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国際人権ひろば No.118(2014年11月発行号)

特集 国際基準にてらした日本の人権状

日本に出された宿題 -自由権規約委員会、人種差別撤廃委員会の日本報告審査の総括所見

 2014年7月に自由権規約の第6回報告、8月には人種差別撤廃条約の第7・8・9回報告がそれぞれの条約委員会に審査され、いずれも懸念事項や勧告を含む総括所見が出された。総括所見は、それぞれの条約によって条約の履行状況をモニターするために設置された委員会が,締約国の条約の実施状況について条約に照らしてまとめたものであり、締約国には誠実に対応することが求められる。日本は両条約の次回の報告に、今回出された勧告にどのように対応したかを述べなければならない。以下が今回の総括所見にあげられた懸念や勧告である。
 

 自由権規約委員会、人種差別撤廃委員会両方であげられた勧告

 
・前の報告審査の際に出された勧告の多くが実施されていないことについて懸念、総括所見にあげられた勧告を実施する。
・パリ原則に沿った国内人権機関の設置を検討する。
 

 自由権規約委員会による総括所見

 
・規約の裁判所での適用 自由権規約を裁判所で使えるように、裁判官や弁護士に研修し、個人通報制度の受入を検討する。
・ジェンダーの平等 女性に対して差別となる。女性だけに対する再婚禁止期間,男女で異なる結婚最低年齢などの民法を改正する。
・クォータ制や暫定的特別措置(ポジティブアクションなど)によって公的な場への女性の参画を拡大し、雇用について、女性のフルタイム雇用を促進、賃金格差を縮小し、セクシュアル・ハラスメントを罰する措置をとる。
・女性に対する暴力 強姦の親告罪、構成要件などの見直し、性交同意年齢の引き上げなど性暴力に対する措置をとり、ドメスティック・バイオレンスが適切に処罰され,緊急保護命令や移住女性の在留資格の維持など被害者に対応する。
・性的指向、ジェンダー・アイデンティティに基づく差別 性的指向、ジェンダー・アイデンティティを含むあらゆる理由に基づく差別を禁止し、被害者を適切に救済する包括的な差別禁止法をつくり、LGBTの人びとに対するステレオタイプや差別に取り組む。
・ヘイトスピーチと人種差別 人種差別や憎悪の唱導、宣伝,またそのようなことを唱えるデモを禁止し、人種主義的攻撃を防止、処罰するための措置をとる。
・死刑制度や死刑囚の処遇 死刑の廃止を検討,少なくとも死刑が科される犯罪を最も重大なものに限定するよう減らす。本人および家族に対して執行の予定日時を事前に知らせるなど、本人の収容が残虐で非人道的な取扱いにならないようにする、義務的で効果的な再審査の制度を確立する。
・「慰安婦」に対する性奴隷慣行 「慰安婦」制度の被害者の訴えを公正に捜査し、加害者を訴追、処罰し、被害者に対して完全な救済を提供,公に謝罪する。教科書にこの問題を記述し、一般の人びとに知られるようし、被害者の侮辱や起ったことの否定を非難する。
・人身売買と強制労働 人身売買の問題において、強制労働の被害者の認定手続を強化し、労働基準監督官など関連当局にこの問題について研修する、人身売買の加害者を訴追、処罰し、被害者の保護を強化する。
・外国人技能実習制度における搾取、虐待 虐待や強制労働のような事態が起る技能実習制度をより能力開発に重点をおいた別の制度に変えることを検討する、実習制度の現場の立ち入り調査を強化し、苦情申立て制度をつくり、違反者の訴追、処罰を行う。
・精神障害者の非自発的入院 多くの精神障害者が非自発的入院を強いられることについて、このような入院が最後の手段として必要最小限の期間のみに行われるようにする、施設内の虐待を防止し、救済を提供するために監視し、報告できる体制をつくる。
・刑事司法手続における代替収容制度 取調べを受ける人が、未決拘禁を別の施設ではなく、警察の留置場で収容する代替収容制度、または代用監獄に収容することによって自白強制が行われる危険が高まるため、この制度を廃止するか、弁護人をつける権利を逮捕時から保障し、取調中の弁護人の立ち会い、取調べの時間制限や方法の規制、拷問や虐待の申し立てを調査する独立した審査制度などを確保する。
・難民認定申請者の強制退去 強制退去手続中に虐待が起きないようあらゆる適切な措置をとる、不認定処分に対する取消し申立て中は強制退去が停止されるような制度とする、収容は代替措置がない場合のみの最小限の期間とする。
・ムスリムに対する人種的プロファイリング 日本に住むムスリムの人に対して行われるような、特定の人種や宗教のみを根拠とする警察などの監視活動は許されず、その影響を受けた人が救済を得られるようにする。
・宗教の自由 宗教や信念を受け入れたり、有する自由を侵害する強制を受けないようにする。
・思想、良心の自由への制限 人権を制限する根拠として使われる「公共の福祉」の概念が規約のもとで認められる制限よりも広いことについて、規約の認める制限を超えて思想、良心,宗教、宗教の自由を制限しない。
・特定秘密保護法 この法の下で、秘密として指定される情報が狭く定義され、情報を受け、伝える権利の制限が均衡性、必要性などの原則に沿ったものとし、国の安全保障を害しない、正当な公益のための情報の発信をした人が処罰されないようにする。
・福島原発事故と住民の安全 被災地の放射線レベルをモニターし、情報を住民にタイムリーに提供し、放射線レベルが住民にリスクを及ぼさないようにならない限り避難区域指定を解除すべきではない。
・体罰 体罰を撤廃するために立法を含む措置をとり、暴力を使わない懲戒や体罰の弊害についてキャンペーンを行う。
・先住民族の権利 アイヌ、琉球・沖縄の人びとの土地と自然資源の権利を保障し、彼・彼女たちに影響を及ぼす政策については、事前に十分情報を得た上で参加する権利を尊重し、その子どもたちが独自の言語により教育を受けることを促進する。
 

 人種差別撤廃委員会による総括所見

 
・人種差別禁止法 国内の法律に条約の1条に沿った人種差別の定義を入れ、人種差別の被害者が法的救済を求めることができるよう人種差別を禁止する法をつくる。
・留保の撤回 人種主義の扇動やそのような活動の援助、それらを行う団体の禁止などを規定する条約4条(a)、(b)に日本が付している留保を撤回し、その規定を実施するための刑法などを改正する。
・ヘイトスピーチ 外国人、マイノリティ、特にコリアンに対する人種主義的デモなどのヘイトスピーチの蔓延に対して取り組み、インターネットやメディアにおけるヘイトスピーチに対して適切な措置をとり、責任者に対して捜査、適切な場合は起訴し、ヘイトスピーチを行う公人に対して適切な制裁を科し、教育などにより根本原因に取り組む。
・外国人技能実習制度 技能実習生に対する賃金未払いなど権利の侵害に対して、制度を改正する。
・公的生活への参加 家庭裁判所の調停員などの国家権力の行使にあたらない公務や他の公的生活への外国人のアクセスを促進する。
・国民年金へのアクセス 国民年金法の国籍条項廃止の際、その時点での年齢など配慮されずに無年金となっている外国籍の人が受給資格を得られるよう措置をとる。
・公共の場や施設へのアクセス 公共の場のアクセスについて外国籍の人が差別されないよう、適切な措置をとり、啓発する。
・人身売買 防止措置をとり、被害者に対して適切な支援を提供し、責任者の訴追、処罰を行い、警察官、入管職員などに被害者の特定や保護について研修を行う。
・外国人女性に対する暴力 配偶者の在留資格で滞在する外国人女性が在留資格の喪失をおそれてDVなど暴力から逃れられないことがないよう、入管法を見直す。
・「慰安婦」 「慰安婦」の権利の侵害について調査し、責任者を処罰し、被害者に適切な賠償など救済を提供し、「慰安婦」問題の否定、被害者の中傷を非難する。
・朝鮮学校の「高校無償化」からの排除 高校授業料就学支援金制度からの朝鮮学校の排除を撤回し、地方自治体が朝鮮学校への補助金を維持または再開するよう働きかける。
・アイヌ民族の権利 アイヌ政策推進会議や他の協議機関のアイヌ代表者の人数を増やし、アイヌの人とそれ以外の人との間の格差是正を進め、土地、資源、文化、言語に関する権利の実現のための措置をとる。
・琉球・沖縄の人びとの権利 琉球・沖縄の人を先住民族と認め、権利実現のための措置をとり、彼・彼女たちの代表との協議を進める、琉球の言語の維持のための措置をとり、琉球の人びとが自分の言語で教育を受けることを促進し、教科書に沖縄・琉球の歴史と文化を含める。
・部落の人に対する差別 部落の人びとに対する差別が条約のいう「世系」に基づく差別にあたることを確認し、戸籍情報の不正取得の事件を調査し、責任者を処罰する。
・難民、難民認定申請者の処遇 難民、難民認定申請者に対する差別が起らないよう、理解を促進する、申請者の収容は最後の手段として最短期間のみとし、無国籍者の保護のため、その認定の手続をつくる。
・マイノリティの子どもの教育 アイヌ、琉球の人びとや他のマイノリティの子どもに対する、それぞれの言語の教育、それぞれの言語による教育を促進し、教科書にその歴史、文化などを反映させる。
・ムスリムに対する人種的プロファイリング ムスリムの人びとに対して民族的、宗教的プロファイリングを行わないことを確保する。
 
(岡田 仁子 ヒューライツ大阪)
 
注:総括所見の仮訳はヒューライツ大阪のウェブサイトに掲載しています。
 自由権規約委員会 https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section3/2014/07/post-110.html
 人種差別撤廃委員会 https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section1/2014/09/829.html