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国際人権ひろば No.122(2015年07月発行号)

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ヒューライツ大阪が辿る道

山脇 和夫(やまわき かずお)
ヒューライツ大阪 副会長

 アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)は、2014年、設立20年目を迎えた。会員をはじめとする関係者の協力を得て、人権パネルの制作や人権映画祭の開催などの記念事業を行い、その締めくくりとして12月14日に
「記念講演とシンポジウム」を開催した。2009年から行政の補助が打ち切られるなど、ヒューライツ大阪を取り巻く運営環境が厳しい中の取り組みであったが、国内では数少ない「人権情報センター」の役割と存在感を示せたと思っている。
 
 2008年12月の「新公益法人制度」の施行を受けて、ヒューライツ大阪は「一般財団法人」に移行することを理事会で選択し、大阪府に移行認定・移行認可を申請した。2012年4月1日に認可を受け一般財団法人に移行したことから、理事・監事・評議員を新たに選任するなど、新しい運営体へと移行した。
 
 「一定の目的のために提供された財産を運用するため、その財産を基礎として設立され営利を目的としない法人」と一般財団法人法では規定されている。当財団の運営は、旧財団法人から引き継いだ「特定資産」をもとに、認可された「公益目的支出計画」に沿って事業を展開しており、既に三年が経過した。特定資産の運用環境が1994年の設立当時から大きく変化し、収益事業の収入確保にも限界がある。今後の運営のあり方と存続への対応が問われている。
 
 定款は「大阪の国際交流並びに府民の国際的な人権感覚の醸成に寄与するため」、①情報収集・研究、②調査・研究、③研修・啓発、④広報・出版、⑤情報サービス、⑥人材育成、⑦人権の国際基準の普及・広報事業を行うと定めている。人権に取り組む団体は多々あるが、国内で「国際的な人権感覚の醸成」を目的としている団体は数少ない。世界人権宣言第二条は「……この宣言に掲げるすべての権利と自由を享有することができる」と記しているが、この定款は、大阪の地からこの精神の具体化を図るものだ。
 
 2015年6月に開催された当財団の評議員会で、2006年5月に理事に就任され、かつ所長としてヒューライツ大阪の運営に腐心・貢献された白石 理氏が、理事と所長を退任された。当初の予定から一期半(3年)任期を延長して
頂いたが、ご本人の強い申し出もあり辞任が評議員会で認められた。残念だ。企業の活動分野に関わる人権課題は、国内ではあまり重きがおかれていなかったが、投じられた一石は多くの企業から注目されている。今後もアドバイザー的役割を、お住いのジュネーブの地から果たして頂きたいと念願している。なお、後任には阿久澤麻理子理事に所長代理としてその任に就いていただくことになった。
 
 今、ヒューライツ大阪は大きな転機を迎えている。卓越した指導者が去り、厳しい組織運営は依然として続いている。また、日本国内に限らず世界各地における「排外主義や右翼勢力」の台頭等、人権をないがしろにする流れが拡散している。このような時に何をなすかが問われている。
 
 4月からヒューライツ大阪に新しいスタッフを2名迎えた。情報収集・発信の更なる充実と、より幅広い分野への
活動を進めている。固定概念や既定の活動理念にとらわれることなく、街頭のヘイトスピーチやネット上の誹謗・中傷等に、世界人権宣言の精神でどう向き合うかを発信しなければならない。同時に、劣化した商業報道の「補完」
ではなく、マスコミ報道をリードする問題提起も求められている。人材・予算・時間も限られており、間口を広げすぎるとトンネルから抜け出せなくなる懸念も残るが、壁を破らなければ現状打開はない。人権を取り巻く環境が大きく変化しているが、そのような時代への的確な対応を進めるべく、ネットワークと情報量の拡充をより進めなければならない。ニュー・ヒューライツ大阪としてチャレンジしなければならない。
 
 アベノミクスの恩恵は富裕層を中心に広がっている。格差是正が叫ばれて久しいが、円安や株高で益々拡大している。その最たるものが「雇用」だ。政府は労働者派遣法を
全面的に見直し、「生涯派遣」で働き続けるルールの導入を目論んでいる。現在の派遣法は、「原則1年(最長3年)」というルールだが、これを撤廃しようとしている。超高齢化で社会保障システムが揺らいでいるが、この見直しは労働者の間の「雇用格差」の固定化と、社会保障の仕組みの崩壊を意図するものだ。
 
 世界人権宣言の前文は「……加盟国自身の人民の間にも、また、加盟国の管轄下にある地域の人民の間にも、これらの権利と自由との尊重を(中略)効果的な承認と遵守とを国内的及び国際的な漸進的措置によって確保することに努力するように、すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準として、この世界人権宣言を公布する」と記されている。派遣法の改悪は、この考え方を根底から崩すものだ。
 
 ヒューライツ大阪が辿る道を改めて考えさせられた。