業体(以下、「コンソー
シアム」)は、2010年からセルロース工場を操業し、ウズベキスタンの綿花産業に関わりはじめた。
調査チームは、2013年9月に、学校や綿花農場を訪問したり、現地活動家へのインタビューで情報を得たが、ウズベキスタンの綿花産業における状況の概要は次のようなものであった。
1)15~18歳の生徒が強制的に綿花農場で働かされている。
2)成人の強制労働が増加している。
3)綿花の栽培に教員が動員されるため、初・中等教育の学校の生徒の教育を受ける権利が侵害されている。
4)子どもの賃金労働者も増加しているが、それは成人労働者が強制労働を回避する方策として、子どもを雇用して自分の代わりに働かせるためである。
5)こうした状況をモニタリングする活動家に対する2013年のウズベキスタン政府の監視の目は、例年に比べて一層厳しくなっている。
ウズベキスタンの法律によって禁止されているとして、コンソーシアムは、ウズベキスタンの綿花農場での子どもの強制労働の存在を否定している。しかし、関連する法令は適切に履行されていない。加えて、その法律があるからといって問題が存在しないことにはならない。現地調査の結果、ウズベキスタンの綿花産業における子どもの強制労働は、疑う余地なく存在している。
コンソーシアムや他の韓国企業による強制労働の存在の否定により、これら企業はウズベキスタンの綿花産業における人権侵害に加担していることになる。これら企業は子どもおよび成人に対する人権侵害を調査する際、そしてそのような侵害や侵害による結果を防止し、改善する際に、デューディリジェンス
2を実施しそこねてきた。
コンソーシアムがとった対応は、ウズベキスタンでの子どもの強制労働と自分たちがつながっていることについて、韓国の世論がネガティブな反応をするのを懸念したからであろう。予測通り、コンソーシアムは、強制労働の削減にはほとんど取り組まず、KTNC Watchの調査チームによる第三者監視システムの導入を考慮することを拒んでいる。コンソーシアムはその理由を工場に韓国の管理職を4人しか配置していないし、ウズベキスタン政府を刺激したくないからだと説明している。
(翻訳 黒原杏衣)
(注)
1: 海外韓国企業監視(KTNC Watch)の連絡先:APIL(Advocates for Public Interest Law)URL : www.apil.or.kr
2: 人権侵害を未然に防ぐために、侵害が起きる可能性を特定し、これに対処するための方策